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合流編Ⅲ・前

 古びた石柱が倒壊し、ひんやりとした空気が立ち込める謎の空間。セタにより、マズルたちはまたしてもそこに召喚されていた。


「…何度目だ? ここに来るのは」


 自らの身体と、仲間たちの姿を確かめたマズルは呟く。その中にエールの姿を確認すると、思わず視線を外していた。


「三回目だったはずです。もうだいぶ慣れっこにはなりましたね」


 同じく身体と仲間を確認し、答えるツルギ。その視線は、自然とマジーナに向いていた。


 マジーナはふてくされた表情で立っていた。原因は、二人とも良くわかっていた。


「よいしょっと…。ワカバくーん、こっちこっち」

「ハウおねえちゃんだ。わぁい、あいたかった」


 楽器を背負い直し、手を振って声をかけるハウ。ワカバは嬉しそうに駆け寄り、大胆にも抱きついた。


「わわっ、いきなり? またボクの曲、聴きたいんだね」

「うん、ききたい。ずっとまってたんだ」

「嬉しいな…。でも、やることやってからにしようね」


 和気あいあいと親しむ二人。その様子を見ていたエールは、バレッタに話しかけた。


「ふむ、どうやら話は本当に真実だったようだね。無論、疑っていたわけじゃないがね」

「それはどうも。アンタと同じように、向こう側にも新しい仲間がいるはずなんだけど…」


 バレッタの探す相手は、少し離れた場所にいた。物珍しそうに辺りの景色を見回している。身体は相変わらず、マントで隠したままだった。


 ツルギは戸惑う彼女の元へと駆け寄ると、声をかけた。


「クロマさん、さっき話した通りなので。あちらが異世界、スピルシティの方々です」

「は、はぁ…。そうなんですか。実際に目の当たりにすると信じられないというか…。本当なら、嫌でも信じなきゃいけないはずなのに。…うう、やっぱり夢じゃない」


 クロマは自分の頬をつねって現実を確かめた。バレッタは、そんな二人の元に歩み寄る。


「ツルギ、そちらが新しいお仲間だね?」

「そうです。クロマさんという、高位の魔法使いです」

「は、はじめまして。クロマ=メノウです。よろしく、お願いいたします」


 緊張ぎみに、クロマは挨拶をした。頭を下げた際に手が滑り、マントが解かれた。


「あっ、しまっ…」

「へぇ…こりゃなんというか…。すごいね」


 露わになったクロマの身体を見たバレッタは、思わず言葉を漏らした。


「すみません、色々訳ありでこんな格好してるんです。あまり気になさらないでください…」

「ああごめんね。アタシ、バレッタっていうんだ。これからよろしく、クロマ。…ところでツルギ、もう一人の魔法使いは一体どうしたんだ? 前は一直線にアタシんとこに来たってのに」


 バレッタはチラチラとこちらの様子を伺うマジーナを見ながら尋ねた。


「こっちも色々と訳ありなんです。申し訳ないんですけど、バレッタさんから迎えにいってあげてもらえますか?」

「構わないけど。何かあったのかい?」

「簡単にいえばすこぶる機嫌が悪いんです、彼女。だからあまり刺激しない方がいいかも…」

「はいよ、わかった」


 バレッタはマジーナの元へと向かった。


「マジーナ、何があったか知らないけど、言いたいことがあるなら話してごらんよ」

「…いいわよ。あんたに話しても、何の解決にもならないし」

「意地張ってんじゃないの。前に会った時は、次に会えるのを楽しみにしてるって言ってたじゃないか。吐き出してみたら、楽になるよ」


 マジーナは拳を震わせ、バレッタに背を向けていた。だが、意を決したのか振り向くと、ワカバのように抱きつき、涙まで溢れさせた。


「バレ姉…。私…私…!!」

「よしよし、話してくれる気になったね。上出来だよ」


 泣きじゃくるマジーナを見たハウは、空気を察してワカバを連れて距離を置き、ツルギたちの元に合流した。


「なんだか大変そうですね。マジーナさん」

「私のせいなんです。ごめんなさい、やっぱりパーティに加入すべきじゃなかったのかも」

「そうなんですか…」


 その時、セタがどこからともなく現れる。


「お二人が落ち着きになるまで、私から説明をいたしましょう。エール様、クロマ様」

「ふわっ!? あ、あなたは一体…? どこから…いつの間に?」

「キミが例の案内役だね。話には聞いているよ。神出鬼没の男だとね」


 慌てふためくクロマとは対照的に、エールは冷静に対応した。クロマも取り乱した自分を省みたのか、セタに向き直って傾聴の姿勢を取った。




「なるほど。マズル君とツルギ君の精神がお互いの世界で追体験とやらをし、我々のような仲間を探し出していたというわけだね」

「それで、ツルギさんの世界では私が、マズルさんの世界ではエールさんが仲間になったと…。これで合ってますか?」

「さすが飲み込みが早くていらっしゃる。ご存知とは思いますが、この後魔獣の討伐があります。そちらもよろしくお願いいたします」


 セタは命がけの戦闘にも関わらず、仕事の依頼のように頼み込んだ。


「私も剣の腕には自信があるが、果たしてその狭魔獣に通用するかどうか。まぁ、どちらにしろ全力を尽くすさ。期待してくれたまえ」


 エールは自信たっぷりに応える。その発言を尻目に、クロマはひとり呟いた。


「すごい自信だなぁ…。私の魔法、どのくらい役に立てるかな。効かなかったらどうしよう…」


 セタの説明が終わる頃、マジーナの感情も落ち着きを見せていた。バレッタは歳上の宿命というべきか、マジーナの怒りを受け止めて諭していた。


「嫉妬するのは仕方ないと思うよ。でも彼女は悪意があってパーティに入ったわけじゃないだろう? アンタの出番を奪ってやろうとか、嫌がらせしてやろうとか、考えたら切りがない。そうじゃない?」

「…そうだけど。私の立場が危ういと思ったら、そう考えちゃって」

「アンタはアンタのできることをやればいいの。彼女にはできないことがきっとマジーナにもある。そう考えた方が得だと思うけどね」

「…うん。ありがと。ちょっと元気出た」


 二人の会話が終わるのを見届け、セタは号令をかけた。


「それでは皆様、ご案内いたします。私の後についてくださいませ」


 ツルギ一行とマズル一行はセタの背を追う。マズルはエール、マジーナはクロマと距離を置いたままに。

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