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合流編Ⅱ・後

 周囲に蔓延する毒の空気。その影響でワカバを除く全員が苦しみ、地に伏せてしまっていた。

 そんな状況下でも、当人はすやすやと寝息を立て始めていた。


「ちょっと、困るよ…。そんな話、聞いてな…い……」

「この子ね、太陽の光が力の源みたい。あんたが眠っていた間も、ずっと日向ぼっこしてたから…。もっと早く気づくべきだったわね…ここが暗い場所だって」


 なんとかしてワカバを起こそうとするツルギに、説明するマジーナ。その間にも、毒はますます濃くなっていた。


 一方のマズルたちも、打つ手なしに苦しんでいた。


「くそっ、どうしたらいい…。何か役に立ちそうな物はないか……」

「参ったね…。薬なんて持ってきてないし、第一この毒に効かないだろうし…。そういえば、ハウ……」


 ハウは口を押さえ、姿勢を低くしていた。なるべく毒を吸い込まないようにしているかのように。


「うぅ…。まさかボクの人生、こんな所で終わるなんて…。せっかくいい人たちと職場に巡り会えたと思ったのにぃ…」

「ハウ…本当に申し訳ないよ。恨まれても仕方ない…」

「ぐすっ…。いいんです、誰かを恨んでもどうにもなりませんから。…せめて、人生の最期は、大好きな音楽と一緒に…」


 ハウはおもむろに弦楽器を抱えると、震える手で弦を弾いた。

 その音は広間に響き、全員の耳に届いた。眠りかけていたワカバだったが、その音を聞いた途端に目を開け、立ち上がって辺りを見回した。


「ん…なに、いまの?」


 ワカバは音の発生源を探し始め、ハウの元へと行き着くと、弱々しく音を鳴らす彼女の側に腰を降ろし、不思議そうに楽器を見て尋ねた。


「ねぇ、さっきのおとって、これ?」

「え? そうだけど…」

「もっとききたい。きかせて」

「う、うん。いいよ」


 ハウは言われるがままに、独学の曲を奏でた。その旋律を聴くワカバは、普段の眠そうな状態とは打って変わって、快活になっていた。


「わぁ…なんだかげんきでてきた。ありがとう、おねえちゃん」

「ど、どういたしまして…」

「そうだ、みんなもげんきにしてあげるね」


 ワカバは身体の前で手を組むと、みるみるうちに辺り一帯の空気が浄化されていった。やがて、ツルギとマズルたちの身体の毒も消え、立ち上がれるまでに回復していた。


「これは…ワカバの力なのか?」

「ええ。でもどうして急に? それに全員の体力と異常を回復するなんて…」

「考えるのは後だ。早いとこアイツを」


 周囲の空気が浄化されたことで、魔獣は困惑していた。再び、毒を撒き散らそうと尻尾を持ち上げたが、ツルギはそうはさせまいと渾身の力で剣を振り降ろし、先端の針を切り落とすことに成功した。


「これでもう毒とはさよならだ。アニキ、トドメは任せました!」

「よし。バレッタ、頼む!」

「はいよ、やっと出番だね!」


 バレッタは銃に魂込めを行い、エネルギーの装填を確認したところで、マズルは一気に放出した。しかし、蛇の鱗は丈夫なのか、弾は弾かれてしまった。


「効かない。万事休すか…?」

「バレ姉、マズルさん。この前みたく私の力を使ってみて!」


 バレッタは前回と同じように、マジーナの魂を銃に込め、マズルはそれを撃ち出す。今度は雷の走った弾が放たれたが、それもほとんど通用していなかった。


「ダメか…。一体どうしたら…」




 その頃、戦いを見守るハウとワカバの元に歩み寄る者がいた。セタだった。


「ハウ様、よろしいですか?」

「は、はい。何でしょう…?」

「あの魔獣目がけて、曲を奏でていただきたいのです」

「きょ、曲を? どうして…?」

「理由は後です。皆さんをお助けしたいとお思いならば、私の言う通りにしてください」


 ハウはセタの言葉に従い、魔獣に向かって弦を弾いた。その音を受けた魔獣はたちまち長い身体をくねらせ、身を守るかのように縮こまった。


「…? 一体どうした?」

「わかりませんけど、なんだか身を守ってるみたいです」

「もしそうなら、守りが甘くなったってことだよな。今なら…!」


 マズルは銃に残っているエネルギーを全て解き放ち、魔獣に命中させた。予想通り、それまで通用しなかった攻撃が通り、魔獣は大きな叫び声を上げた後、ドスンという地響きとともに倒れて動かなくなった。






