フェアな勝負
ダイヤの館に入った勇者一行は、再び細心の注意を払って先へ進む。しかし、ここでも何も仕掛けはなく、あっさりと館の主の元へたどり着いた。
「よ、よくここまで来たわね。たっぷりともてなしてあげるわ」
ダイヤは勇者一行に対して凄みをきかせたつもりだったらしいが、焦りを隠しきれていなかった。
「あんた、ちょっと慌ててないか? まさかここを突き止めるとは思ってなかったとか……」
「う、うるさいわね。このダイヤ様がそんなことで動揺するとでも? アンタらのような虫けらごとき、簡単に始末してやるんだから!!」
ダイヤは強引に脅しをかけ、マズルを黙らせた。それから我に返り、冷静さを取り戻して続けた。
「おほん。私としたことが、こんな低俗の輩にムキになってしまったようね。ダメよダイヤったら」
「心の声のつもりかもしれないけど、全部聞こえてるわね……。本当に腹立つ女」
マジーナは腸が煮えくり返る思いをなんとか堪え、しかしダイヤにも聞こえる声で毒づいた。だがダイヤは彼女の声を無視して続けた。
「アンタ方の狙いはわかってるわ。私を倒してエクリプスの所に行きたいのでしょう? そうはさせないけど。オホホ」
勇者一行をおちょくるように笑いながら話すダイヤ。マジーナだけでなく、各々怒りがふつふつと沸き上がっていた。
「ああそうだよ。お前を倒させてもらう。お前に殺された、ハルケンのためにもな」
マズルはダイヤを睨みつけ、銃を引き抜いて突きつける。ダイヤは頭を振ってため息混じりに言った。
「あー嫌だこと。これだから低俗は野蛮でかなわないわ。それしか頭にないのかしら?」
「なんですって? 何が言いたいのよ! さっきから人を馬鹿にして!!」
マジーナは堪えきれずに怒り、ダイヤに向かって叫んだ。しかしダイヤは、またしてもマジーナの言葉が聞こえなかったかのように振る舞った。
「私、暴力は嫌いですの。勝敗を決するのは、傷つけ合いではなくても良くなくて?」
ダイヤはさらりと言ってのけた。だが、彼女に命を奪われたハルケンのこともあり、その言葉には空虚が感じられても仕方がなかった。
「よく言いますね。ハルケンさんはもちろん、街の人たちも攻撃していたのに」
「ほんとほんと。自分のやったこと憶えてないのかしらね?」
クロマはまだ怒りの収まらないマジーナに耳打ちし、マジーナは心から同調した。
「うるさい小娘どもだねぇ……。お黙り! さもなくば、アンタらから始末してあげるよ!!」
ダイヤは今度こそ我慢できなくなったのか、マジーナたちに向けて激昂する。マジーナとクロマは身構えつつ、それ以降は口をつぐんだ。
「そう、それでいいの。それじゃ、アンタらと私、魔法勝負ってのはいかが?」
「魔法勝負?」
「ええ。そちらにも魔法を使うのがいるようだし、この勝負ならフェアってものじゃなくて? アンタたちにも勝てる可能性があると思って提案したのよ?」
ダイヤは感謝しなさいと言わんばかりに言った。勇者たちは顔を近づけ合い、ダイヤを警戒しつつ相談を始めた。
「魔法勝負だってよ。大丈夫か? 何かの罠ってことはないか?」
「今のところ、不審な様子はありませんね。最も、私は魔法にさほど明るくないのでわかりませんが」
セタは私見を述べたが、マズルからは怪訝な顔をされた。
「……お前、魔法使えるんじゃなかったのか?」
「私の使う力は主から授けられたもので、魔法とはまた異なるものです。神の力、とでも言えましょうか」
「よくわからんが、魔法と違うなら戦わせられないか。あいつ、変な難癖つけてきそうだしな」
「あたしらに任せとけば大丈夫よ。何があっても、勝てばいいんでしょ?」
マジーナは腰に手を当てて、自信満々に言った。クロマは相変わらず自信なさげだったが、マジーナの隣で頷いた。
「気をつけてよ。相手は正々堂々と戦うとは思えない」
「わかってる。十分気をつけるから」
ツルギはひそひそと注意喚起し、マジーナは同じく小声で同意した。
「待たせたわね。あたしたちが相手になってやるわ」
「ま、負けませんからね。ハルケンさんのためにも、この世界の人たちのためにも」
マジーナとクロマは、一行の前に立ってダイヤに対峙する。




