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窃盗事件の真相は?

 ツルギに知恵を貸してから数刻、パーティは町のとある場所、見廻り騎士たちの詰所とも言うべき場所に来ていた。

 話し合いの結果、ここが怪しいと睨んだツルギたちは、物陰に隠れて張り込みをしていた。そして、ある時を見計らって突入を仕掛けたのだ。


「ぐはっ…。お前ら、なんで俺たちがここにいることがわかった…?」


 カサンドラに首根っこを掴まれているのは件の盗賊団の一味。俺が与えたヒントを元に、真犯人だと予想が立てられた。

 だが、この男の言う通り、なぜここに盗賊がいるのかは説明がつかない。


「さあね。ただもしかしたら、あんたたちと協力してる人たちがいるんじゃないかと踏んだだけさ」


 ツルギは床に伸びている騎士を顎で指して言った。


「何事か騒がしい。…何だ貴様ら。ここは一般の人間は立ち入り禁止だぞ!?」


 奥からさらに騎士が数人、武器を手に現れた。床の騎士と、捕らえられている盗賊の姿を見て、事態を理解したようだった。


「なるほど。我々の裏を知ってしまったということか。一体どこから…。いやそんなことはどうでもいい。知られたからには、ただで帰せないな!」


 騎士たちは次々に遅いかかってきた。ツルギとカサンドラは剣と槍で応戦を始め、マジーナも加勢しようとする。だが、クロマはそれを静止させた。


「マジーナさん、私たちはあの二人を助けましょう」

「そうだったわね。でもこいつは?」


 カサンドラの手から離れ、多勢を相手に怯えている盗賊を指し、マジーナは尋ねた。


「あ、あの、お手柔らかに…」

「ちょっと眠っておいてもらいましょう。"ムール"!」


 クロマの魔法を受けた盗賊は、たちまち眠りに落ちた。気持ちよさそうな表情をしている。


 マジーナとクロマは盗賊が完全に眠ったことを確認し、ワカバとシンの元へと向かった。


「ありがとうおねえちゃんたち。でもだいじょうぶ?」

「もちろんよ。カサンドラさんのおかげで入るのもラックラクだったし。さっすが聖騎士ね」

「あんたら、なぜここに来た? オレたちがここにいるとわかったのか?」


 牢の鍵を開け、二人の縄を解いている最中、シンは尋ねる。


「とある方から情報といいますか、ヒントをいただいたんです。犯行現場には真犯人が戻ってくるものだと。ツルギさんは以前、盗賊と対峙していたので、見覚えのある顔を見て確信したそうです」

「そういうことか。だが、騎士の奴が我々の裏とか言ってたが、どういうことだ?」


 シンの問いに、今度は先にワカバの縄を解いたマジーナが答えた。


「騎士たちと盗賊たちはグルだったのよ。現場に落ちていた葉っぱ一枚だけで証拠って言うのもおかしいと思ったからね。それなら意図的に言いがかりをつけて、あなたたちドラシル族のせいにしてるんじゃないかって、考えただけよ」


 マジーナはいかにも自分たちが考えた、と言いたげだ。それは俺が与えたヒントまんまじゃないかと思ったが、この際目を瞑ろう。


「確かにそう考えれば合点がいくが、そうする理由は…」

「ありますよ。とても崇高な理由がね」


 牢から出てきたシンたちに声がかけられる。それは、他の奴らとは違う鎧を纏った騎士だった。


「な、何よあんた」

「私はこの騎士団の長です。せっかくここまで来ていただいたのですから、ご説明いたしましょう。我々はこの町の平和を守る騎士団。平和のためにはいかなる不穏分子も邪魔になる。たとえ子どもでも、ドラシル族は平和の妨げになるのです。可哀想ですが、始末するに限る…!」


