岩砕き
ダイヤ対マジーナ・クロマによる魔法対決。その内容は大岩を魔法で砕くというものだった。
三人の眼前にはそれぞれひとつずつの岩が置かれている。見た目も形が違う以外は大きさ、質感、色もほとんど同じに見えた。
「ちょっと、待ってもらってもいいかい?」
いざ勝負、という時になって、一声あげたのはバレッタだった。
「なんだい、せっかくの真剣勝負って時に。無粋な女だこと」
いかにも不快そうにバレッタを見るダイヤ。バレッタはそれを無視して続けた。
「勝負の前に、確かめさせてもらいたいんだ。その岩をね」
「……ふん、勝手にしなさいな。どうせ何もおかしな所なんて、見つかりゃしないんだから」
バレッタは岩の前まで歩くと、手を伸ばして触れた。ゴツゴツとした外見からは特に何も違和感はなく、触ってみても同様だった。
(三つとも変な所はなしか…。あのダイヤのことだから、何か仕掛けてるはずだと思ったけど、見当違いだったかね)
それぞれの岩を念入りに確認するバレッタに、ダイヤはしびれを切らして声をかける。
「ちょっと、いつまでそうしてるつもり? 始められないじゃない。待たせてんのわかってる!?」
「ごめんなさい。もういいから。どうぞ始めて」
「まったく、魔法も使えないのに偉そうに。まぁいいわ。どのみち、これから一生後悔させてやるんだから」
ダイヤが何気なく漏らした言葉に、マジーナは食いついた。
「ちょっと待って。今のどういう意味?」
「この勝負に負けた方は、何でも言うこと聞くのよ。ちなみに私が勝ったら、あんたたちを一生召使いにしてあげようと思うの。光栄に思いなさい」
ダイヤの横暴な提案に、見守るツルギやマズルたちも含めて全員が抗議した。
「そ、そんな……。勝手すぎる」
「そうだ。第一、そんな話聞いてねーぞ!?」
「それはそうよ。だって言ってないんだもん。何も知らずに負けて、絶望するあんたたちの顔が見られなくて残念だわぁ」
ダイヤは邪悪な笑みを浮かべた。彼女の底意地の悪さに、マジーナたちは怒りと恐れを感じていた。
「絶対勝とうね。クロマさん」
「ええ。皆さんの運命は私たちにかかってるんですよね……。負けられません」
クロマは自信のなさを振り払うように、杖を持つ手をぐっと握りしめた。
「準備はいいわね。それじゃ……勝負開始!!」
ダイヤの掛け声で、戦いの火蓋は切って落とされた。
「"エル"!!」
「"レール"!!」
マジーナとクロマは、即座に大岩に魔法を浴びせかけた。岩は煙をあげ、欠片を辺りに飛び散らせた。
「くっ、思ったより硬いわね……。もっと強い魔法じゃないとダメかな。だったら、"メガ・エル"!!」
「私も、"メガ・レール"!!」
二人は一心不乱に、魔法を放つ。一方、ダイヤも大岩に向けて魔法を放っていたが、二人ほど砕くことは出来ていないように見えた。
「ダイヤの奴、あれだけ偉そうなこと言ってたのに、口ほどにもないな」
当人に聞こえないように、ツルギの耳元でマズルは囁いた。
「本当ですね。僕から見ても、明らかにマジーナとクロマさんが優勢ですし」
それから数刻、三人の岩砕き対決は続いた。最終的には岩は形を無くすまで砕かれたが、そこに至るまでのスピードも破壊力も、ダイヤよりもマジーナとクロマが勝っていた。
「はぁ、はぁ……。やりましたね、マジーナさん」
「ええ。でも、やっぱすごいなクロマさん。あたしよりも粉々に砕けてるんだもん」
「それほどでも。マジーナさんこそ、私よりも早く砕けていましたよ」
「本当? 嬉しいな。でも、これならあたしたちの勝利で間違いなさそうね」
ダイヤ側の岩を見て、マジーナはホッと胸を撫で下ろして言った。
勝負が終わると、審査を務める街の人々がマジーナとクロマ、ダイヤの間に出てきた。
「さて、それでは勝者だと思う方に分かれなさい。審査……開始!」
ダイヤの一声で、街人たちは移動を始めた。迷っているのか、立ち止まってなかなか動かない者もいた。やがて全員が移動を終えると、予想だにしない結果が待ち受けていた。
マジーナ・クロマ側よりも、ダイヤ側の人数が僅かに勝っていた。




