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相棒は姉御肌?

バレッタ=R

マズルの同僚にして腐れ縁の女性。勝ち気で面倒見の良い性格。

 目の前には見慣れない世界、そして人々。唯一知っているのはマズルだけ。腕に紐のような物が通され、僕らの世界とは少し違うがベッドに横たわっている。


「それにしてもよかったよ。命に別状なくって。一時はどうなるかと思ったんだから」


 マズルの側で頬杖をつく女性。バレッタと呼ばれていた。長い金髪に腕と脚を大胆に見せた格好で、彼女はずっとマズルにつきっきりだった。


「まぁ、俺もあん時は死んだと思ったな。まさか蜂の仲間の針にやられてたとはな」

「そうそう。あの後なんとか追っ払ったからどうにかなったけど、その後救急車を手配したり、色々手続きしたりで大変だったんだよ。感謝しなさいよ?」


 二人の関係はよくわからないが、病人に対してなかなかキツい言い方をする人だと思った。だからこそ、付き合いの長い関係なのかもしれない。


「わかってるって。俺も色々大変だったんだ…」

「大変って、ベッドで寝てただけじゃないか。先生は解毒はすぐに済んで、奇跡的に異常はなかったんだって。それからずっと昏睡状態だったんだろ?」


 マズルは何か言おうとして、口をつぐんだ。きっと、僕らの世界で"追体験"をしていたということを伝えるべきか、考えているんだろう。僕がマジーナに話した時と同じように、信じてもらえないと予想するのが普通だ。

 そこでマズルは、急に思い出したように口を開いた。


「そういや、俺はどんくらい眠ってた?」

「んーと、アンタが倒れてから、ざっと一日半くらいかな」

「…なるほど。だいたい同じ時間か」


 おそらく、僕の世界で過ごした時間のことを言っているのだろう。それを知らないバレッタは、怪訝な表情で尋ねた。


「なんだい、同じ時間って」

「なんでもねーよ。ところで、俺の退院の目処は?」

「午後には出られるってさ。さっきも言った通り、身体には何も異常なしだって言うからね」

「そうか、わりぃな。面倒かけて」

「気にすんなって。さて、ちょっと先生と話してくるから、待ってなよ」


 バレッタは席を外し、扉の向こうに消えた。残されたマズルは、不意に僕の立っている方向を向いて話しかけてきた。


「…やっぱり見える。あいつが言ってたことはマジなんだな」


 セタという男が言っていた言葉。夢と現の狭間では、お互いの姿が見え、会話もできるという。ベッドで横になっているだけで、その条件は満たされるようだ。


「そうですね。あのバレッタという人、僕のことは見えてなかったみたいですし」

「ああ。このこと話しても、きっと信じないだろうからな。お前みたく、脳みその心配されるのがオチだ」

「はは、確かに。…それにしても不思議な世界ですね。ここ、怪我人や病人を手当てする場所なんですか?」

「そんなとこだ。今俺は毒にやられて入院してる。んで、体調には問題ないから、もうすぐ退院するってわけだ。わかる?」

「なんとなくわかります。だけどこんな所、僕らの世界にはないから新鮮だなぁ」

「お前らの世界の魔法のが、俺からしたら新鮮だし、便利そうだがな。…しかし、お互い様とはいえ、やっぱりやりにくいな。近くから見られているって…」


 その時、扉を叩く音がし、バレッタが入ってきたので、会話は途切れた。


「お待たせ。退院の手続き済ませてきたから、支度して帰ろう」

「おう。ありがとな」

「ちなみに支払いは心配しないでいいからね。なにしろ…」

「依頼人からの前金、か?」


 マズルの一言に、バレッタは驚きを隠せなかった。


「そうだけど…何でわかったんだ?」

「別に。そんな気がしただけだ。早く帰ろうぜ」


 マズルは上着に袖を通し、先に出ていった。慌てて後を追うバレッタに続き、僕も部屋の外に出た。




 病院を出、二人が向かったのは別の建物。スーパー…と言っていた。どうやら買い物をする場所らしい。

 カゴを片手に商品の置かれた棚を眺める二人。バレッタは心配そうにマズルの顔を窺っている。


「本当に大丈夫なのかい? 病み上がりなのに買い物に行こうだなんて」

「いいんだって。身体はどこも悪くねぇ。俺が言ってるんだから信用しろよ」

「まぁ、アンタは冗談言うような奴じゃないからね。そういうことなら遠慮しないよ」


 そう言いながらバレッタは、カゴに商品を次々と入れていた。


 買い物を終えた二人は、大量の荷物を運んでいた。もしも僕の身体がそこにあったら手伝ってあげられるのに、そう思うほどに重そうだった。


「ふぅ…。ちょっと買い過ぎたかね」

「いいだろ。また買いに行く手間が少しは省ける」

「だね。あの前金、ざっとひと月は暮らせるくらいあったし、買いだめしといたっていいよね」


 ひと月は暮らせる前金。僕らと同じだ。やっぱりセタが置いてった物なんだろう。


「そういえば、俺の銃は?」

「ああ、アレなら事務所だよ。あんたが眠ってる間に、アタシが運んどいたのさ。バイクも一緒にね」


 バイク。それがどんなものかはわからなかったが、ジュウというものは聞いたことがあった。身近にはなかったが、遠い異国で使われている武器だとか。マズルはそれを得物にしているのか。でも、ここは魔物もいない世界だし、必要があるのかと疑問になった。


「そうか。だったら早く事務所に戻らねえとな」

「なんだい、不安なのかい?」

「そういうことじゃない。この街は油断ならないとこだって言いたいだけで…」


「ひっ! キャアアアっ!!!」


 その時、後ろから女性の悲鳴がこだました。声の方向を振り返ると、男が全速力でマズルとバレッタの間を通り抜けていった。


「ちょっと、大丈夫?」


 倒れた女性に、バレッタは声をかけた。女性はよろよろと立ち上がり、呼吸を整えていた。


「だ、大丈夫です…。でも私の、バッグが…」


 さっきの男に盗られたらしい。男は一目散に走り、住宅街の曲がり角を曲がったのが見えた。

 マズルとバレッタは目配せすると、マズルだけが男の後を追い、駆け出していた。


「あの、あなた方はもしや何でも屋さんの…」

「そう。安心しな。アンタのバッグ、絶対取り返すから」


 頼もしく言ったバレッタ。二人とも正義感が強い人なんだと思ったが、次の一言で印象が変わる。


「悪いけど、この荷物ちょいと預かってくれよ。取り返しのお代はしっかりいただくけど、少しばかり負けてあげるからさ」

「はぁ……」

「じゃ、よろしくね」


 それだけ伝えて、バレッタも駆け出した。…なんというか二人とも、逞しい人たちなんだな。

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