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合流編Ⅴ・後

 狭魔獣『ツインソーサー・エイプ』との戦いが始まった。魔獣は広間内を走り回り、距離を取りつつ両手の円盤を投げつけるという戦法をとった。


 マズルやマジーナ、クロマは遠距離から銃撃と魔法を放つが、攻撃が届く前に反応され、すんでのところで躱されるか、円盤で防御される始末だった。


 遠距離攻撃がダメならばとツルギとカサンドラ、エールが近づいて一撃を加えようとするも、やはり素早い動きに翻弄されて消耗するのがオチだった。


「くっ…。あいつちょこまかと動き回りやがって。これじゃどうしようも…」

「マズさんたち、ちょっと離れてて」


 ジェシカはケータイを手放し、魔獣に向けて手を翳していた。マズルは思わず後退りしながら、彼女に尋ねる。


「お前もしかして、アレを呼び出すのか…?」

「うん。あちしもできればやりたくなかった。でも、このままじゃラチがあかないじゃん? だったら一か八か、やってみるよ…」


 心配するマズルの目の前で、ジェシカは目を瞑る。ほどなくして、別人のような声が聞こえてきた。


「…鬱陶しいエテ公めが、我の目の前にひれ伏すがいい!!」


 ジェシカ(の第二人格)の放った念波が魔獣を襲う。しかしそれも、円盤によって弾かれてしまった。魔獣は更に、小馬鹿にするように宙返りをした。


「おのれ…我を愚弄する気か…。許さぬぞ…」

「落ち着け。ほら、ケータイと言ったか。受け取れ」


 カサンドラは暴走する前に、ジェシカにケータイを手渡した。彼女の状態を常に把握しているかのように。


「何を、うっ………ちょっと、いいトコだったんだけど? 勝手なことしないでくれる?」


「それは済まないな。だが、お前がまた手のつけられない状態になったらどうする。あの魔獣だけでも厄介だというのに」


「そん時のためのあんたなんじゃないの? …まぁいいや。どうせ攻撃、効かないみたいだしー」


 ジェシカはふて腐れたようにそっぽを向いた。カサンドラはやれやれと言わんばかりに彼女を一瞥すると、再び魔獣に突進していった。


 その頃、マズルとツルギたちは魔獣の様子を伺いながら、同時に作戦を練っていた。


「ちくしょう、本当に埒が明かねえ。何かいい方法はないのか」


「せめてあの動きだけでも封じられたらいいのだがね。相手は猿のような姿だが、習性も同じだろうか」


「猿って言ったら…木登り? だけどこんなところに木はないし…」



「木登り…そうだ、もしかしたら」



 バレッタの何気ない言葉で、ツルギはピンと閃く。ワカバの元へ向かうと、問いかけた。


「ワカバ、この前のアレ、できる?」


「アレって…盗賊に捕まってた時のやつ?」


「そうそれ。あの魔獣の近くに木を生やすんだ」


「わかった。やってみる」


 ワカバは魔法で牽制するマジーナとクロマの前に躍り出ると、あの時の状況を必死に思い出そうとした。


(あの時はどうやったんだっけ…。そうだ、シンお兄ちゃんが危なかったから助けなきゃって…。今度もそうすれば…!)


 ワカバは地面に手を置いた。すると硬い床から、太い木の幹が勢いよく生えてきた。魔獣には命中しなかったが、ツルギの狙い通りに魔獣はその木に登り始めた。


 ワカバの生み出した木は意思を持つらしく、枝がひとりでに魔獣の手足に絡みつき、相手の動きはようやく封じられた。


「よし、これで少しは動きが制限される。アニキ、マジーナ、クロマさん、お願いします!」

「よしきた、任せろ!」


 ツルギの合図で、三人は木と格闘する魔獣に向けて銃撃と魔法を放つ。身動きの取れない魔獣はまともに攻撃を受け、吹き飛ばされて弧を描いて地面へと落ちていった。


「我々も見せ場を作らないとね。カサンドラ君、共に行こう」

「見せ場とやらには興味がないが、相応の働きはせねば。行くぞ!」


 落下地点付近にいたエールとカサンドラは、剣と槍の斬撃を魔獣に見舞った。

 立て続けに強烈な攻撃を食らった魔獣はよろよろと立ち上がり、せめて最後の一撃を食らわせてやろうと考えたのか、持っていた円盤を渾身の力で投げつけた。


 その延長線上には、ワカバがいた。凄まじい速度で迫る円盤に、ワカバは対応できていなかった。


「危ない…!!」


 咄嗟に、ハウがワカバの前に割り込んだ。ワカバと同じように、ハウも先日の危機を思い出し、無我夢中で楽器の弦をかき鳴らしていた。


 以前怪虫たちを弾き飛ばしたように、ハウの発した音は壁のようなものをはっきりと作り出し、円盤を跳ね返した。勢いが増した円盤は魔獣を真っ二つに切り裂き、地に伏した身体は瞬時に消え去るのだった。




