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盗賊退治は骨折り損?

 ひたすらに、町の中を駆けるツルギとマジーナ。俺もその後を、二人を見失わないように必死に追いかけていた。やがて、市場のど真ん中で店に押し入った盗賊たちに追いついた。


「ちょっとあんたたち、待ちなさいよ!」

「…ちっ、しつけえな。何か用かい、お嬢ちゃん?」


 盗賊は全員で三人。手には短剣やら研いだ爪やらを装備している。当然というか、ツルギとマジーナよりも歳上と見受けられた。

 だが、彼女は臆することなく、盗賊たちに詰め寄る。


「用があるから来てんのよ。さっきの食事代、弁償しなさい」

「…へ?」


 盗賊はきょとんとした。大方、追いかけて来たのは店の奴で、自分たちが奪った小袋を取り返しに来たと思ったのだろうが、予想外の返答に面食らっているようだった。


「そ、そうだ。ついでに、そのお金も還してもらうぞ」


 ツルギは横槍を入れた。言わなくてもよかったのに、と俺は思った。

 盗賊たちは状況を整理したのか、顔を見合わせて笑い始めた。


「ぷっ、ハハハッ! 何かと思えば、お前らあの店の客か。これが欲しいって? 正義の味方気取りかい?」

「ごっこ遊びなら学校でやるんだな。それとも、保育園かな?」

「パパとママが恋しいだろ? 早く帰った方がいいんじゃないの〜?」


 ケラケラと笑う盗賊たちを前に、マジーナは再び拳を固く握って激昂した。


「うぅぅ…あったまきた!! ツルギ、やっちゃうわよ」

「はいはい。もうこうなったら言っても聞かないもんな…」


 ツルギはマジーナを止めることもせず、剣を抜いて臨戦態勢をとった。盗賊たちも、攻撃の姿勢を見せていた。


「あーあ、もう知らねえぞ。こっちは忠告したんだからな。多少痛い目見せてやらねえといけないみたいだな…」

「それはこっちの台詞よ。行くわよ…。はあぁっ、"エル"!!」


 マジーナの声とともに、小さな火の玉が空中に現れた。火の玉は、そのまま盗賊たち目がけて向かっていく。


「げっ、お前、魔法使いか!? 畜生、厄介だな…」


 何事かと集まってきていた野次馬たちは驚き、巻き添えを避けようと散り散りになった。

 盗賊たちはすんでのところで火球を避け、この混乱に乗じてと思ったのか後退を始めた。


「こら待て、逃げるな! 弁償しなさいっての!」

「マジーナ待って、深追いは危ないから…」

「何言ってんの。逃げられたら意味がないでしょ。きっちり決着をつけないと」


 静止を振り切って盗賊を追うマジーナと、それに続くツルギ。やや慌てた様子だったが、何かあるのだろうか。



 マジーナは盗賊が逃げ込んだ裏通りに入った。彼女と奴ら以外には人はおらず、邪魔は入らないように思えた。


「はぁ、はぁ…。ついに追い詰めたわよ。いい加減、観念なさい…」

「ずいぶんとお疲れみたいだなお嬢ちゃん。休んだ方がいいんじゃないのか?」

「今ならまだ許してやっからさ。おとなしく家に帰んなよ」

「そうそう。俺たちも鬼じゃねぇからな」


 うそぶく盗賊たちであったが、マジーナは怒りがおさまらない様子で言った。


「あんたたちにそれを決める権利はないのよ。少なくとも私の食事代と、盗られたお金を還してもらうまではね…」


 マジーナは再び、魔法を使う構えに入った。


 その背後から、別の男が二人現れ、彼女の身体を押さえつけた。


「きゃっ、ちょっと! あんたたち…いつの間…に…」

「ぎゃはは、よーく考えるんだな、嬢ちゃん。俺らの縄張りにのこのこ入っちまうんだもんな。仲間がいることくれえ、思いつかないのか?」


 マジーナは必死に抵抗するが、大人二人の力には勝てず、地に膝をついた。


「さぁて、言った通りに痛い目にあってもらおうか…可愛い顔が台無しになっちまうかもなぁ!?」


 マジーナを押さえつける盗賊の一人が棍棒を持ち上げ、今にも振りおろそうとした。だが、その手は頂点で止まり、棍棒が消えていた。


 何が起こったのか混乱した盗賊は、次の瞬間気を失い、地に倒れ伏した。


「なっ、お前、いつの間に…?」


 裏通りに入ったのはマジーナと、誰の目にも見えていないはずの俺だけだった。ツルギは通りには入らず、来る直前の曲がり角で待機していたのだ。そして様子を覗いながら、マジーナが襲われたタイミングで棍棒を奪い、後ろからポカリ、という具合だ。


