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聖騎士はひと癖あり?

カサンドラ=ガルシア

聖騎士パラディンの女性。比類なき力と、的確な判断力を持つ。

 突如現れた女は、見るからに重そうな白銀の鎧で、首から下のほとんどを武装していた。左手にはこれまた重そうな大盾も持っている。ツルギは腰をさすりながら立ち上がり、女に声をかける。


「あたた…。あの、ありがとうございます。あなたは…」

「話は後だ。まずはこの魔物を始末せねば」

「はい。そうでしたね」


 鎧女は男言葉で諭した。魔物の腕から抜け落ちた槍を拾うと勢いよくもう一撃を腕に食らわせた。岩のような魔物の腕は、いとも簡単に切断されて地に落ちた。


「ヨクモ…。ユルサン、ニンゲン…!!」


 魔物は激昂したらしく、残っている方の腕を振り上げた。攻撃はツルギではなく、完全に鎧女の方に向けられていた。


「やはり私を狙うか。…その方たち! 援護を頼めるか!?」


 鎧女はマジーナたちに向けて声を張り上げた。彼女らは戸惑っていたが、ツルギは女の言葉を後押しした。


「今はあの人の言う通りにしよう。何でもいいから、この危機を脱さないと」

「…そうよね。考えてる場合じゃないよね」

「わ、私も頑張ります。…私は大丈夫、今度はきっと上手くいく…」

「その意気です。ワカバも頑張ってくれる?」

「うん。あのひと、たすけてくれたからたすけてあげないと」


 ツルギたちは決意を固めて、魔物へと向き直った。


 魔物と鎧女は激しい攻防を繰り広げていた。片腕だけとはいえ、巨大な魔物の拳を難なく盾で防ぎ、槍で弾いていた。


「すご…。あの人、ホントに人間?」

「だと思いますけど…。なんだか私たち、必要ないような…」


 鎧女の人間離れした戦いぶりを目の当たりにしたマジーナとクロマは、思わず本音を漏らしていた。

 だが、流石に一人では限界があったようだ。魔物の薙ぎ払い攻撃で、鎧女の身体は大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「ぐっ…」


 トドメとばかりに振り上げられる巨腕。ツルギたちの加勢も間に合わず、鎧女はその下敷きになった。


「ああっ、そんな…!」


 悲痛な声を上げるツルギだったが、様子がおかしいことはすぐに気づいた。

 魔物の腕は地面から少し浮いていた。そして徐々に持ち上がっていく。見ると、鎧女の槍がつっかえ棒の役割を果たしており、さらに盾で腕を押し上げていた。あの一瞬の間に、鎧女は的確な判断をしていたようだ。


「みんな、早く援護を。あの人を助けないと!!」


 ワカバは木の根を操り、魔物の腕を拘束した。ツルギとクロマはそれを引っ張り、魔物のバランスを崩させて転倒させた。その隙に、マジーナは鎧女の身を案じに行く。


「大丈夫ですか? ごめんなさい、すぐに助けてあげれば良かったのに…」

「気遣いは無用だ。これしき何ともない。それと、助力に感謝するぞ」


 鎧女は即座に立ち上がると、槍を担いで魔物に向けて駆け出した。そして横たわる魔物の胴体に登ると、鎧の重さを感じさせない跳躍をし、腹部に思いきり槍を突き立てた。

 風穴の空いた魔物は、声を上げることなく動きを止め、塵になって消え去った。


「よし、片付いたな。怪我はないか?」

「はい、大丈夫です…」

「そうか。ならば言うことはない。さらば」


 鎧女は踵を返し、立ち去ろうとする。

 その時、マジーナはツルギの脇腹をつついた。


「あうッ…何、マジーナ?」

「あ、ごめん。コレコレ」


 件の輪が光っている。その場にはツルギたちと、鎧女しかいない。となれば、答えはひとつだ。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

