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合流編Ⅲ・後

 クロマは未だにうずくまり、ツルギがそれをなだめている。その後ろで、魔獣との戦いも続行中だった。


「クロマさん…。お願いですから立ち上がってください。あなたの力が必要なんですから」

「…ごめんなさい。本当にダメなんです。昔からいつもこうで。一度でも失敗すると、途端に自信がなくなってしまって。もうこんな足手まとい、ほっといてください…」


 ツルギの懇願も、クロマを動かすことは叶わなかった。その会話を、マジーナは魔法を放ちながら近くで聞いていた。


 そんな二人の元に、もう一人近づく人影があった。


「キミ、クロマ君と言ったね。しっかりしたまえ。戦いは続いているのだから」


 エールだった。クロマと同じ目線までかがみ、厳しくも温かい言葉をかけていた。


「は…はい。でも、私には…」

「彼の言う通り、キミの力が必要なんだ。キミにしかできないことがあるのだからね」

「そ、そんなこと…。魔法使いなら、マジーナさんもいますし…」

「彼女には彼女の、クロマ君にはクロマ君の強み、そして弱みもある。ゆえに得意なこともそれぞれあるはずだ。違うかな?」


 クロマは何も言わず、帽子の隙間からエールの身体を凝視する。エールは答えを待たず、腰を上げた。


「答えは急かさない。我々は信じて待っているよ。キミの勇気を、強さをね」


 その場から離れようとするエール。クロマは一瞬の間を置いてから立ち上がり、その背を追った。


「待ってください。私も…!」


「そう来ると思ったよ。では、参ろ…」

「あいつの角、多分あと一発くらいで壊れるわよ。早く、あんたの魔法じゃなきゃダメなんだから」

「は、はい。今すぐに」


 エールの言葉は、もう一人の魔法使いに遮られた。マジーナに連れられ、クロマは魔獣の元に向かう。


「僕たちも行きましょう、エールさん」

「あ、ああ。行こう、ツルギ君」


 エールもツルギと、戦いの場に向かう。



 マズルたちは攻撃をしては距離を取り、魔獣を翻弄していた。だが、倒すことはおろか角の破壊もままならなかった。


「もうかなりの弾を撃ち込んでるのに、効いてる気配なしか。相性が悪いとか、あるのかね?」

「さあな。とにかく、俺の体力もギリギリなんだが…」


 精神エネルギーを攻撃にしている関係上、マズルは消耗していた。ハウとワカバによるサポートにも、限界があった。


「"メガ・レール"!!」


 躱す気力もなくなったマズルに突進を仕掛けようとする魔獣に、大きな雷撃が落ちる。ひび割れた魔獣の角は、その一撃で粉々に破壊された。


「や、やった…。本当にできた…。私の魔法、ちゃんと効いてたんだ…」


 自分の角を破壊した相手を確認した魔獣は、標的を変えると再び突進を仕掛けた。しかし、クロマに追いついたツルギとエールがそれを迎え討つ。


「「やああっっ!!」」


 二人の剣の切っ先が、魔獣の身体を捉える。左右から斬撃を食らわされた魔獣は、足をもたつかせると地に伏し、動きを止めるとそのまま消滅した。




 魔獣討滅後、束の間の休息時間。エールは各々の元を廻り、活躍を労っていた。


「ツルギ君の剣の腕前はなかなかのものだったね。今度、私にもそちらの剣術をご教授願いたい。ともに切磋琢磨し、技量を高めようじゃないか」

「いいですね。僕も今より強くなれたら嬉しいです。是非ご一緒したいと思います」


 エールは満足げに頷くと、次はハウとワカバの所に行き、賛辞を呈した。


「ハウ君も素晴らしい活躍だったね。キミの演奏で、あの魔獣の動きを鈍らせていたんだろう? 影の功労者といったところだね」

「それほどでも…。ボクはただコレを弾いてただけですから。それよりも、彼はみんなの回復をしてくれてたので、労いはそちらに」

「そうらしいね。おかげでいつもより身体が軽かった。ありがとう、ワカバ君」

「どういたしまして。やくにたてたならよかった」


 エールは次に、クロマの所に向かう。クロマはツルギたちから距離を取り、独りで立ち尽くしていた。


「やはり一番の功労者はキミだろうね、クロマ君。もっと自信を持ってもいいはずだよ」

「…私、ずっと見栄を張ってたんです。失敗すると、さっきみたいに弱気になってしまって、しばらく立ち直れなくて。そのうち、他の人たちは面倒くさいと離れていって、余計に自信をなくしてしまってまして…」

「そんなことがあったのか。だが今回の戦いでわかっただろう。キミにはキミの強みがある。できることも、できないこともあるということだ。私とて、不得意なことはひとつやふたつではない。現に、クロマ君には我々にはできない魔法が使えるじゃないか」

「そうですが、魔法なら私じゃなくても…」


 そこに、マジーナは歩み寄った。拳を握りしめ、エールとクロマをじっと見つめている。


「マジーナさん…。見たでしょう。私、ダメな人間なんです。この前のクエストも、偶然上手くいっただけ。本当は不安で不安で仕方なくて。あなたを不快にするようなつもりはなかったんです。だから…」


