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案内人は優男?

今回から初登場の人物の簡単な説明をここに書いていきます。


セタ:ツルギとマズルの前に現れる謎の男。目的は一切が不明。白と黒の外見と、丁寧な物腰が特徴。

 廃墟で意識が遠のき、気がつくと目の前には奇妙な男が二人。俺はなんとか頭を回転させ、状況を整理することに努めていた。考えられるのは、ここが天国か地獄か、はたまた夢なのか。


 そこで俺は、男のうちの一人を眺めた。まさしく、最近やたらと見る夢の中に現れる風景の人間の服装だ。そうか、やっぱり夢なのか。だったら、早く覚めることを願うばかりだ。


 だが何だ、この感じは…? 心の奥底で、これは夢ではないと言っている自分がいた。そしてそれが、紛れもない真実だということも、直感でわかっていた。


「お揃いになりましたね。マズル=B様。そしてツルギ=ユウキ様」


 二人のうち、全く見たこともない方の男は語りかけてきた。長い白髪。後ろ髪は跳ねており、その頭には黒い小さなハットを乗せ、服装は同じく黒いスーツ姿の優男。年齢は俺とさほど変わらない雰囲気で、表情はニコニコと微笑みを浮かべている。

 お揃いになりました…? どういうことだ。こいつが俺たちをここに呼んだっていうのか? 第一、ここはどこなんだ?


 俺は周囲を見渡した。どこかの建造物の中だとわかったが、光の差し込まない空間では一寸先も見えやしない。しかし自分の身体と、ツルギと呼ばれた男、そして素性の知れない男の姿だけは、なぜかくっきりと見えていた。


「あのー、ちょっと話が飲み込めてないんですけど。ここ、どこなんですか? それにあなた達は何者なんです?」


 ツルギは俺が思っていたことと同じことを口走った。俺が先に聞こうと思ってたんだ。


「あなた達、って俺には聞いてくれるな。全部こいつの仕業なんだろうからな」

「初対面の相手にこいつ、で御座いますか。いやしかし、勝手にお連れした(わたくし)が言えたことではありませんね。失敬。順を追って説明いたしましょう。あなた方お二人をここにお呼びしたのは、この私めに御座います」


 謎の男は帽子を外し、深々と頭を下げた。

 数秒間の沈黙の後、俺とツルギは堰を切ったように質問をぶつけていた。


「お呼びした? お連れした? どういうことだよ? 一体何の目的で…」

「突然そんなこと言われても困りますよ。あなた、そもそも何者なんですか?」

「それ今はどうでもいいよ。 大事なのは、無事に元の世界に還せっていう…」

「申し訳ありません。まずは落ち着いてください。きちんと説明はいたしますゆえ」


 矢継ぎ早に言葉を浴びせられた男は、微笑みを真顔に戻し、手を前にかざして俺たちを静止させた。なぜか、それ以上男に詰め寄ることはできなかった。


「ツルギ様の仰る通り、まずは私の自己紹介からさせていただきましょうか。その方が、お話もしやすいというものですから」

「いいから早くしろ。するつもりならな」


 男は再び苦笑いを浮かべながら、スーツの襟元を正した。


「なかなか手厳しい方でいらっしゃる。では僭越ながら。名前は…そうですね。『セタ』とでもお呼びください」


 セタと名乗る男は、俺たちの反応を待つかのように黙った。そう解釈した俺は、誰にも先を越されないように質問をした。


「で、そのセタさんとやらが何の用なんだ。一体どうやって、俺をあの街からここに連れてきた?」

「まだ何も説明しておりませんし、そうお考えになるのも無理はありませんね。厳密にいえば、あなた方は今、ここにいるようでいないのです」


 セタの回りくどい説明に、俺は頭が混乱しかけていた。いるようでいないってどういう…。


「いるようでいないって、どういうことですか? 今こうして話ができてるじゃないですか」


 またしても俺の思っていたことと同じことを、ツルギは言った。なんだか奇妙な気分だった。

 セタはその質問にも即答する。ポケットから取り出したのは、チェーンが通された虹色の石だった。


「こちらは『夢の雫』と呼ばれる品物に、私が少しばかり細工をした物で御座います。とある皇族の方にお譲りいただきましてね。ともかくこの石の力によって、あなた達の精神だけを、この空間に呼び寄せることができました。いるようでいない、と申し上げたのは、そういう意味です」


 お分かりいただけましたか、と言わんばかりにセタは微笑んだ。ツルギは理解しているのかどうか怪しかったが、話に頷いていた。


「まぁそれはそういうことにしとこう。それで、何の用かっていう質問には答えてもらってないが?」


 セタは思い出したように手を打つと、石をポケットにしまい、もう一度真顔になって話し始めた。



「はい。それが一番大切な要件ですね。あなた方をお呼びしたのは他でもありません。簡単に申し上げますと、『(えにし)』をそれぞれお二人の世界で探していただきたいので御座います」


