合流編Ⅵ・前
「…そうなんですか。ご両親が」
「そうなんですよ。前々からずっとそんな感じでして」
セタに招集されたツルギたちとマズルたち。会話を弾ませているのはハウとワカバ…ではなくクロマだ。
「ハウさんも色々とご苦労なさっていると聞きましたし、仲良くなれそうな気がしたんですよ」
「それほどでも。だけど話を聞いたらボクもそう思えてきました。よかったら、これからも仲良くしてください」
「もちろんです。ふふっ」
「はい。えへへ」
その様子を、あえて離れた場所から見ていたマズルたち。意外な組み合わせに驚きを隠せなかった。
「あの二人が仲良くなるとは、想像してなかったな」
「僕も。でもそれほどちぐはぐな組み合わせでもないような気がします」
「ええ。実に微笑ましい光景ではないでしょうか?」
セタはハウとクロマに視線を注いだまま答えた。いつの間にか、ツルギとマズルの間に立っている。
「突然出てくんな。つーか、いいのか? お前の言う縁の仲間ならハウとワカバ、エールとクロマの組み合わせになるはずだろ?」
「それはおっしゃる通りです。ですがお仲間である以上、他の方々と絆を育んでいただいても不都合はありません。むしろ新しい可能性が開けるかもしれませんし、私としては大歓迎ですよ」
言葉の端々に自分本意さが見えるセタ。そこにマズルではなくバレッタが噛みついた。
「ずいぶん勝手な言い方じゃないか。アタシらが会えたのはアンタのおかげだけどさ、全部アンタの思惑通りってのもなんだか癪だね」
「申し訳ありません。少々言葉が過ぎたかもしれません。訂正してお詫び申し上げます」
「まあまあ。いいじゃないバレ姉。友達の輪が広がるって嬉しいし」
マジーナはバレッタの腕を引いてなだめた。
そのマジーナの腕を、ジェシカが抱き寄せていた。
「…なに? ジェシカ」
「いや、セタっちの話聞いたら、あちしもみんなと仲良くしたいなって。だからさ、ダチんなろ。マジりん…」
「あ、うん。わかった。わかったから、そんなにくっつかないで…」
今度は身体に腕を回すジェシカに翻弄され、マジーナはフラフラとその場を離れていった。
ジェシカが他人と仲良くしたいと申し出る理由は、全員が予想できていた。一人残されるカサンドラにバレッタは近づき、声をかけた。
「うちのジェシカが毎度失礼するね、カサンドラ」
「気にする必要はない。無理に絆を深めさせたいとは思わないからな。向こうにその気がないのであれば、仕方がない」
カサンドラは僅かに悲しげな表情を覗かせる。バレッタはその心情を汲んでいた。
「…悪いね。あの子にも悪気はないと思うから、大目に見てやってよ」
「ああ。それよりも、エール殿は大丈夫なのか? 怪我をしていた様子だが」
「問題なさそうだよ。ほら、あれ」
バレッタの指す方向では、ワカバがエールの腕にツタを巻き付け、癒しの力を使っていた。
「うん、すっかり良くなった。ありがとうよワカバ君。これでまた剣が握れる」
「どういたしまして。その程度の傷なら、ボクにかかればちょちょいのちょいだよ」
「ははは、頼もしい限りだね。私たちも、彼女たちのようにもっと仲良くなれるかもしれないね」
「ボクもそう思う。よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくね」
ワカバとエールは、固い握手を交わした。
それぞれの挨拶、もといスキンシップが終わった後、セタは号令をかける。
「それでは皆様、狭魔獣の元へ向かいましょう。此度もご活躍に期待しております」
セタの後ろを歩き始める一行。
その道中、エールはクロマに問いかけた。
「仲直りできたそうだね? ご両親と」
「えっ、ええと、仲直りと言えるかわかりませんが、わだかまりは少し消えたかな、と」
「そうか。それなら良かった。キミが極端に控え目なのはご両親の教育方針だと聞いて、かける言葉を探していたんだ」
「私のために…ですか?」
「もちろんそれもある。しかしね…」
その時、一行の前に魔獣が見え、エールは言葉を切って剣を構えた。
それはおよそ生物には見えない、不思議な姿をしていた。




