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実技試験は命がけ?

 実技の特訓はバッチリ。筆記試験は…正直ちょっと不安。でもクロマさんがつきっきりで教えてくれたんだ。きっと大丈夫。


 ツルギたちの後押しを受けて、あたしはこれから魔法試験に臨む。この成績次第では、更に上級の魔法使いに昇格できるんだ。

 早く優秀な魔法使いになりたい。それはみんなの役に立ちたいというのもあるけど、実はもうひとつあった。


「では、これより筆記試験を始めます。時間は一時間。よーい…はじめ」


 ヴァン先生。あたしのことを将来有望と言ってくれた人。

 そんな人、今までにいなかった。その期待に答えたいというのも、密かな目的だった。




 魔法塾に入る前は、町の小さな魔法学校に通っていた。もともと魔法との相性が良かったということなのか、あたしは順調に呪文を習得していき、クラスの中でも一番の成績を残せるまでになっていた。


 でも、全てが順調というわけではなかった。


 通い始めて数年経ち、何度目かの定期試験の後、ひょんなことから同級生の会話を聞いてしまったのだ。



『またあいつが一番かよ…。先生にも気に入られてるし、癪に障るぜ』

『結局は成績優秀が贔屓されるのね。二位以下の私らは面白くないっての』

『本当だよなぁ。なんとかあいつ、一番から降ろせないもんかね』



 自分のことだとはすぐわかった。こんな性格をしてるあたしだから、言わせておけと最初は気にしなかった。

 でも、だんだんと疑念が沸いてきた。仲のいい生徒は何人かいたが、もしかしてみんなも同じことを思ってるんじゃないか?

 そう考え始めると、思い込みが止まらなくなった。友達とは自然と距離をとるようになり、それを感じた友達もまた、あたしから離れていったのだ。



「マジーナ? どうしましたか? 筆記試験はもう終了ですよ」


 目の前でヴァン先生の怪訝な表情が現れた。我に帰ったあたしは慌てて答案用紙を差し出す。


「はい、ご苦労様です。では皆さん、次は実技試験ですので、外に出てください」


 外に出ると、近くの森の入口に案内された。


「先生、実技試験は…?」


 生徒の一人が、不安そうに尋ねる。


「もちろんここで行いますよ。この森の中を一周し、ここまで戻ってくること。それが試験内容です」


 周囲がざわついた。魔法の試験は今まで何度か受けてきたけど、こんなのは受けたことはない。

 これがちゃんとした試験なんだろうか…? そんな思いが頭をよぎったが、先生の言うことに間違いはないはず。あたしは森の入口で準備を整えた。


「これをクリアすれば合格なんですよね? だったら頑張りますよ、あたし」

「よろしい。他の皆さんも準備してください」


 先生の言葉か、先駆者に触発されてなのか、他の生徒も続々と集まり始めた。


「幸運を祈りますよ。それでは、実技試験スタート!」


 先生の一声で、あたしたちは一斉に森の中へと駆け込んでいった。




 薄暗い中を進むうちに、生徒はみんな散り散りになっていた。だけど気にしている余裕はない。あたしはどんどん先へと走る。なぜなら―――。


「ウガアァァァ!!」


 魔物が飛び出して来るのだ。こんなこと、聞いていなかった。塾周辺には魔除けの結界が張られていると聞いたが、森の中までは影響がないのだろうか。


「邪魔よ! "レール"!」


 魔法で魔物を退けて、その場を後にする。早くこんな所を出て、あの人の所に戻らなきゃ。



 ヴァン先生とは学校の在学中に出会った。周囲から孤立して、しばらく経った頃だ。

 先生は学習意欲のある若い魔法使いの話を聴いて回っていると言っていた。色々な町の学校を訪れ、思い悩む魔法使いを見つけては、進路の提案をしているのだと。

 そこで、周りと馴染めていないあたしはピッタリの人材だったに違いない。先生は優しい眼差しで、あたしに声をかけてくれた。



「あなたは将来有望な魔法使いです。私の目に狂いはありません。一緒に、高みを目指しませんか?」



 正直、最初は嬉しさと、自分にそんな才能があるのかという疑いで気持ちは半々だった。でも、あの人の顔からは煽てているという感じはなかった。


 何より、偏見なしにあたしのことを見てくれる人に言ってもらえたら、嬉しさが勝たないわけがなかった。あたしは迷うことなく、魔法塾に入ることを決めたのだった。




「で、出た…? ここは…森の外?」


 数々の魔物と険しい道をくぐり抜け、遂に森を抜けたようだ。辺りはいつの間にやら暗闇に覆われ、月明かりすらない。誰の気配もない。


 そこに、拍手の音を響かせながら近づく声がした。


「ええ。どうやら、あなた一人のようですね、マジーナ」


 ヴァン先生だ。口元に笑みを浮かべ、こちらに近づいてくる。

 あまり気にならなかったが、目は冷たいような気がした。


「ああ先生…。あたし、合格…?」

「その通りです。さぁ、塾舎へ戻りましょう。おいでなさい」

「あの…他のみんなは? 全員揃ってからでも…」

「後で構いませんよ。さぁ早く」

「…わかりました」


 疲労でクタクタのあたしは、ふらふらと先生の後を追った。



 塾舎に戻ると、先生はあたしを椅子に座らせた。何か、合格の証のような物を渡されるのかな?

 そこに、ヴァン先生が帰ってきた。


「お待たせしました。マジーナ、今回の試験は見事なものでした。教師として、鼻が高いですよ」

「そんな。先生の教え方が良いからで…」

「嬉しいことを言ってくれますね。では、合格祝いも兼ねて、ご褒美をあげないといけませんね…」


 ご褒美? 一体何を…? しかし、なんとなく流れが理解できた。先生は少しずつ顔を近づけてくる。


「せ、先生!?」

「動かないで。怖くないですから…」


 こ、これは…。まさかそんな…。あたしはそんなつもりで頑張ったんじゃ………いや、それは嘘だと、自分でもわかっている。


 認めてもらいたい。あたしの才能を見抜いて、進むべき道を教えてくれた先生に。


 その先生の顔が、唇が、すぐ目の前にある…。このまま身を任せても、悪くない…。


 その時、塾舎の扉が勢いよく開く。そこには見慣れた顔が四つ、暗闇に並んでいた。

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