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不穏な予感は的中?

 翌日、同じくスピルシティで目を覚ました僕とアニキ。昨日と変わらない朝を迎える。


 唯一違ったのはエールの姿がないことだったが、彼は朝食の最中に飛び込んできた。


「朝早く失礼する。今日の予定はどうなっているかな!?」


 エールは普段の余裕をかなぐり捨て、焦りを見せていた。

 バレッタは口に含んだパンを飲みこみ、怪訝な顔で尋ねる。



「今日は仕事ないよ。どしたの、ずいぶん慌てた様子だけど?」


「それがだね…。例の連中がまたやらかしたようなんだ」


「例の連中…まさか、ヒュジオンの奴らか?」



 アニキはすぐに推測し、声を上げた。



「ああ。当然、過激派の連中がね。実験に失敗した怪虫たちを野に放ったらしい。そこまでなら、私もこれほど焦らないのだが…。その場所というのが、第四十五地区なんだ」


 スピルシティがかなり大きな都市で、第五十地区まであることは聞いていたが、全てが頭に入っているわけではなかった。



「四十五地区というと…、どの辺りでしたっけ?」


「昨日行ったのが四十六地区だから、その隣だったはず。アタシも初めて行ったんだけど」



 隣町出身のハウもわからない様子で、バレッタは自信なさげに教えていた。



「その通りだね。それでその地区なんだが、昨日会ったレイド君の家がある場所なんだ。これは私からの依頼として、怪虫たちの駆除をお願いしたい。無論、私も同行する」


「なーる。心配になったわけね。でもさ、もう向こうの人らは避難とかしてんじゃないの? そんなに慌てなくても」



 ジェシカは呑気に食事を続けるが、エールの心は変わらないようだった。



「確かに、警報が出てから時間は経っている。避難はあらかた済んだという情報もある。しかしどうにも、胸騒ぎがして仕方ないんだ。昨日彼と遭遇したのも偶然じゃないような気がしてね。どうか、よろしく頼めないか?」



 エールは深々と頭を下げた。アニキはやれやれと言いながらも、立ち上がって銃を背中に背負った。



「しゃーねぇな。奴らの仕業ときたらやるしかねえな。あんたの教え子も、ついでに助けてやる。それにお代もきっちりいただくからな?」


「勝手に話を進めるんじゃないよ。アタシだって行くんだからね」


「まだ朝ゴハン終わってないのに。まぁいいか。あちしも行くー」


「ボクも。楽器、準備しますね」


 それぞれが支度をするのを見て、エールは一人呟いた。


「ありがとう…。恩に着るよ」




 再び昨日と同じ道を辿り、アニキたちは第四十五地区にやってきた。石造りの塀に囲まれた住宅地で、通りには露店が建ち並び、普段は人々が外に出て生活していることが予想できた。


 しかし今は人々の代わりに、巨大な虫たちがそこら中に蠢いている。隣町の公園で見た時よりも、数は多いように思えた。


「む…。やはり避難はほとんど終わっているか。だが思ったよりも多い…」


 状況を把握しようと、周囲を眺めるエール。ケイサツと呼ばれる人たちが、数人がかりで一体の大カマキリを取り囲んでいるのが見えた。


「警察の人ら以外はいないようだな。レイドと家族も避難したんじゃないのか?」


「それかもうやられちゃったとか、ね」


「ジェシカ。それは冗談でも言うことじゃない。洒落にならないだろ」



 バレッタに諭されたジェシカは、自分でも言い過ぎたと思ったのかしゅんとなった。



「…サーセン。今は言うべきじゃなかったね」


「よろしい。さて、それじゃあレイドの無事を確かめないと…」


「その必要はなさそうだよ。ほら」


 エールの指の先では、レイドが鉄の棒を片手に怪虫と対峙していた。否、対峙というよりは囲まれている。エールたちとレイドの間にも、数匹の虫たちがうろついており、安易に近づけそうになかった。



「この数、どうしたものか。一刻も早く助けに入らねばならないのに…」



 剣を取り出し構えるエールだが、敵意を見せると虫たちは攻撃態勢をとり、威嚇した。

 いくら剣の腕が立つとしても、多勢に無勢。明らかにエールが不利だった。

 しかしその時、背後から弾が飛んできて一体に命中した。上手く急所をついたのか、怪虫は液体を吹き出して倒れ、動かなくなった。



「俺らを忘れんな。あんたの進む道くらい、すぐに作ってやんよ」



 アニキは更にもう一体、弾丸を命中させた。今度は急所に当たらなかったのか、まだ息があった。しかし直後に音波の衝撃が加わると、横たわって動きを止めた。



「そうです。ボクだっているんですからね。任せてくださいよっ!」



 ハウは楽器を一層強くかき鳴らす。向かって来る虫たちは音の壁に弾かれ、次々と地に伏した。

 今度はアニキが倒れた虫たちにトドメをさし、だんだんとレイドへの道が開けてきていた。



「エール、今のうちだよ。早くあの子のところへ!」

「すまない。ここは任せたよ!」



 エールは促されるまま、レイドの元へと走った。僕もその傍にいた方がいいと直感し、その背を追いかけた。

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