突然の呼出で大慌て?
ジェシカ、レベッカ、そしてフリント。三人の顔を思い浮かべながら眠った俺は、気がつくとツルギたちの家で目を覚ました。
あの一件は解決したのか?これまでは一段落ついたことで追体験は終わり、交代するはずだった。
「どうやら、戻ってきたみたいですね。僕の世界に。でも今回は早かったですよね」
ツルギも同じことを考えたらしい。やはり不可解に思うのか。
「そのようだ。なんだか知らんが、俺らにどうこうできるもんじゃねぇし、こっちでのお前の役目を果たしてもらうほかないな」
「ですね。アニキも早く帰れるよう、努力しますよ。それじゃ、行きますか」
ツルギは寝室を飛び出した。
早く帰れるように、か。まぁせいぜい頑張ってくれと、俺は心の中で呟いた。
「あれ、ツルギ? 今回は早くない?」
開口一番、マジーナはきょとんとした表情で尋ねた。クロマ、ワカバとテーブルを囲み、その上にはタルトのような菓子が置いてある。
「そうなんだ。向こうでの出来事が解決したのかわからないけど、とにかく目が覚めたらここに」
「そ、そっか~。まぁ早く帰れたなら良いことね。うん」
マジーナは少し取り乱している。視線がツルギと、菓子に交互に注がれていた。
「…どうかした? マジーナ」
「な、なんでもないのよ。別にあんたが寝てるうちにみんなでお菓子でも食べようとかそんなんじゃ…」
「あの、マジーナさん…」
クロマは苦笑い混じりにマジーナを諌めるが、時すでに遅しだ。マジーナの奴、意外と抜けてるな。
「まぁ楽しそうでなによりだけど。でもリーダーを差し置いてだなんて、悲しいなぁ」
「わ、わかったわよ。ほら、みんなで食べましょ」
マジーナは椅子を引き、ツルギを迎え入れる。席についたツルギは、全員を見回して尋ねた。
「どうも。ところで、カサンドラさんは?」
「あの人なら出かけてるわよ。なんでも、王様から呼び出されたんだって」
「そういえば王様から認められた聖騎士って言ってたよね、カサンドラさん」
「私たち、考えてみればすごい人と仲間になっていたんですね。国王と顔見知りの人なんて、そうそういませんから。それに戦闘はもちろん、家事も私以上にできますし…」
その聖騎士が、ちょうど玄関を開けて帰ってきた。いつ見ても重そうな鎧と槍で武装している。それは平時でも手放せないのだろうか。
「ただいま帰った。全員揃っているか? おお、ツルギも目覚めているのか。ならば都合が良かった」
「おかえりなさい。今からみんなでおやつの時間ですけれど、食べます?」
「いや、せっかくだが結構だ。それよりも皆、今すぐ支度を整えて出発するぞ」
カサンドラは槍を背負い直し、親指で背後の扉を指した。
「今からって…あまりにも急じゃないですか? あたし、朝から何も食べてないのに…」
「悪いがマジーナ、答えを待つ余裕はないのだ。何しろ、命令だからな」
「命令? 誰のです?」
カサンドラは一枚の紙を取り出した。それには、前にどこかで見た豪華な装飾が施されている。…思い出した。カサンドラが仲間になった時、国王から認められた証として見せられた書状だ。
「国王陛下から直々にお呼びがかかった。私だけではなく、このパーティ全員にだ。至急、謁見の間に来るようにとのことだ」
頭の整理が追いつかないのか、ツルギたちは少しの間ポカンとしていた。
それから言われた通りに支度を素早く済ませたツルギたちは、この国の王が住まう城に向かって歩いていた。
不安と緊張からか、誰もが口数少なく、黙々と歩いている。やはり一番慣れているカサンドラは、全員を安心させようとしてか声をかけた。
「初めてのことで致し方ないとは思うが、そう固くならずともいい。国王陛下は寛大で争いを好まないお方だ。この辺り一帯で暮らしていればわかるであろう?」
盗賊やそれに加担する騎士などはいたが、俺の見る限り城下町では争い事や喧嘩などはこれまでほとんど見られなかった。温厚な王が治める国だからこそということなのか。
「そうは言っても〜…。やっぱり緊張するなぁ。あたしたち何かいけないことしたのかな…?」
「申し訳ないが、陛下がなぜ呼び出されたのかまでは聞いていない。だがまさか、罰せられるようなことはないと思うが」
「僕、ドラシル族で魔物だから、その場で処刑されたりとか…ないよね?」
「大丈夫ですよ。…きっと。ワカバ君は危険な魔物じゃないって、見ればわかりますし…多分」
勇気づけるつもりで言ったのだろうが、クロマの自信の無さがかえって不安を煽っている気がした。
そうこうしているうちに、五人は城の前に到着。門番にカサンドラが話をつけ、いよいよ城内へと入っていく。
国王の元にたどり着くまでの間は、本日一番の沈黙が流れた。おしゃべりなマジーナも、マイペースなワカバも、一言も話そうとしない。俺も空気を読んで、息を殺していた。
そして一際大きな扉の前に着き、兵士数人がかりで開かれる。そこはおそらく、謁見の間だ。




