仕組まれたからくり
勝者、ダイヤ。その事実を、到底マジーナは受け入れられなかった。自分の目を擦り、何度も審査員の人々を見たが、結果は変わることがなかった。
「どど、どういうこと? だって、明らかに私たちの方が勝ってるのに……」
「どこか他の所で負けているのでしょうか? でも、岩を砕く早さも正確さも、こちらの方が上だと思いましたが……」
自分たちの負けに戸惑いを隠せないマジーナとクロマ。そんな二人を、ダイヤは嘲笑う。
「オホホホっ!! 残念だけど仕方ないわよねぇ。だって、こちらの皆さんがそう判断したんだもの。それじゃ、約束通りあんた方はこれから私の奴隷になるってことで、いいわね?」
「ちょっと待ってよ。どうしても納得いかない……」
「往生際が悪いわよ。勇者っていうのは、そんなに傲慢な生き物なのかしら?」
自分のことを棚に上げ、傲慢呼ばわりするダイヤに、マジーナとクロマだけでなく全員が苦い思いをしていた。
ダイヤは悔しげな勇者たちを前に、満足げに不敵な笑みを浮かべて手を叩くと、どこからともなく怪物ダストたちが現れた。
「さぁあんたたちも、この子たちと同じく奴隷にして差し上げるわ。とっとと牢にでもぶちこんでおしまい」
ダイヤの号令で、ダストたちは勇者たちを囲み、逃げ場をなくした。
「どうしましょう? このままあいつの言いなりになるんですか?」
「まっぴらごめんだな。俺はできる限り抵抗するぜ」
ツルギとマズル、そして他の全員も、臨戦態勢に入ろうとした。
しかしその時、ダストたちは散り散りに吹き飛ばされることとなった。
「な、何事なの!?」
「はい、あちしでーす」
その場の全員が、声のする方向を向く。そこにはこそこそと何かをしていたジェシカと、彼女に頼まれごとをされたセタ。そして、フォーグ王国で鍛冶師をしていた、ヒノコの姿もあった。
「ヒノコさん? どうしてここに? それに、お二人とも今までどこにいらしてたんですか?」
ハウは突然現れた三人を見ると、目を丸くして驚き、尋ねた。
「ちょっと作戦というか、いいこと思いついてね。セタっちに頼んで、ヒノちゃん連れてきたの」
「私はただ頼まれただけです。あとはジェシカ様の心のままに」
「うん、ありがとね。それじゃヒノちゃん、お願い」
「あいわかった。任せといて」
そう言うとヒノコは、ダイヤと持参した何かの書物を、交互に見始めた。
「うん、なるほど……。やっぱりね」
「何よこの小娘は。あんたも奴隷になりたいの?」
まるで虫を見るような目で、ダイヤはヒノコを睨む。ヒノコは気にする様子なく、本を閉じてジェシカたちに向き直った。
「ジェシカさんの予想通りだったよ。あれは間違いなく、あたしの父作の魔法具だった」
「ありがと。それさえわかれば十分だね」
「ううん、お力になれてなによりだよ」
ジェシカとヒノコは息の合ったやり取りを見せたが、事情のわからない一同は困惑するだけだった。
「ジェシカ、一体どういうことなんだ? 説明してくれ」
「あの扇みたいな魔法具だよ。どこかで見たような見た目だったからもしかしてって思って」
「そう。それで家にあった過去の製作記録を持ってきたってこと。あの魔法具にはね、人の意識に作用して、思いのままに動かせる力が備わっているの」
ヒノコは、ダイヤの魔法具を指さしながら言った。ダイヤはその言葉を聞くと、僅かに動揺したように見えた。
「人を操るってことか? まさか、あの人たちは……」
「うん、見た感じわかる。あのダイヤって人に操られてるよ」
ダイヤは今度こそ、取り乱した様子を見せた。それまでの態度を一変させたのだ。
「な、何を根拠に……。ポッと出が偉そうに喋るんじゃないわよ」
「偉そうにって、作った本人じゃないけど、その娘さんが言ってるんだよ? どっちが信用できるのかな?」
ダイヤは黙りこくった。マズルたちは、仕組まれたからくりに気づいたことで士気が高まってきていた。
「用意周到なことだな。関係ない人たちを操ってまで勝ちたいとは」
マズルは腕組みをして言った。
「フェアな勝負をしようと言っていたが、聞いて呆れる。己の力に自身がないのか?」
カサンドラは吐き捨てるように言った。
「それじゃ、この勝負はなしってことでいいわね? もう一度勝負する? それとも、こっちの勝ちにしてくれてもいいわよ?」
マジーナは意地悪く言った。
するとダイヤは、突如として本性を表す。
「……ああ鬱陶しい虫けらどもめ!! どいつもこいつも偉そうにするんじゃないよっ!!」
ダイヤの魔法具から、以前街で使われたような衝撃が放たれた。マジーナたちは咄嗟に距離をとってなんとか回避し、前回と同じくハウの作り出す防御壁の後ろに隠れた。
「あいつ、なんて奴なの? 急にヒステリックになって!」
「性格悪いのはわかってましたけど、不正がバレたら激昂するなんて、厄介すぎますね……」
マジーナとクロマは攻撃をやり過ごしながら苦言を呈した。一方ダイヤは攻撃を更に苛烈にさせていた。
「さっきの勝負を見てわかった。あんたらを殺るのにこんな手間をかける必要なんてなかったんだわ。最初からこの力で潰してやればよかったのよ。さぁ、全員覚悟なさい!!」
「ぐっ、マズいです、このままじゃもちません……!」
ダイヤの魔法の力に、防御壁を張るハウは焦りを見せる。守りの力に限界が訪れようとしていた。
「二人とも、ちょっといいかい? アタシに考えがあるんだ」
極限状態の中、バレッタはマジーナとクロマの肩を掴み声をかけた。




