合流編Ⅱ・前
再び、謎の空間に呼び寄せられたマズル一行とツルギ一行。今回はそれぞれ、新しい顔を一人ずつ増やしての邂逅だった。
「…またここに来たか。そんで、やっぱりあいつらも一緒に」
「ええ。大方の予想通りですね」
二度目の顔合わせとなるバレッタとマジーナは、互いの姿を確認すると、まるで数年ぶりに会う友達のように駆け寄っていた。
「バレ姉! やっぱり会えた!!」
「久しぶりだね、マジーナ。つってもまだ数日ぶりか。元気だった?」
「うん、元気元気。また話聞いてもらいたくて、うずうずしてたんだから」
「アタシもだよ。仕事済ませたら、また話そうじゃないか」
その一方で、ワカバはすやすやと眠ったまま、硬い地面に横になっていた。ハウはというと、状況を整理しようと辺りをキョロキョロと見回していた。
「あの…すみません。ここは一体? それに、いつの間にボクも皆さんもこんな所に…?」
「ホント悪い。上手く説明ができなかったもんでな。これからちゃんと話すから」
知らない顔ぶれにも戸惑うハウに、マズルは謝罪する。そこへ、セタが割り込んできた。
「マズル様、説明は私の仕事です。どうかお任せくださいませ」
「…その方がありがたいが、ちゃんと包み隠さず話すことだな。さもないと…」
マズルは銃の先をセタに突きつけ、セタはわざとらしく肩をすくめた。そこに、ワカバを背負ったツルギがやってくる。
「この子にもお願いします。ワカバ、ちょっとだけ起きてくれる?」
「んー、なんですか? クエスト?」
ワカバは眠そうに目をこする。だがツルギの背から降りると、自分の足でしっかりと立った。
「承知いたしました。ではハウ様、ワカバ様、よくお聴きください…」
セタはハウとワカバに、件の説明を始めた。
「えっと、つまりこちらの皆さんは異世界の方々で、マズルさんとツルギさんは追体験という力でお互いの様子を確認している。それぞれの世界で仲間を探して、見つかったらここに来ることになっている…。これで合ってます?」
ハウはところどころ質問を重ね、ようやく整理することができた。しかしセタは満足げだった。
「上々ですよ。ご理解いただけて嬉しいです。ワカバ様はいかがでしょうか?」
「なんとなくだけど、わかった。これからここで敵とたたかえばいいんだよね」
ワカバはぼんやりとしているにも関わらず、説明の大半を理解しているようだった。
理解するのに必死だったハウは、一番大事な部分が頭から抜けていたらしかった。
「ごめんなさい、ボク戦いなんてしたことないんですが…。それどころか喧嘩だって経験ないのに…」
「問題ありませんよ。皆様一人ひとりの成すべきことをしていただければ。私も精一杯サポートいたしますゆえ」
「は、はぁ…」
笑顔でセタに諭されたハウは何も言い返せなかった。バレッタは彼女の肩に手を乗せ、優しく語りかける。
「申し訳ないねぇ。だけどこれも仕事のひとつだと思って頑張ってくれる?」
「私も頑張るからさ、頑張ろうよ。あ、私マジーナっていうの。よろしくね」
「はい…。よろしくお願いします」
女子組三人の会話がまとまった後、セタは号令をかけた。
「それでは皆様、参りましょうか。私の後についてきてください」
「さっさと済ませるぞ」
「頑張りましょう、アニキ」
「よーし、はりきっちゃうわよ」
「空回りしないようにね」
それぞれが会話を交わしながらセタの後につく中、残される形となったハウとワカバ。ハウはマズルたちの背中とワカバを交互に見、思い切ったようにワカバに話しかけた。
「い、一緒に行こっか…?」
「うん、いく」
歩調を合わせて、二人も仲間の後を追った。
一行は薄暗い空間の中をまっすぐ進む。その途中、通り過ぎた広間は、ツルギたちには見覚えのある場所だった。
「セタさん、今の場所ってもしかして…」