「てめぇ、やりやがったな!!」


 襲い来るもう一人の盗賊の攻撃を、ツルギは剣で受け止め、奪った棍棒で脇腹に一撃を食らわせた。盗賊はよろよろとふらつき、仰向けに倒れた。


「ツルギ! ありがとう。やっぱりあなたがいないとね!」

「どーも。人相手に本気は出せないけど、なんとかなったね。でもちゃんと周りを見てよね。いつもこうなっちゃうんだから」

「あはは…ごめんね。気をつけるからさ」


 盗賊たちに目もくれず会話を始めた二人。奴らは当然憤慨し始めた。


「おい! 無視すんなゴラァ!! こうなりゃぶっ殺す!!」


 残った盗賊三人は、一斉に襲いかかってきた。マジーナは振り返り、冷静に対処する。


「はぁ、あんたらもしつこいわね。反省しなさい。…"レール"!!」


 マジーナの唱えた魔法で、天から小さな雷が降り注いだ。盗賊たちは身体が硬直し、その場に崩れ落ちた。


「さっすが。いいキレだね」

「ふふん。ありがと。さて、お金は取り返してと…。こいつらどうしよう?」

「見廻りの騎士さんに引き渡そう。僕らはもう関わらなくていいよ」

「そうね。もう気が済んだわ。…あーあ、骨折り損になっちゃったかなー」


 散々周囲を振り回して、なかなか気の強い嬢ちゃんだな。




 その夜、再び宿屋にて。ツルギたちは夕食を済ませ、自室に戻る時間になった。


「おやすみ、ツルギ。よかったよね。お店の人、取り返してくれたお金のお礼に、食事代はいいって言ってくれて」

「うん。人助けしてよかったね。おやすみ。明日もよろしく」


 ツルギは部屋に入ると、ベッドに横になると、目を閉じた。

 俺はというと、全く眠くはならず、壁にもたれかかると腰を下ろした。このまま俺の世界に帰れなかったらどうする…。この世界で一生、ツルギの生活を追体験していかなきゃならないのか?

 そう思った時、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。


「マズルさん、大丈夫ですか?」


 ツルギだった。日中は俺のことが見えていなかったはずだが、今度ははっきりと俺を見て話しかけている。


「お前…俺が見えてるのか?」

「はい。しっかり。昼間はどうしたんですか? 突然いなくなっちゃうんだから」

「俺はずっといたよ。お前とあの娘、マジーナの後ろをずっとついていてな」

「ず、ずっとですか? 参ったな…。マジーナが知ったら何て言うかな…」


 その時、周囲の風景が変わった。あのセタが現れた場所に移ったかと思うと、本人が俺たちの目の前に姿を見せた。


「お疲れ様で御座います。ツルギ様、マズル様」

「お前、また突然現れやがって。一体どういうことだ? 何で俺の姿は見えなかった?」


「お答えします。あなた方に与えられた能力は『追体験』でありまして、憑依や一体化をしたわけではありません。お互いの世界の人々には、視認ができないのも道理というものであります」


「だから僕にも見えなかったんですね。でもベッドに入ったら、こうして話もできるようになりました。これは?」

「ここは夢と現の狭間というべき世界。精神が身体を離れようとする時に、お互いの姿を確かめることができるのです。…現時点では、でありますが」


 セタは聞こえないように声を落としたが、俺には聞こえていた。


「現時点では、ってどういう意味だ?」

「じきにわかりますよ。では次は、ツルギ様のターンですね」


 俺の質問をのらりくらりとかわし、セタは意味の分からないことを言った。


「僕の、ターン?」

「はい。マズル様と同じことをしていただければいいのです。ではまた、次の機会に…」

「おい、また勝手に…」


 言い終わる前に、俺と、おそらくツルギの意識も遠のいていった。



 気がつくと、俺は見覚えのある風景の中にいた。俺の世界の、どこかの病院の室内だ。目の前にはベッドで眠る俺の身体と、ツルギの姿があった。


「ここがマズルさんの世界ということですね。今度は僕が追体験する…というわけでしょうか?」

「そういうことだろうな。あまりウロウロしないでもらいたいもんだが」

「しませんよ。僕も元の世界に帰りたいですから」

「…ま、同感だな。はぁ、見られてると思うとやりづれえが、仕方ねぇか」


 俺はまた意識が遠のき、ベッドに眠っている自分の身体に意識が移っていくのが感じられた。

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