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植物兄弟は似た者同士?

 薄暗く、ジメジメとした場所。オレはそこに連れて来られていた。目の前には鉄製の檻。ここは人間たちの使う、いわば牢屋だ。

 オレは連続窃盗事件の容疑をかけられ、ここにぶち込まれた。当然、オレがそんなことをするはずがない。店の一員として人前に立つことはあったものの、目立つ行動は控えてきたこのオレだ。


 ドラシル族。オレたち植物の力を宿した魔族は、昔から人目を避けて生きていたという。人間に関わることなかれ。奴らは我々の生活を、歴史を脅かす害虫だ。これに反する者は永久追放とする。それが一族に代々伝わっている掟だった。


 今までは、オレはただ漠然とその掟に従っていた。だが、今回の一件でその意味がようやく理解できた。人間は自分たちの勝手な感情、思い込みで他者の心身を踏みにじる、魔物にも劣る種族だ。きっと昔にも、一族と人間の間に似たような事件があったのだろう。


 先人たちのその選択は正解だった。オレはそう思うことで、心を落ち着かせようとした。

 その時、奴がやってきた。


「ここで待っていろ。処罰は追って伝える」


 町の見廻り騎士に連れられてきたのは、紛れもなくオレの弟、ワカバだった。抵抗する気もないのか、言われるがままにオレと同じ檻の中に入ってくる。そして言葉が出ないオレの隣に来ると、すっと座った。


 しばらくの間、重い空気が流れる。オレもワカバも、黙ったままだ。

 沈黙したまま、一言も交わさないという選択肢もあったが、騎士がいないことを確認したオレは、先に口を開いた。


「…どうしてここに来た?」


 ワカバは答えない。見ると、なんとまあ眠っていた。こいつの人となりはよくわかっていたはずだが、オレは呆れた。


「おい起きろ。それどころじゃねぇだろ、今は」

「ん…はい、何、おにいちゃん」

「質問してんのはオレの方だ。何でここに来たと聞いたんだ。ここに来ることがどういうことか、わかってんのか?」


 ワカバは目をこすり、伸びをしながら答えた。


「わかってるよ。はなしをきくだけだって。ぼくはジュウヨウサンコウニンなんだって。だからツルギおにいちゃんはだいじょうぶって…」

「お前、本当にそう思ってんのか? めでたい奴だな…」


 オレはまた呆れつつ、頭を抱えた。


「めでたい?」

「そうだよ。さっきの騎士の言葉、聞いてなかったのか? 話を聞くだなんてのは建前だ。おおかた、罪をなすりつけられた挙げ句、処分されるのがオチだ」

「ということは、しんじゃうのぼくたち…?」


 ワカバは初めて恐怖を顔に出した。本当のところ、奴らがオレたちをどうするのかはわからない。だが、いずれ処分されるのは間違いないだろう。オレはそれ以上言わず、怯えさせるのはやめた。


「今さら後悔したところでどうしようもない。あんな奴らの言うことを鵜呑みにしたお前を…いや、お前の仲間を恨むんだな」

「ツルギおにいちゃんはわるくないよ」


 ワカバは今さっきまでと違い、はっきりとした口調で否定した。


「悪くないだと?」

「そうだよ。だって、ぼくをひつようとしてくれた。山にのぼって、さがしにきてくれたんだ」

「…お前を見つけて、それから仲間にもしたのか? あいつらは」

「うん。ぼくがドラシル族でも、気にしなかったよ。もちろんマジーナおねえちゃんたちも、みんないい人。だからぼく、いっしょにいるんだ」

「…そうか。あいつらがな…」


 オレは考えをまとめようと黙った。しかしワカバは構わず、オレに言葉を投げかけてきた。


「おにいちゃんも、そうなんじゃないの?」

「オレも?」

「人がすきだから、あのお店ではたらいてたんでしょう? あの店長さんもおにいちゃんのこと、ドラシル族だからって避けたりしなかったんじゃないの? もしかして、店長さんにめいわくをかけたくなくて、わざと捕まったんじゃ…」


 こいつ、痛いところをついてくる。確かに店長は、オレにいつも優しかった。きつく当たられた記憶もない。そんなこと、わかってたはずなのに…。


 その時、急に牢屋の奥が騒がしくなった。入口の方向だ。

 騎士が一人、吹き飛ばされて来たかと思うと、奴らが姿を現した。

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