「何用か? 礼なら不要だが」

「いえ…あ、違う。さっきは危ないところをありがとうございました。それもそうなんですが、少しお話が…」




 ツルギたちは鎧女を説得し、家に連れていくことには成功した。椅子に座らせ、ツルギは向かい側に座した。うちのハウや、クロマの面接の時と同じ構図だ。


 鎧女は突然の誘いにも怒ることもなく、至って普通にしていたが、底しれない威圧感のようなものが感じられた。

 戦いの中では気にする余裕がなかったが、クロマといい勝負の長さの銀髪を、前髪から後ろでまとめている。いわゆるポニーテールだが、俺にはそれが何かを連想させていた。


「して、話とは?」

「はい。…ええと、何から話せばいいかな。…まずはお名前を伺ってもいいですか?」


「まだ名乗っていなかったな。カサンドラ=ガルシアという。聖騎士、パラディンを務めている」


 鎧女ことカサンドラは、腕組みをしたまま答えた。パラディンといえば、なんとなく騎士の上位種という印象がある。だがツルギたちの反応は、俺の想像以上だった。ワカバは日向で眠っていたが、マジーナとクロマは顔を見合わせてざわつき、ツルギはハッと口に手を当てた。


「ぱ、パラディンって、戦士たちが目指す、最高職の?」

「そうだ。国王陛下直々に任命されている。証明書もあるぞ」


 カサンドラは一枚の書面を取り出し、机に置いた。内容は全くわからないが、金の装飾までついており、いかにも高貴な者が作った書だと理解できた。


「…本当にパラディンですね。紛れもなく。はい」


 どうやらツルギも、証明書の内容まではわからなかったらしい。俺は思わずニヤついた。


「理解いただけたか。では本題に戻ろうか」

「そうでした。単刀直入に言いますと、僕らのパーティに加入していただきたいんです」


 はっきりと話した方がいいと判断したのか、ツルギは一気に伝えた。カサンドラは黙って聞いていたが、重苦しく口を開いた。


「そう、パーティにな…。これまでも様々なパーティに勧誘されていたが、その度に断ってきた。私はどうにも、(こだわ)りが強いのでな」

「拘り?」

「ああ。私は『守るべきもの』を探している。今まで、それに値する者はいなかった。だから断ってきたのだ」


 話し終えたカサンドラは、おもむろに立ち上がり、言った。


「ということで、すまないが加入の件はお断りさせていただきたい」


「えっ? お断り…?」

「そうだ。申し訳ないがこの中にも、私の『守るべきもの』に値する者はいないと判断してのことだ」

「ちょっと待ってよ。この子とか、守るべきものなんじゃないの? ほら、まだ子供だし、力もないし」


 マジーナはワカバの元に行き、当人が眠っているのをいいことに遠慮なく言った。


「ぼく、そんなによわい? マジーナおねえちゃん」

「あ、起きてた? ごめんごめん。でも、守るに値する人じゃないの…?」

「その子は見たところ、ドラシル族だろう? 我々には無い力を持っているはずだ。それよりも、私が求めるのはもっと違う…。とにかく、加入は無しだ。失礼する」


 カサンドラは出口に向かおうとする。ツルギは慌てて声をかけた。


「待ってください! 近いうちに、必ずあなたが認める人が現れるはずです。それまで待っていただけませんか?」

「私の認める人? 『守るべきもの』に値する者が現れるというのか?」

「そ、そうです。私も出会えました。とてもためになる人に」


 カサンドラは全員の顔を見渡した。嘘かどうかを確認しているのだろうか。


「…少なくとも嘘ではないようだな。ではそれまで待とう。だが、もしも私の認める者でなければ、私はここを去ることになる。それでもいいか?」

「わかりました。それなら引き留める気はありませんから」

「うむ。では少しの間、世話になる。よろしく頼む」



 カサンドラが仮加入し、一応五人になったツルギチーム。ベッドに横になったツルギは、大きく息を吐いた。


「なんとか留まってくれたな。だが、あんなこと言って大丈夫か?」

「ああでも言うしかなかったでしょう。それに、今までの通りなら心配いらないですよ」

「今までの通りなら、な。あのセタのことだから、そうもいかないかもな…」

「やめてくださいよ。きっと大丈夫です。多分…」


 ツルギの言葉の途中で、意識が薄れていった。さて、あの女騎士に合う奴は、俺のところに現れるのか…。

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