「え、エニシ…? 探す…?」


 困惑する俺のオウム返しに、セタは補足した。


「そうです。具体的に言えば、心を通わせることのできる、相性の良いお仲間のことです」


 頭の中を整理する俺の隣で、ツルギは別の質問を投げかけていた。


「ごめんなさい。話を少し戻したいんですけど、それぞれの縁を二人の世界でっていうのは…?」

「そうでした。まだご説明しておりませんでしたね。マズル様とツルギ様は、別々の世界の住人で御座います」


 異世界。空想でしかありえないと思っていた。仮に普段の生活の中で、この二人みたいな人間が突然現れて、自分は異世界からやって来たと言われても、絶対に信じないだろう。俺は現実主義者だからな。


 だが、これがただの夢ではないと直感で判断したように、異世界の話が嘘ではないということも、なぜか理解できた。この空間が、妙に現実味を帯びているからなのだろうか。


「異世界の人ですか…。すぐに理解するのは難しそうですけど、なんとなくわかりました」


 ツルギはそう言ったが、この中で一番、異世界人という言葉が似合うと思った。だが向こうから見れば、俺も異世界人に見えるのだろうか。



「ご理解いただけてありがたい限りです。それでは…」

「ちょっと待て。俺はまだ、引き受けるとは言ってねえぞ」


 俺はセタを睨みつけて吐いた。しかし奴は、嫌な顔ひとつせず、反応を予測していたかのように返してきた。


「突然の依頼ですから仕方ありませんね。ですが、私は既にお二人の元に便りを出しております」

「便りって…もしかしてあの手紙か?」

「僕のところにも届きました。セタさんが出したんですか?」

「その通りです。毒蜂とスライムを退治して、と依頼しましたが、真の目的はあなた方をここに呼び寄せるため。そのために少々痛い思いをさせてしまい、心苦しい限りです」


 セタは申し訳なさそうな表情を見せたが、それで俺の苛立ちが消えることはなかった。


「こちとら命懸けでやったんだ。そんな言葉でチャラにできると思ってんのか?」

「もちろん、文面にもあった通りに相応の報酬が御座います。悪いお話ではないと思いますが」


 焦る様子もなくセタは言った。ツルギも気になっていたのか、口を挟んだ。


「相応の報酬って何なんです?」

「お金や物ではありません。しかし何にも変えがたい、お二人に共通した望みですよ」

「共通した望み…? 僕は魔王を倒して、世界を平和にすること、かな」

「…俺はそんな大それた志はねえ。ただ、平穏で不自由しない暮らしができりゃそれでいい」


 俺とツルギの答えを聞いたセタは、手を叩いて嬉しそうに言った。


「やはり。平和と平穏、本質は同じところにあります。私の依頼を受けていただくことで、その理想に近づけることを約束いたしましょう。どうです、引き受けてくださいますか?」


 俺は騙された気になりつつも、早く還りたい一心でこの場は理解することにした。警察の理不尽な取り調べを受けているときも、こんな心境なんだろうか。


「わかったよ。やってやろうじゃん」

「僕も了解です。あなたの言葉、信じますよ」



「恐れ入ります。それでは、間もなく目覚めの刻に…。おっと、もう一つ大切なことを忘れておりました。お二人には、"追体験(リライブ)"という能力を付与いたします」



「リライブ? なんなんだそれは?」

「その名の通り、お互いの世界での行動を、ご自身の経験として見たり、聞いたりする力です。後々必ず役立ちますので、有効活用してください。では、最初にツルギ様から…」



 セタの言葉が終わると、半ば強引に俺の意識は遠のいていった。身体ごと、セタから遠ざかっていくのが感じられた。

 聞きたいことが山ほどあった俺は、意識が消える前に叫んでいた。


「おいっ、ちょっと…待て…。まだ…納得し…て…」

「このような形になって申し訳ありません。なにしろ時間が限られているものですから。またお会いした際に、より詳しい説明もさせていただきます。それでは、幸運を―――」


 それだけ言い残し、セタは姿を消していた。



 その後、どこかの室内で俺は目を覚ました。また見たことのない場所だった。

 …いや、違う。俺はこの景色を見た記憶がある。ここは、最近見るようになった夢の中の世界にそっくりだ。木造の壁、そこに立て掛けてある剣。それから、すぐ側のベッドで横になる、ついさっき会ったばかりの男。と、いうことは…?


「あの、マズルさん…でしたよね?」


 すぐ側で声がした。ツルギだった。いつの間にか起き上がって、俺に話しかけていた。


「お前、どういうことかわかるか? 俺、お前の世界に来ちまったってことか…?」

「僕にも何がなんだか。さっきのセタっていう人の話から考えると、これがリライブ、ってことなんじゃないですか?」

「追体験…。お前の生活を、こうして後ろから体験しろってのか。なんだってこんなことに…。さっさと帰りてえのに」


 その時、扉の向こうからツルギの名を呼ぶ声が聞こえた。若い少女の声だった。


「すみません、僕行かなきゃ」

「あ、おい。…仕方ねえ、ついて行くしかねえか。ったく、あのセタって奴、次に会ったら耳塞ぎたくなるくらい文句言ってやる」


 ツルギの後を追い、俺も扉をくぐった。

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