表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/135

合流編Ⅲ・中

 セタの後ろを、言われるがままについて歩く一行。既に開かれた巨大な扉を二つくぐり抜けた頃、未だに不安の色を隠せない様子のクロマは、おずおずとツルギに尋ねた。


「あの、狭魔獣って、どんなのなんですか…?」

「姿はよく見る動物とか、僕らの世界の魔物とかと変わらないですよ。でも、どこか違和感があるというか…。なんだろう?」


 そこに、会話を聞いていたのかセタが口を挟んだ。


「身体の一部に武器や凶器が含まれている点でしょう。鉄球と鼠、蛇と針、という具合に」

「確かに。そんな生き物、これまで見たこともないですけど、どこに生息しているんです?」

「皆様とは違う世界、とだけ申しておきましょう。私も奴らのすべてを存じているわけではありませんゆえ。狭魔獣という名称も、便宜上そう呼んでいるだけであります。どこから生まれて来るのか、あるいは何者かが生み出しているのかも…」


 と、そこでセタは言葉を切った。目の前に、次の魔獣が見えたのだ。鋭く尖った二本の角は先端で一つになり、螺旋状になっている。大きな蹄で地面を掻いており、一見すると牛のような魔獣だった。


「『オックス・ピアー』という魔獣です。槍と猛牛の混合種ですね。あの巨大な角にお気をつけください。もちろん、サポートはいたしますが…」

「さっさと終わらせればいいんだろ。行くぞ」


 苛立たしさを隠さずに長い説明を遮り、マズルは銃を構える。それにならい、各々が戦闘態勢を取った。


 魔獣の攻撃は目の前の相手に突進を仕掛けるという単純なもので、避けた後には大きな隙もできていた。だが長い角が厄介で、油断していると魔獣が向きを変えた時に命中しそうになった。


「うおっと危ない。接近戦は避けた方がいいな…」


 辛くも角を避けたツルギは、身軽にステップを踏んで距離を取った。


「大丈夫ですか、ツルギさん? ボクも攻撃ができればいいんですけど…」


 逃げた先にいたハウと、彼女に寄り添うワカバはツルギの身を案じた。離れた場所で弾を放つマズルに代わり、ツルギは指示を出す。


「大丈夫。それならこの前と同じように、あの魔獣の弱点になる音を奏でてもらえるかい?」

「了解しました。やってみます」

「頼みますよ。ワカバも回復の空間を作って、みんなの体力を少しでも減らさないようにお願いできる?」

「うん、わかった」


 ハウは楽器の調律をし、魔獣の反応を探った。ある周波数の音を奏でた時、魔獣の足の動きが鈍り始めた。


「ええと、この音かな。いやこっち? …うん、これならイケそう」


 ワカバの回復の空間も、ハウの音楽とともに広がりを大きくしていた。その感覚は、マズルにも届いていた。


「ハウたち、上手くやってるみたいだな。本当なら、俺が指示してやらなきゃいけなかったのに」

「その通りだよ。アンタ、エールのこと気にしすぎで大事なこと見落としてんじゃないの?」


 銃に魂を込めながら、バレッタは問いかける。マズルは自覚はあったものの、全てを認めたくはなかった。


「そんなことねぇよ。こいつを倒せば済む話だ。お前も集中しろよ」

「…はぁ、素直じゃないね。まぁ、前から知ってたけどさ」


 その頃、クロマは攻撃の機会を窺っていた。


「本当に初めて見る怪物…。私の魔法でやっつけられるのかな…」


 考えあぐねるクロマに声をかけたのは、エールだった。彼もまた、攻撃の機会を窺っていたのだ。


「キミ、戦わないのかね?」

「は、はいっ!? いえその、様子を見てまして…」

「そうか。それは大切なことだ。準備ができたら見せてくれ。キミの得意とする魔法というのをね」

「はぁ…。わかりました」

「うむ。では、私はお先に行かせてもらうよ」


 エールは細剣を片手に構え、魔獣に向かっていった。


「はっ、やぁっ! ふっ!!」


 巧みな剣さばきで角を切りつけ、軽い身のこなしで突進を躱すエール。戦闘技術は相当なものだったが、接近戦ともなるとやはり不利だった。


「あの人、苦戦してる…。私が助けてあげないと。ようし…」


 クロマは杖を構えると、大きく息を吸って呪文を詠唱した。


「当たって、"メガ・エル"!!」


 大きな火の玉が、魔獣へと飛んでいく。魔法が角に命中し、熱を帯びた。本体にダメージは無いように見えたが、角には僅かにひびが入っていた。


「効いてない…? いや、もっともっと撃ち込めば…」


 角のひびを見つけたマジーナは、火の魔法を連射した。だが、それ以上の損傷は与えられなかった。


「ちょっと何やってんのよ。あなたも早く…」


 魔法を一発放ったきり、動かなかったクロマ。マジーナは急き立てるが、クロマは予想外の言葉を発した。


「あぁ…。やっぱり私はダメなんだ…」

「…え?」


 クロマは膝をつき、うずくまってしまった。

 すぐさまツルギは駆け寄ると、彼女の状態を案じる。マントと帽子に覆われたクロマは、ただの黒い塊に見えた。


「クロマさんどうしました? どこかやられたんじゃ…?」

「…い、いえ違うんです。さっきの精一杯の攻撃が効かなかったので、もうダメだと思って…」


 帽子の隙間から少し顔を覗かせ、クロマは弱々しく言った。昨日の活躍が嘘のようだ。ツルギはそう思った。


「で、でも、昨日は大活躍だったじゃないですか。あの調子で頑張ってもらえれば」

「昨日は上手くいきましたけど、今回は相手が違います。きっと昨日みたいにはいきません…」

「そんな…」


 クロマは再び、顔をうずめてしまった。

 魔獣はその間にも、マジーナたちを翻弄していた。セタは得意の障壁を張り、全員を魔獣から護っていたが、たった一撃で障壁は破壊されてしまった。


「凄まじい力ですね…。私の障壁でもこれが限界ですか」

「ちょっとセタ! アタシらを呼んどいて、そりゃ無責任じゃないのかい?」


 バレッタはセタに苛立ちをぶつけるが、当の本人は至って冷静だった。


「問題ありませんよ。皆様を信じておりますからね」


 セタの視線の先には、未だにうずくまるクロマの姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