 戦いの後、全員が今回の功労者を称えた。満場一致でハウとワカバが選ばれていた。


「いやぁホントにアンタらがいなけりゃおしまいだった。ありがとうね二人とも」


「いえそんな。ヒントを出したのはバレッタさんですし、そこから策を思いついたのはツルギさんですし」


「だけど、二人の力がなければ思いつかなかったし、全員無事で勝てませんでしたよ。胸を張ってください」


 ハウは顔をほんのり赤く染めていたが、満更でもない様子だった。自分の力で他人を守れたことが嬉しくもあったが、彼女の中ではまだ半信半疑でもあった。


「二人のさっきの技さ、何か名前あるの?」


 唐突にジェシカが尋ねる。ワカバはきょとんとした表情で返した。


「名前? ないよ」

「あった方がよくない? 指示出すときアレ、とかあの技、とかじゃわかんないじゃん?」

「確かに一理あるかもね。何か考えてあげたら、ジェシカ」


 マジーナの言葉に、ジェシカはどこか嬉しそうな表情を浮かべた。


「よーし、そんじゃカッコいいのつけてあげよう。えっとね…」

「ぼ、ボクはいいですからね。つけるならワカバ君の技に」


 ハウは激しく手と首を振って拒否する。


「そう? 遠慮しなくていいのに。じゃあね…『木霊召喚(サモン・エコーズ)』ってどう?」

「『木霊召喚(サモン・エコーズ)』…。いいと思う。カッコいい」

「でしょ? 気に入ってもらえて嬉しい。良かったら回復技も名前つけたげよか?」

「うん。お願い、ジェシカさん」


 ワカバとジェシカが和気あいあいとしている中、ハウは少し離れてその様子を見ていた。

 そんな彼女に、バレッタはそっと声をかける。


「どうしたんだい? もっと近くに行けばいいのに」


「…両親と再会してからずっと考えていたことがあるんです。ワカバ君に直接聞かないとわからないことなんですが」


「だったら思い切って聞いてみなよ。あの子なら嘘はつかないだろうし、本音が聞けるよきっと」


「本音ですか…。聞くのが怖いような楽しみなようなひやあっ!?」


 ハウは突然大声を挙げた。彼女の手に、ワカバの手が重ねられていた。


「な、何?」

「『若気の癒し(ユースフル・ヒール)』だよ。ジェシカさんが名付けてくれたんだ。ハウさん、毒にやられて眠ってたって聞いたから」

「そ、そっか。ありがとう」


 ハウはワカバと目を合わせようとはしなかった。

 バレッタは少しいたずらっぽく、ハウに声をかけた。


「あとはお二人だけにしとこうね。ごゆっくり〜」

「あぁちょっと、バレッタさん…!」


 取り残されたハウは、少し考えた後に意を決してワカバに尋ねた。


「ワカバ君…ちょっと聞きたいんだけど」


「なに?」


「その…なんて言うか。ボクの曲なんだけど、聴いてくれるのすごく嬉しいんだけど…。め、迷惑だとか考えたこと、ない?」


「迷惑なんて考えたことないよ。当たり前でしょう?」


 ワカバの純粋無垢な瞳を見て答えを聞いたハウは、心のわだかまりが消え去ったのを感じていた。


「そ、そうだよね。うん、やっとスッキリした。ありがとう、これからも一緒に頑張ろうね!」

「もちろんだよ。よろしく、ハウさん!」


 ハウとワカバが手を取り合うのを、クロマは遠目に見ていた。傍らに立つエールに、彼女は尋ねた。


「ハウさん、少し落ち込んでいたように見えましたがお元気になりましたね。その、何かあったんですか?」


「彼女はご両親との間に複雑な事情があるようでね。しかし、困難を自身の力でどうにかしようとしている。なかなかどうして勇気のある人だと思うよ」


「そうですか…ご両親が、ね」


 クロマはしばらくの間、ハウを見つめていた。



 別れの時間が迫る中、ハウはワカバともう一度話していた。


「ワカバ君、ボクもさっきの技、名前つけようと思うんだ。君がつけたならボクも、と思って」

「いいと思うよ。なんてつけるの?」


 ハウは戦いを思い返し、思案する。やがて、結論を出した。


「…うん、そうね。これがいい。音の響きで壁を作り出したから、名付けて『響壁(きょうへき)』だよ」




「…それでは皆様、此度もお疲れ様で御座いました。次はツルギ様の世界にて、マズル様の追体験から開始いたします。ご健闘をお祈り申し上げます。では、ごきげんよう…」


 セタの合図で二つの集団はそれぞれの世界へと帰る。

 ハウとワカバは、互いの姿が見えなくなるまで手を振っていた。

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