合流編Ⅳ・前
四回目の招集。マズル組とツルギ組は謎の空間に呼び出された。マジーナはバレッタの姿を見つけると、すぐさま駆け寄った。
「バレ姉久しぶり。元気だったー…ってあれ?」
マジーナは駆け寄る自分を受け止めてくれると思ったのだろうが、そんな彼女の予想とは裏腹に、バレッタは別の方向に向かっていた。
「んー…何ココ? あちし、ちゃんと家帰ったはずなのに…」
ジェシカは伸びをし、辺りを見回す。周囲の風景が頭に入ってきた頃には、自分の頬をつねった。
「いった…。夢じゃないねコレ。んじゃ、もしかして異世界? あちし転生しちった? はは、まさかね…」
独り言を呟くジェシカに、バレッタはまた第二人格が現れることを危惧したのか、跪いて両手を合わせ、勢いよく言った。
「ジェシカ、本当にごめん! アタシら、説明すんの忘れてて…」
「バレさん? 何でココにいんの? てか、マズさんもエーさんも、ハウりんまで…。え、どゆこと?」
ジェシカはアルバイト先の面々と、その向こうにいる見知らぬ顔を交互に見、怪訝な表情を浮かべていた。
そこに、私の出番ですねとばかりに、セタが現れる。
「突然お呼び出して申し訳ありませんジェシカ=P様。私めからご説明いたします」
「そうしてもらえると助かるよセタ。あとよろしく…」
ジェシカに伝え忘れたことに気づいてからずっと心配だったのだろう、バレッタは疲れた様子で脚を崩して言った。
「あーなるほど。マジで異世界なんスねココは。そんで、言ってみりゃ向こうの人たちとのオフ会とか、合コンとかみたいなモンっスよね?」
ジェシカはセタの説明を、自分なりに解釈した。
「んー…まぁそんなもんか。わかりやすく言えば」
「バカ。この後戦いがあるんだよ? オフ会や合コンにあるかそれが」
マズルにツッコミを入れるバレッタ。セタは会話を聞いていたのか、声を出して笑った。
「ははは。戦い抜きならば、ジェシカ様のおっしゃる通りかもしれませんね。ともかく、ご理解はいただけたようで嬉しいです。よろしければ、あちらの方々にもご挨拶なさってください」
セタはツルギたちを指し、ジェシカを促した。
マジーナたちも、新しい仲間に挨拶すべく歩み寄った。
「あなたがバレ姉たちの新しい仲間ね。あたしマジーナ。魔法使いやってます」
「魔法使い? すっげー初めて見た…。あちしジェシカ。しくよろ、マジりん」
「ま、マジ、りん…?」
続いて、ハウと共にワカバが声をかけた。
「こっちはワカバ君です。ドラシル族っていう種族の子、なんだよね?」
「うん、いちおう、魔物です。よろしくおねがいします」
「へー。魔物ってつまりモンスターじゃん。すげぇ。仲良くなろ、ワカちゃん」
ワカバと握手を交わしたジェシカは、次にクロマとエールの元へ向かった。
「彼女はクロマ君だ。向こうの世界では名のある高位魔法使いなんだったね?」
「なっ、名のあるだなんて…。それほどの者ではないですよ本当に。でも、仲良くしてくださいね」
「うん。あちしも仲良くしたい。しくよろね、クロさん」
戸惑う面々を尻目に、ジェシカは次々と声をかけていく。
一方、同じく初めて呼び出されたカサンドラは、ツルギの側にいた。
「どうやら話は嘘ではなかったようだな、ツルギ殿。私の探し求めていた者は、あの少女ということになるのか?」
「そのはずです。あのセタという人の言葉を借りれば、縁の仲間ということですが」
「なるほど、縁か。…うむ、確かに…」
カサンドラはジェシカを離れた位置からまじまじと見つめ、何かを納得したように呟いた。
ほぼ全員との挨拶を済ませたジェシカは、最後にツルギとカサンドラの元に来た。
「そんで、あんたがそっちの代表っスね。マズさんとナントカ体験ってのをしてんですよね」
「はい。ツルギといいます。一緒に頑張りましょう」
「りょ。しくよろッス、ツルさん」
「あはは…ツルさん、か」
苦笑いするツルギの隣で、カサンドラは未だにジェシカを観察するように見つめていた。視線をカサンドラに移したジェシカと、両者の目が合う。
「で、こっちの人は?」
「こちらはカサンドラさん。僕らの世界で最高職のパラディンを務めている方です。…ね?」
「あ、ああ。カサンドラだ。よろしく頼む」
どこか上の空だったカサンドラは、ツルギの声で我に返り、軽く頭を下げた。
「ふーん。ま、よろしくでーす。そんじゃ」
ジェシカはマジーナたちよりも簡単に挨拶を済ませ、マズルたちの元に戻った。
「ちゃんと挨拶終わったの?」
「してきましたよ。バッチリね」
管理職ゆえの相手方への気遣いか、バレッタは心配そうに確認した。ジェシカは悪びれる様子もなく、あっけらかんと答える。
一方で、カサンドラの心変わりを懸念するツルギも、彼女に尋ねた。
「どうですか? あなたの求める『守るべきもの』ですか、彼女は?」
「…まだわからないな。この後、魔獣とやらの戦闘があるのだろう? そこで判断しよう」
ツルギは安心と不安の入り混じった気持ちになった。
「それでは皆様。奥へと参りましょう。此度のご活躍にも、期待しております」
セタは号令をかけ、開いたままの巨大な扉へと歩き始めた。
「さて、とっとと片付けるか。みんな怪我ないようにな」
「えっと、僕らも生きて帰りましょう。必ず」
マズルとツルギ、両者とも全員の無事を願い、一行はセタの後に続く。