「…どう? ボクの演奏、気に入ってくれた?」

「うん。とっても」


 戦いを終え、束の間の憩いの時間を過ごす一行。ハウはワカバに、音楽を聴かせ続けていた。彼はその間、恍惚として聴き入っていた。


「そっか…。あの魔獣には嫌な音だったみたいだし複雑だけど、君のお気に入りになってくれたなら、いいか」

「ぼくは好きだよ。おやまにひとりでくらしていたときはこんな音、きいたことなかったから」

「お山に一人って…。本当に?」

「その子、人間じゃないのよ。ドラシル族っていう、魔物に近い種族なのかな…?」

「へぇ…魔物…ドラシル族…。そんな夢みたいな話、本当にあったんだ…」


 マジーナの補足説明に、ハウは驚きながらも興味を示した。ワカバの頭を撫で、生えているのが草だとわかると更に驚いた。


「すごい、植物でできてるんだ。お花に音楽を聴かせたら喜ぶって聞いたことあるけど、まさか本当に…」

「ねぇ、もっときかせてほしいんだけど。だめ?」

「ううん、喜んで。これね、『アグリット』っていう楽器なんだけど、もっと違う音が出せるの…」



 その様子を、離れた場所で見守るツルギたち。自分たちが連れてきた仲間たちのおかげで危機を脱したことに、ひとまず安心していた。


「一時はどうなることかと思ったが、なんとかなったな」

「ですね。僕らの仕事とクエスト、大成功ですよね」

「にしても、あそこまでフィーリングが合う相手だったなんてね。アタシとマジーナもだけどさ」

「私のお贈りしたリングが役に立ちましたね。もちろん、一番は皆様の頑張りのおかげですが」


 いつの間にか会話に混ざるセタ。未だに彼を胡散臭いと感じるマズルは不満を漏らす。


「お前、あの二人の相性知ってたんだろ? 音楽聴かせて元気になるのわかってたんなら、最初からそう言えっての」

「私は何も存じ上げておりませんでしたよ。ただ、お二方のご活躍を信じていただけで御座います」

「…ったく、食えない奴だ」

「それほどでも。さて、そろそろお還ししませんと、休息が取れませんからね…」


 セタはマジーナ、ハウ、ワカバを呼び寄せ、別れの時間であると説明した。


「そうですか…。名残惜しいけど、また会えるんですよね?」

「はい、必ず。次は新しいお仲間とご一緒に」

「わかりました。それじゃまたね、ワカバ君。ツルギさんとマジーナさんも」

「うん、またきかせてね、ハウおねえちゃん。マズルおにいちゃん、バレッタおねえちゃんも、またね」


 ハウはワカバの目線までかがみ、握手を交わした。

 マジーナとバレッタも、二度目の別れを惜しんだ。


「バレ姉、ゆっくり話できなかったけど、次に会う時を楽しみにしてる。それまで元気でね!」

「こちらこそ。土産話を用意しとくよ。達者でね」


 最後にツルギとマズル。彼らにとっては一連の流れが生活のひとつになったためか、慣れ始めていた。


「そんじゃ、またお前の世界からか。よろしく頼むぜ」

「了解です。頑張りますよ」


 だが、今回セタは唐突に新しい提案をした。


「お待ちください。次の追体験なのですが…。マズル様の世界から始めるというのはいかがでしょうか。普段と同じでは面白くないでしょう?」

「…別に面白くもなんともないが。俺はどっちでも構わねぇよ」

「僕も構いませんよ。どのみち、二人とも同じことするんですから」

「かしこまりました。それでは皆様、ご活躍を期待しております…」


 セタの言葉が終わる頃には、全員の意識が消えていた。

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