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合流編Ⅶ・前

 セタにより、ツルギ一行とマズル一行は今回も魔獣討伐の場に集められた。それぞれが再会を喜び合う中、マジーナとバレッタは少し違っていた。


「どしたの? マジりんもバレさんも、あちしんとこ来て」


 二人とも、真っ先にジェシカの元へとやって来たのだ。理由はそれぞれ違うものだった。


「あいや、身体はもう大丈夫なのかなってね。けっこう酷かったみたいだったし」

「大丈夫ッスよ。一日二日休めば大概治るんで」

「身体大丈夫かって、何かあったの?」


 ジェシカの風邪を知らないマジーナはバレッタに尋ねる。


「ついこの前まで、風邪引いてたのよこの子。そんな状態で魔獣と戦わせるのも気が引けるってモンでしょ」

「そうだったんだ。まぁ、無理はしてほしくないけどさ」

「で、マジりんは何の用なの?」

「ああそうそう。実は………」


 マジーナはカサンドラの事情を話し始めた。夫と娘がいたこと、両方を別々の理由で喪ったこと。だが、ジェシカと娘が重なって見えるということは伏せていた。


「ふーん。そんで?」


 全てを聞き終えたジェシカは、それだけを返す。


「それでって…。何とも思わないの?」

「何とも。あのオバさんには家族がいたけど、今は二人ともいないってことっしょ? ま、多少気の毒だなーとは思うけど」


 涼しい顔のジェシカときょとんとした顔のマジーナ。表情は違えども、互いの言いたいことがわからないという具合だ。


「だ、だから、そういう過去があったんだからもうちょっと仲良くしてくれないかってこと。一応、あなたとカサンドラさんは縁の仲間だってセタさんも言ってるんだし…」


「なに? 可哀想だから仲良くしてあげてってこと? それ、なんか違くない? あの人の事情とあちしは何の関係もないよね?」


 拳を握りしめ、唇を噛むマジーナ。何かをぐっと堪えているのが見て取れる。


 互いの事情を知るツルギとマズルは、不穏な空気を察したのか、それぞれに声をかけた。


「ジェシカ、カサンドラはな…」

「マジーナ、実はジェシカは…」


 しかし遅かった。ジェシカの一言で空気は一変する。



「はぁ、悲劇のヒロイン気取りかよ。やんなっちゃうね…バカみたい」



 マジーナはツルギの制止を振り切り、ジェシカに向かって駆け出していた。次の瞬間、マジーナの平手が空を切った。

 パチンと弾ける音が空間内に鳴り響き、他の全員も二人の方を振り向く。ジェシカの頬に、赤い手形がついていた。


「いった…。なんなのマジで?」

「と、取り消してよ…。今の言葉!!」


 今度はジェシカの腕を掴み、涙目で訴えるマジーナ。ジェシカは怒らず、マジーナから目を背けながら抵抗した。


「ちょ、やめてよマジりん。…ホント痛いんだけど」

「やめない…。あんたが謝るまではね!」

「おいやめろ二人とも。んなことしてる場合じゃ…」


 仲裁に入ろうとするマズルだったが、その前にマジーナの手を制する者がいた。


「お止めいただけますか? 仲間内でのいざこざは、何卒お控えくださいませ」


 セタだった。普段の物腰の柔らかさは健在だが、言い知れない威圧感があった。

 その圧力にジェシカとマジーナ、ツルギとマズルまでもが思わずたじろいでいた。


「私はこの狭魔獣の討伐に全てを賭けていると言っても過言では御座いません。そのために皆様へのサポートや御礼も十分させていただくつもりです。ですから、勝手な行動は慎んでいただきたく存じます。よろしいですね?」


「あ…はい。わかりました」

「…へいへい。サーセンでした」


 マジーナはジェシカから手を離した。

 とりあえず場の空気を収束させたセタは、満足げに笑みを浮かべ、全員に号令をかける。


「…では皆様、魔獣の元に案内いたします。本日もよろしくお願い申し上げます」


 セタの後をついて歩き出す一行。マジーナはバレッタの側について離れなかった。


「ちょっと、歩きにくいよ」

「…ごめん。でも、あたし…」

「うちのアルバイトが迷惑かけて悪いね。アンタも手出したのはやり過ぎだとは思ったけど、アタシは味方してあげるからさ、元気出しなよ」

「バレ姉…」


 いつの間にか、カサンドラもマジーナの側に来ていた。マジーナの頭に手を置き、言った。


「マジーナ、気持ちはありがたく受け取っておこう。だが私も、人の心に強要はしたくないのでな。そこは理解してほしい」

「…うん、ごめんなさい」



 一方、そこから離れて歩くジェシカはマズルと歩いていた。


「大丈夫か? 顔とか、腕とか」

「こんなんヘーキッスよ。お気遣いどーも」

「そうか。まぁ、俺がどうこう言えたモンじゃねえが、あんまり波風立てないでやってくれ。向こうと関係がギクシャクすんのは避けたいからな」


 マズルは辺りを見回し、話に花を咲かせるエールやクロマ、ワカバやハウを一瞥した。


「…わかってるッスよ。あちしも、わざわざ喧嘩したいわけじゃないんで」

「それならいい。お前の事情も、理解してるつもりだからな」

「あざっす。やっぱマズさん、話がわかる…」


 そこでジェシカは、マジーナに掴まれた方の腕に違和感を覚えて視線を移した。ワカバが彼女の手を治療していたのだ。


「治してあげる。元気出してジェシカさん」

「ほっぺたも治した方がいいんじゃありませんか? ワカバ君、手伝うからお願い」

「うん、了解」


 ハウに抱きかかえられたワカバはジェシカの頬に触れ、癒しの力を注ぎ込む。瞬く間に、赤みは引いていった。


「…あんがとね、ワカちゃん、ハウりん」


 ジェシカは普段あまり見せない笑顔を見せた。

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