 騎士は剣を抜いた。マジーナとクロマは身構えたが、直後に背後から声が聞こえ、そちらに気を取られた。


「おっと待ちな。こいつがどうなってもいいのか?」


 そこにいたのは別の盗賊。ワカバの首に腕を回し、ナイフを突きつけている。


「…っ! まだいたの、仲間が…」

「ええ。少々詰めが甘かったようですね。残念でした」


 その時、騎士たちを退けたツルギとカサンドラが駆けつけたが、状況を理解すると武器を納め、動きを止めた。人質がいてはどうしようもない。


「そうそう。理解が早いですね。大人しくしていただければ、悪いようにはしません。明日の朝にでも、彼らは始末するつもりです。どうぞご了承を…」


 騎士団長はシンに近づき、腕を掴んだ。

 成す術なく、誰もが動けない中、一人の声が聞こえた。


「…やめてよ」

「なに? お前、誰がしゃべっていいと…」

「やめてってば。おにいちゃんを、みんなを…いじめないでよ!!」


 盗賊に動きを封じられていたワカバは叫んだ。その瞬間、盗賊の背後に太い木の幹が生えたかと思うと、まるで生物かのように枝を振るった。


「あぐっ、…嘘、だろ…」


 盗賊は木の一撃を脳天に食らい、崩れ落ちて倒れた。同時に拘束されていたワカバも倒れ、目を閉じてしまった。


「ワカバ! しっかり…!」


 マジーナはワカバに駆け寄り、抱き上げた。


「…良かった。まだ息してる。寝てるだけよ」


 全員が胸を撫で下ろした。そして思い出したように騎士団長に視線を移す。


「くっ…ここまでですか。手駒は尽きました。観念しましょう」


 騎士団長は両手を挙げて降伏の視線をとった。カサンドラは警戒しつつもその手に縄をかけた。


「お前のことは私が責任を持って、国王陛下に報告しておこう。罪もない者を罪人に仕立て上げるなど、誇りある騎士のすべきことではない。恥を知れ」

「…確かに傍から見れば酷かもしれません。しかしこれは、平和への尊い犠牲なのですよ…。異種族と共生など、争いの種でしかない。きっと後悔しますよ。あなた達…」


 騎士団長が一通り話し終えた後、ツルギは奴に近寄って一言、呟いた。


「そんな平和、糞食らえだよ」


 騎士団長は何も言わず、俯いた。




 カサンドラに騎士団長と、眠ったままのワカバを任せた後、シンを含めたツルギたちは装飾品店に来ていた。シンの潔白を報告するのもあったが、彼から話したいことがあるという。


「そうだったのね。とにかく、シンちゃんが犯人じゃなくて良かった。もちろん信じてたけどね。これで明日から、また一緒に働ける…」

「店長、その件なんですが…実はオレ、ここを辞めようと思うんです」


 シンは店長の言葉を遮って打ち明けた。店長は目を丸くして聞き返した。


「辞める? どうして? だって身の潔白は証明できたのに…」

「そうかもしれません。でも、オレがドラシル族だと広まった今、町の人々の反応は同じでしょう。もうここに顔を出さない方がいいと思うんです。その方が店のためにもなるし…」