「お気づきになりましたか。そうです、以前あなた方が戦った場所。今回はそのさらに奥、別の狭魔獣が待ち受けているのです」
「ということは、現れる魔獣をやっつけていって、どんどん先に進んで行けばいいのよね?」
「その通りで御座います、マジーナ様。全ての狭魔獣を倒していただいた時、私の依頼はクリアとなります。長い道のりにはなるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」
話を聞くたびに、ハウの不安は積もる一方だった。今いる場所は自分には完全に場違いだと、ひしひしと感じられたのだ。
「はぁ…大丈夫かな」
「心配ないさ。あのセタって男、不思議な力で攻撃を防ぐことができるのよ。死ぬようなことはないはずだから」
「そうですか…。だけどボク、役に立てるのかどうか…」
「ま、いざとなれば俺たちが済ませちまうからな。今回は見学で終わったっていいだろ?」
「そうかもですけど、それじゃなんか申し訳ないというか…」
「ハウは生真面目ね。あんまり気張らないように」
一方のツルギたちも、戦いに備えて作戦を練っていた。
「今回はどんな奴が相手なんだろう。魔力の準備は大丈夫?」
「任せてよ。早く撃ちたくてたまらなかったの。何が来たって瞬殺よっ」
「…間違っても味方に撃たないようにね。ワカバも初めての戦い、頑張って」
「うん。みんなをかいふくしてあげればいいんだね」
「そう。頼りにしてるよ」
やがて一行は、大きな広間にたどり着く。その中心には、巨大で身体が長い生物がとぐろを巻き、一行を睨みつけていた。尻尾の先端には、ギラリと光る銀色の大きな針が付いている。
「あれが今回の敵…」
「はい。『ニードル・サーペント』です。尻尾の針や牙にご注意ください。身体の至るところに毒を持っています」
「サポートもしっかりしてくれよな。…それじゃ行くぜ」
それぞれが臨戦態勢を取ると、魔獣も大口を開け、牙をむき出しにして構えた。
魔獣は鎌首をもたげ、マジーナに狙いを定めたかと思うと、勢いよく噛みついてくる。彼女はなんとかそれを避け、逆に魔獣に狙いを定めた。
「おっと危ない。今度はこっちの番よ! "レール"!!」
マジーナの雷魔法がほとばしる。魔獣に命中すると、身体を痙攣させて動きが鈍くなった。
「あいつ痺れたのかしら。いいわね、あとはトドメをさせばおしまいよ」
「ふふん、見た? 私も成長してんだから」
喜ぶマジーナだが、魔獣は違う動きを見せていた。尻尾の針を持ち上げると、マジーナとバレッタのいる場所目がけて飛び込ませてきた。
「動きは単純みたいね。これなら楽勝…?」
ところが、地面に針が刺さると、そこから辺り一帯に煙のような物が噴出した。煙は無臭だったが、明らかに危険な匂いがした。
「…! これは、毒!?」
「まさしく。徐々に身体の自由が奪われ、やがて死に至るでしょう」
セタは淡々と説明する。その言葉通り、マズルたちは息が苦しくなっていき、膝をついてしまっていた。だがセタは、全く毒の影響を受けていないようだった。
「お前…呑気に解説してんじゃねぇよ…。なんとかしろ…てか、何で平気なんだ……」
「それは事情がありまして。申し訳ありませんが、私の力でも毒を取り除くことは叶いません。ご了承ください」
無責任な。そう言いたかったマズルだったが、喋る気力もなくなりかけていた。
ツルギも同じく意識を失いかけていたが、力を振り絞り、ワカバの元へと向かった。
「ワカバ…。君の力が必要だ。僕たちの身体の毒を…消してほしい…」
「ダメだよ。ツルギおにいちゃん」
「…え?」
ツルギは自分の耳を疑うように聞き返した。
「ここ、おひさまのひかりがないから。それにねむい。おやすみなさい…」
ワカバはツルギの前で横になり、目を閉じてしまった。




