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国王の依頼は難題?

 謁見の間に入ったツルギたちを待っていたのは、小太りの体型に白い髭を蓄え、赤い王冠を被った、ザ・王様というような人物だった。この男がハルトダム王国の王に間違いないだろう。


「おお、来てくれたか。わしがハルトダムの王じゃ。遠いところ、ご苦労であったな」


 ハルトダム国王は初対面で一般の戦士であるはずのツルギに対して、威厳はありつつも労いの言葉をかける。カサンドラの言っていた人となりは本当のようだ。


「い、いえ。勿体ないお言葉で…。僕…私どもも、お会いできて嬉し…違う、光栄でありまして…」


 焦ってる焦ってる。流石のこいつでも、一国の王の前ではこうなるか。ツルギの弱みを握れた俺は少しいい気分になった。


「ほっほ、苦しゅうないぞ。そなたらの活躍はカサンドラより聞いておる。なんでも魔王城付近にて、強大な魔物を退治したと。それ以降も、町のために尽力してくれているそうじゃないかね?」

「い、いえ、それほどでも。カサンドラさんの力が大きいですから」

「おごり高ぶらぬその姿勢、見上げたものじゃ。よし、そなたらを信頼してひとつ頼みがある。それが呼び出した理由なのでな」


 国王は召使いと思しき男を介して一枚の書状をツルギたちに渡した。カサンドラの持っていた物と同じような装飾が施されている。


「それを隣の国『リンド王国』へと届けてもらいたい。馬車は一台手配しよう。急ぎの用事ではないゆえ、しっかり頼むぞ」

「り、リンド王国…でございますか、陛下?」


 カサンドラは驚いたような困ったような、普段あまり見せない表情をして尋ねた。動揺しているようにも見える。


「左様。確かそなたの故郷だったはずじゃな? たまには一度帰るのも良かろうと思うてな。先程も言ったが、急ぎの用事ではない。ゆっくり帰っても構わんのでな…」

「…ありがたきお言葉です。このカサンドラ、陛下に一層の忠誠を誓いましょう」


 カサンドラと国王は、事情が飲み込めないツルギたちの前で謎のやり取りを交わした。




 それから数時間が経った頃、ツルギたちは馬車に揺られ、隣国を目指していた。向かい合わせの三人がけの座席にそれぞれ座り、気を遣ってくれたのかツルギの隣の空席に俺は座った。


「はぁ、王様から怒られるようなことはなかったけど、なんだか面倒なこと頼まれちゃったわね」


 渡された書状を眺めながら、マジーナが呟く。国王と面識のあるカサンドラが傍にいるのに毒を吐くとは、大した度胸だと思った。

 だがカサンドラは意に介した様子はなく、ずっと窓の外を見ている。故郷の景色を懐かしんでいる、といったところだろうが、どこか寂しげな雰囲気を感じた。


「まぁまぁ、ただ手紙を届ければいいだけだし、そんなに大変な仕事じゃないと思うよ。馬車だってわざわざ出していただけたんだし」

「ですが、王様は魔物を討伐した私たちを信頼してとおっしゃいましたよね? もしかして、すごく大変な依頼なんじゃ…。リンド王国は、実は無法地帯だったりして…」


 マジーナをなだめるツルギに、クロマは不安を煽るように横槍を入れる。また悪い癖が出てしまったようだ。


「ちょーっとクロマさん、あんまり怖いこと言わないでってば…」

「す、すみません。色々考えてたらつい…」

「…先程から好き勝手なことを。リンド王国は私の故郷だと聞いたであろう。あそこは想像しているような場所ではない。ハルトダム王国に比べれば劣るやもしれんがな…」


 カサンドラはそれだけ言うと、再び窓の外に視線を移した。

 気まずくなった四人は口を閉ざし、目的地まで沈黙が流れる。





 そしてまた数時間が経った頃、一行はリンド王国の王城入口にいた。ただし、用事を済ませて出てきたところだ。


「んー、終わった終わった。なんだか拍子抜けしちゃったわ」


 大きく伸びをしながら、マジーナは呟いた。

 リンド王国の王は不在とのことで、頼まれた手紙は城の兵士に渡し、あとはこちらで国王に話をつけるから帰って良い、と言われたのだ。

 そう言われてしまってはどうしようもないと、ツルギたちは城を後にするのだった。


「とりあえず安心しましたね。お城の人たちも良い人そうでしたし、カサンドラさんの言った通りでした」


 クロマはカサンドラに向けて言ったつもりだったが、彼女は気づいていなかった。どうも、ハルトダム国王から依頼を仰せつかった頃から様子がおかしい気がした。


「あの、カサンドラさん?」

「…ああすまない。そうだな、この国は良い所だ。自分で言うのもなんだがな」

「ホント、景色も綺麗だし見たことないお店もたくさんあるし、ちょっと寄り道していきたいなー。なんて」

「早く帰った方が良くないか? 王様は、急ぎの用事ではないって言ってたけど」

「む〜。そう言われると逆に後ろめたい気分になるわね…。仕方ない、今日は帰りますか」


 ツルギたちは馬車の元へと歩を進める。

 足を動かさなかったのはカサンドラと、緊張のためかずっと黙っていたワカバだった。


「どうしたワカバ? 皆と一緒に行かないのか?」

「カサンドラさんも一緒に行かないと。だけどなんだか様子がおかしかったから、気になっちゃって」


 ワカバの目にもそのように映っていたようだ。あるいは、魔物特有の感覚のようなものかもしれない。

 図星を言い当てられたカサンドラは、珍しく笑みをこぼした。


「ふふ…。ワカバに見抜かれるとは、私もまだまだだな」

「ぼくだってわかるよ。いつものカサンドラさんと違ったもん。何か言いたいことがあるなら、話してほしいな…?」


 純粋無垢な眼差しを向けられたカサンドラは、意を決したように独り呟く。


「そうだな…。ありがとうワカバ。おかげで決心がついた。皆にもきちんと話しておこう」


 そうしてカサンドラは、先を歩くツルギたち三人を呼び止めた。


「ツルギ、マジーナ、クロマ。帰る前に、一緒に来てほしい場所がある。良ければ、私に皆の時間を預けてほしい」




 その後、カサンドラの頼みを呑んだツルギたちは、彼女の案内でとある場所へと連れられた。

 そこは海岸沿いに白い石が等間隔に並べられた、いわゆる墓地だ。


「カサンドラさん、連れてきたかったのって…。ここは墓地…よね?」


 荘厳な風景に戸惑ったのか、マジーナはおずおずと尋ねた。


「いかにも。場所はここで間違いない。ここには私の…大事な人が()()、眠っている」


 カサンドラは傍らの墓石を指し、静かに言った。

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