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廃校は思い出の場所?

 アニマと名乗った男は、頭を下げるバレッタたちに歩み寄ると気さくに声をかけた。


「まぁまぁ、そんなにかしこまらず。むしろこちらが頭を下げたいくらいで。どうぞ楽にしてください」

「…そうですか? ではお言葉に甘えて。みんな、今回のご依頼主のアニマ市長だよ。もちろん知ってるとは思うけど」


 アニマ市長は軽く頭を下げた。さっきからの話し方といい所作といい、身分を鼻にかけない人なんだろうと思える。


「市長が、わざわざうちに依頼を?」

「ええ。というよりは市民の方々の要望と言った方が正しいでしょう。皆さんの活躍は聞き及んでおりますから、私から依頼したのです…。ちょっと失礼」


 そこで、別の女性が市長に横槍を入れた。仕事の話だろうか、何かの紙を差し出して耳打ちする。


「市長、こちらの件についてですが」

「うむ、この前伝えておいたようにしてくれたまえ。よろしく頼むよ」

「承知いたしました」


 女性が去ると、市長は再びアニキたちに向き直る。


「話を戻しましょう。依頼ですが、第十地区の廃校に行っていただきたいのです」

「第十地区の…廃校ですか?」


 僅かに苦い顔をして尋ねるバレッタ。少なくとも、意気揚々と事務所を出た時とは明らかに違っていた。


「ええ。実はそこで、近所の子供たちが集まって遊んでいるようで。例の集団の怪物騒ぎも、ここ最近増えているでしょう? もしものことがあれば大変ですからね。早いうちに手を打っておきたいのですよ…すみません、また失礼」


 市長はこちらに背を向け、今度は別の女性と話し始めた。


「…うん、それは後回しにしても…だめかい。わかった。目を通しておくから、私のデスクの上に」


 そして再びこちらに向き直ると、話を続けた。


「いやぁ申し訳ない。というわけなので子供たちには退いてもらって、あそこを立入禁止にしていただきたい。よろしいですかな?」

「わかりました。これから向かいましょう。…行けるか、バレッタ?」

「…ああ。問題ないさ」


 最後にバレッタの耳元でそっと囁くアニキ。二人の間で何かあったのかわからないが、何やら訳ありの様子だ。



 その後、市長の言う廃校とやらに向かう五人。役所から目的地までは近いらしく、徒歩で向かっていた。

 そこを出た直後、ジェシカは我慢していたのか堰を切ったように口を開いた。


「あー、なんだか疲れちゃった。ああいう場所ってニガテなんだよね」


「お疲れ様です。それにしても、市長さんお忙しそうでしたね。話の途中にもお仕事が舞い込んで来てて」


「確かにそうだけど、あちしには面倒ごとを部下に丸投げしてるように見えたな」


「そ、そうですかね…?」


「まぁしかし、これだけ大きな都市の長ともなれば、仕事の量も責任も生半可なものではないだろうね。役割分担は大事なことだよ」


「そうとも言えるかもッスね。でも、バレさんも人が悪いな。市長に会うんなら、そう言ってくれれば良かったのに」


 ジェシカの文句に、バレッタは反応しなかった。聞こえていないのか、それとも何かに気を取られているのか。


「あの、バレさん?」

「うん? …ああごめん、ボーッとしてたよ。依頼者が市長だって、何で言わなかったのかってことだろ? ちょっと驚かそうと思っただけ。それだけさ」


 バレッタの様子がいつもと違うことを察したのか、誰もそれ以上追求はしなかった。



 ものの数分で、目的の廃校には到着した。正門には草が生い茂り、長い間手入れがされていないことが想像できる。建物の方も、窓は割られていたり壁にひびが入っていたりとボロボロだ。


「ここですか、例の廃校は」

「そうだな。ちょうどお客さんもいるようだぜ」


 広間には、市長の言っていた通り子供が数人、遊んでいた。アニキはその一団に声をかける。


「おーい、お楽しみのところ申し訳ないけど、そろそろお家に帰ってもらえるか」

「げっ、大人が来た。なんだよー、ここなら気づかれないと思ったのに」

「しょーがねえ。別んとこで遊ぼうぜ」


 子供たちは特に抵抗することなく、その場を後にした。


「やれやれ、近頃のガキはどこでも遊ぶんだな」

「ははは、ある意味逞しく生きているね。だが、最近は遊べる場所も少なくなっているとも感じる。その辺は考慮してあげてもいいのではないかな?」

「ま、そうとも言えるな。でもこちとら仕事だ。どうしたって帰ってもらわねえと…」


 アニキは市長に用意してもらった立て札を正門前に突き立て、『危険につき立入禁止』と書いた。更に鎖を幾重にも張り、簡単には入れないようにした。


「これでよし。さて、やることは済んだし帰るか…」

「子供もすんなり帰ったし、簡単だったね。市長、お礼どんくらいくれるかな」

「あ、あの、ちょっと待ってください。バレッタさんは?」


 見ると、バレッタの姿だけなかった。ここに来た時は確かにあったはずだ。


「あいつ、まだ中か? もしかしてあそこか…」


 心当たりがあるのか、アニキは張ったばかりの鎖を潜り、廃校の中へと戻っていった。ハウたちもその後に続く。


 内部がわかっているかのように、アニキはどんどん先へ進んでいく。とある室内に、バレッタはいた。椅子に座って頬杖をつき、物思いに耽っているように見える。


「やっぱここか。いつの間に中に入ってたんだ?」

「…ああみんな。ごめん、勝手に離れて。こっそり中を見てみたくなってさ」

「二人とも、この学校のことをよく知っているようだね。もしかしてだが…」


 エールも僕と同じことを考えていたらしい。となると、予想していた答えも一緒かもしれない。


「わかっちゃったか。そう、ここはアタシと、マズルの母校なのさ」


 バレッタはアニキに目配せし、アニキは黙って頷く。

 続けてバレッタは、意を決したように話し出した。


「…やっぱりみんなには話しとこうか。あのカサンドラが過去を打ち明けたのを聞いて、アタシもそうしようって思ってたんだよね」


バレッタは、自らの過去を語りだした―――。

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