教え子は窮地で大活躍?
怪虫たちの群れをかいくぐり、エールはレイドの元にたどり着く。レイドは目の前の大蜂と対峙していたが、エールの姿に気づくと一瞬、そちらに気を取られた。
「せ、先生…?」
その隙をつき、大蜂は飛びかかった。
「危ないっ!! うぐっ…」
エールは咄嗟にレイドを押し退け、蜂の前に躍り出た。その腹部の先端に光る針に、エールの腕はスーツごと引き裂かれた。
腕からは、止め処なく血が滴っている。
「エールの奴、あれじゃ剣は使えねえだろ…。加勢に行くか」
虫の処理が終わったのか、アニキはすぐ側まで来ていた。こちらに向かおうとした時、僕は直感で思いついた。
「アニキ、待ってください」
「おわっ、急に話しかけんなって。何だよ?」
「待ってほしいんです。助けに行くのは。あのレイドって人に任せてみたいというか…」
「任せるってお前…この危機的状況でか?」
「もちろん、危なくなったら助けてください。それまでは見守ってて」
アニキはしぶしぶ了承してくれた。
レイドとエールはその間も、会話を続けていた。
「先生…何でここに…? それにどうして、俺なんかを…」
「…それよりも私から質問だ。キミの方こそなぜこんなところに一人でいたんだい…? 逃げることだってできたのに」
エールは問いに答えず、逆に質問を返す。
「何でって…そんなことより怪我を…」
「いいから、答えるんだ」
「はい。…俺、戦ってました。その、ま、守る…ために」
レイドはエールに目を合わせずに答えた。だがその挙動は怪しかった。少なくとも僕の目にはそう映った。
「そうか…。上出来だよ。安心した………」
エールはそれだけ言うと、どさりと地に倒れた。
「先生…? エール先生!!」
レイドはエールの身を案じるが、周囲にはまだ大蜂が飛び回っている。
改造されたとはいえ虫にそんな知能があるのか疑問だが、レイドが抵抗しないのを悟ったのか、大蜂は一直線に突撃した。
「今です、アニキ」
「言われなくてもわかってら。…当たれっ!」
アニキの放つ銃弾は、しっかりと大蜂を捉えた。蜂はしばらくフラフラと宙を舞ったが、まだ息はあった。
アニキは呆然と立ち尽くすレイドに駆け寄り、声をかけた。
「おい、今はそいつの心配してる場合じゃない。あんたも協力して、コイツらをどうにかすんのが一番だろ?」
「どうにかって…。俺の力でどうしたら…」
「泣き言は後で聞く。生き残れたらの話だけどな。でもお前がここで頑張らなきゃ、先生も一緒に死ぬぞ。いいのか!?」
アニキの一喝にも、レイドはすぐに決心がつかなかった。しかしアニキの背後に迫る大蜂を確認すると、側に落ちた鉄の棒を掴んで振り上げ、かけ声とともに蜂に振り下ろした。
「い…やあぁぁぁっ!!」
レイドの一撃を脳天に食らった大蜂は、よろよろと地面に落ち、ピクピクと脚を震わせた後、ようやく動きを止めた。
「ハァ、ハァ…。やった…?」
荒い呼吸を整えるレイド。アニキもどこか安心した面持ちで声をかけた。
「やりゃあできんじゃん。良かったよ、素人目線の感想だけど」
レイドは何と言えば良いかわからなかったのか、少しまごついてから黙って頭を下げた。
「さてと、だいぶ虫の数は減ってるし、警察は増えてきたし、後は放っといても大丈夫だろう。早く先生の手当て、してやらねえとな」
「は、はい。そうします」
レイドはエールの怪我していない方の腕を首に回し、アニキもそれを手伝おうとした。しかしその前に、地に転がる大蜂の姿を見て、ひとり呟いた。
「あの蜂野郎、前に俺が始末した奴か? まさかそれはねえか。だとしたら同族とか…」
「あの、手を貸していただけませんか?」
「ああわりぃわりぃ。今行く」
アニキはレイドと、気を失ったエールを抱えて歩き出した。