「…ごめんなさい!」

「そう、ごめんなさ…へっ?」


 予想外の返答に、クロマは素っ頓狂な声を上げた。マジーナは直角に頭を下げていた。


「あなたにはあなたの悩みがあったのね。私、そうとは知らずに…。色々と辛く当たって、本当にごめんなさい。許してくださいなんて、言えないわよね…」

「許してだなんて。私の方こそですよ。どうか気にしないでください」


 頭を下げ合う二人を側で見守りながら、エールは再び満足そうに頷いていた。


「互いを認め合い、和解するこの光景。実に美しいじゃないか。良かったね、クロマ君」

「はい…。すごく嬉しいです。魔法塾の試験で満点合格できた時以上かも…」

「魔法塾? あなたもあそこに通ってるの?」

「ええ。もう修了してますけど。私、そこの第七期生です」

「…! てことは、私の先輩…!? そうだったの…」


 マジーナは驚きを隠せなかった。クロマに背を向け、腕を組んで何かを考えている。心配そうに、クロマは声をかけた。


「あ、あの、マジーナさん?」

「よーし、決めた。クロマさん、あなたは今日から私の先輩兼、友達兼、ライバル兼、越えるべき壁よ! よろしくね」

「なんだかいっぱい課されてますけど…。で、でも、認めていただけるならなんでもいいです。こちらこそよろしくお願いします!」




 和解を果たしたクロマとマジーナを、ツルギとマズルたちは遠目に眺めていた。


「どうやら上手くいきそうだな。おたくの魔法使いたち」

「そのようですね。こっちの心の負担もなくなりそうで一安心かな」

「エールさんの応援、効果てきめんですね。ボクまで自信が湧いて来ましたよ」

「マジーナおねえちゃんも、元気でてよかった。エールおにいさんのおかげだね」

「あの子も難しい年頃だし、多目に見てあげてよ。アタシもできる限り、相談に乗るからさ」

「頼むぜ。お前じゃなきゃ務まらないしな。…さてと、ちょっとマジーナを借りてもいいか?」


 マジーナたちが合流しようと集まって来ると、マズルはツルギに囁いた。


「はい。構いませんけど…。というか、本人に言ったらどうですか?」

「そうだな。ちょっくらいってくる」


 マズルはマジーナに近寄ると、なるべく不審に思われないように声をかけた。


「マジーナ、ちょっと話、いいか?」

「…珍しいね。マズルさんから話なんて。いいよ。何か?」

「ああ、まぁちょっとな。…その、あんたたちのことも俺はずっと見てたわけだ。あのクロマに対する態度とか、な」

「あはは…。そうだったね。見てたんだよね。恥ずかしいトコ」


 マジーナはマズルから視線をそらし、頬を掻いた。


「そういうこと。ツルギから聞いてるはずだが、俺もあのエールには少しばかり思うところがあってな。あんたの気持ちもちょっとわかるってことだ」

「そっか。似た者同士だね、私たち。でも私の方は、ただの馬鹿な嫉妬だったからさ。マズルさんの方は簡単な問題じゃないんでしょ?」

「まあな。でも、マジーナを見てたら、俺も意地張ってないで、あいつのことも理解するよう努力しなきゃって思ってな」

「そうなんだ。お互いに頑張ろうよ。マズルさん」

「ああ、お互いにな」


 そこに、セタを含む全員が合流する。


「話は終わりましたか? お二人とも」

「世界を越えた友情、いや、もしかして恋かな。美しいじゃないか」

「んなわけねえだろ、ボケが。やっぱりお前とはやってられな…」


 場の空気が凍りつく。エールはさほど気にした様子はなかったが、マズルは後悔するように頭を掻いた。


「マズルさぁん…。今約束したばっかじゃん」

「悪い。条件反射だ。だんだん慣れていくはずだから」

「もう、改めて約束、だからね」


 マジーナは小指を差し出し、マズルは照れくさそうにそれに応じ、指切りをした。




 そして別れの時間。ツルギたちとマズルたちはそれぞれ並び、元の世界ヘ帰る準備を整えていた。


「それではハルトダム王国の諸君、またお会いできる時を楽しみにしているよ。ごきげんよう」

「スピルシティの皆さん。ありがとうございました。次に会う時までには自信をつけておきます。また、よろしくお願いします」


 クロマとエールの挨拶が済むと、セタは号令をかけた。


「次の追体験はツルギ様の世界からにしましょう。マズル様もお疲れでしょうし」

「…今回はその方がありがたいかもな。順番はお前の気まぐれか?」

「いえ。こちらにも都合というものがありまして。それでは皆様、また次の機会に…」


 セタは全員を、元の世界へと送還した。




 魔獣を倒したその場に、セタひとりが取り残された後、彼はまた何者かと連絡を取っていた。


「私です。残すところ、あとお一人ずつとなりました。集めるべきお仲間は。…ええ。もう少しお待ちください。その後のプランも考えてありますので」


 連絡を終えると、セタも姿を消していた。

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