「…そう。あなたがそう決めたなら、無理に止めないわ。また、ときどきでいいから顔見せてね」

「そのつもりです。…それじゃ、長い間お世話になりました。ありがとうございました」


 シンは頭を下げ、店を出ていった。

 その背を見送った後、クロマはおずおずと店長に尋ねた。


「あの、よろしかったんですか? シンさんを行かせてしまって」

「あの子がそうしたいなら自由にしてあげたいのよ。私のワガママで彼を縛りつけたら、酷いことでしょ?」

「…そうですね。私たちにどうこうできる問題じゃありませんね」

「そういうこと。さて、あんたたちには本当に感謝してるわ。もう遅いから、早く帰んなさい。みんなもまた来てちょうだいね」


 店長はツルギたちを促し、店の外に出させた。

 店の入口には、まだシンがいた。ツルギたちに気づくと、頭を掻きながら近づいた。


「終わったか? 話は」

「ええ。今回はすみませんでした。元々は僕らのせいで…」

「みなまで言うな。もう済んだことだ。それに、あんたらはオレを助けてくれた。それでチャラだろ?」

「そうかもしれませんが…」

「…ツルギさん、だったな。ちょっと時間をくれないか? 向こうで話がしたい」


 シンは薄暗くなりつつある町の外れを指さして言った。


「いいですよ。二人は先に帰ってて」


 マジーナとクロマを先に帰し、ツルギはシンと歩き出す。俺もその後を追った。




 二人がやってきたのはとある河の土手。シンはそこに腰を降ろし、ツルギも続いた。俺はツルギの隣に座った。


「まずはありがとうな。オレのことも、弟のことも」

「いいんですよ。チャラだって、シンさんがさっき言ったでしょう?」

「はは、そうだな。オレがそう言ったんだった」


 接客をしていた時以来の笑顔を見せたシン。どこか吹っ切れたような表情だった。

 シンは話題を変え、話を続けた。


「…ドラシル族はな、成長がそれぞれ違うんだ。奥手な奴もいれば、ある時急激に成長するのもいる。ワカバは昔から寝てばかりの奴で、一族は見限って、山に置いていくことに決めた。オレは反対はしなかったが、心のどこかでは後ろめたい気持ちがあったのかもしれない」


 ツルギは思い出したように、突然口を挟んだ。


「ギルドに匿名でワカバを探すクエストを依頼したのは、もしかしてシンさん?」

「やっぱりあんたたちだったのか、達成したのは。そうさ、オレが依頼してたんだ。無事かどうか確認できれば良かったから、報告だけしてもらうようにしてな」


 シンは寝転がり、星空になった天を仰いだ。ツルギもそれに習ったので、俺の姿も見えるようになったはずだ。俺は思い立ち、ツルギの目の前で、楽器を鳴らす仕草をしてみせた。


「ワカバの奴、ちゃんと役に立ってるのか?」

「もちろん。今じゃもう僕たちの大切な仲間です。回復はすごく助かってますし、それに僕ら以外で、仲のいい友達もできたんですよ」

「本当か、それは?」

「ええ。ちょっと離れた場所にいるので、あまり会えないんですけどね」

「そうか。あいつがな…」


 シンはツルギから視線を外し、再び天を仰いだ。何かを考えているらしい。

 それからまもなくして、また口を開いた。


「ツルギさんよ、兄からのお願いだ。ワカバをこれからもよろしく頼めるか」

「言ったじゃないですか、大切な仲間だって。これからもそうですよ」

「ありがとう。オレはこれから、自分の店を持ちたいと思ってる。オレの正体を知られていない町の外でな。近いうちに便りを出そうと思うから、その時はよろしくな」

「わかりました。楽しみにしてますよ」




 その後、帰宅したツルギ。マジーナとクロマにも、シンの話を伝えていた。


「へぇ、シンさん自分の店を開くんだ。てことは、けっこう稼いでいたのね」

「ま、マジーナさん、そこが気になるんですか…。でも、良かったです。今後の目標や夢があるなら、私たちも心配しなくて済みそうですし」

「そうね。だけど何のお店を開くのかな。楽しみね…。ところで、カサンドラさんとワカバ、遅いわね」


 その時、扉が開いた。カサンドラと、その前にワカバもいた。


「噂をすればね。おかえりなさい二人とも」


「うん、ただいまお姉ちゃん!」


 ワカバは返事をした。もう夜で、通常なら寝ている時間だが、それを抜きにしても普段よりも元気がよかった。


「ワカバ…? 何かあった?」

「ん? 何もないよ。喉乾いたな。お水、ある?」

「え、ええ。はい、どうぞ…」

「ありがとう、クロマお姉ちゃん」


 ワカバは渡された水を飲み、椅子に座った。そして鼻歌交じりに、珍しく本を読み出した。


「ワカバは目を覚ましてからこうなんだ。根本的には変わっていないようだが、人間で言えば幼児から少年に変わったような…」


 そこで俺と、おそらくツルギも、シンの言葉を思い出した。ドラシル族は成長がそれぞれ違う。ある時急激に成長する者もいる。きっとこれが、その成長に違いない。


「ワカバ、きっと成長したんだ。今回の経験が糧になったんだよ」

「ぼくはぼくだよ。ツルギお兄ちゃん」

「そうさ。これからも期待してるよ、ワカバ」

「もちろん、任せといてよ」


 ワカバは今までに見せたことのない笑顔を咲かせた。

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