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戦線復帰

 街外れの宿屋を後にした一行は、ダイヤに挑む前にまた別の宿に宿泊していた。それはバレッタの気持ちを落ち着かせるためだった。


 セタの推察を聞いたバレッタは、途端に口数が減り、目に見えて元気がなくなっていた。


「バレッタさん、外の空気吸ってくるって言って帰って来ませんね。……大丈夫でしょうか?」


 ツルギは不安げに窓の外をチラチラと見ながらマズルに尋ねた。彼女が出ていってから、もう一時間以上は経っていた。


「あいつのことなら心配ねえさ。マジーナもついているようだし」


 マズルの言う通り、マジーナはバレッタを心配して傍にいると宣言し、同じく外に出ていたのだった。


「そうですけど、もし万が一……こんなこと言いたくありませんが、僕らの目を盗んで早まるようなことがあったらどうしよう……」


 ツルギは更に不安げな言葉を呟く。バレッタの出自に関してはどうしようもないが、彼女の背中の紋章を見てしまったために、何か責任のようなものを感じていたのだ。


 しかし、マズルはその不安を吹き飛ばすように言った。


「お前が気にする必要はない。第一、あいつはそんなことするような奴じゃないからな。それは俺が一番よくわかってるんだ。だいぶ長い付き合いだしな」


「……本当ですか?」


「ああ。本当だ」


 マズルの真剣な眼差しを見たツルギは、不思議と心が安らぐのを感じた。

 ツルギはホッとため息をついた。すると、マズルは話を変えて続けた。


「しかしお前、命拾いしたかもな」


「命拾い? どういう意味ですか?」


「何やったのか知らんがお前、あの温泉でバレッタの裸、見たんだよな? こんな状況じゃなきゃ、あいつに半殺しにされてたぞ」


 ツルギは安堵の表情から一転、顔色を青ざめさせた。額には汗もにじんでいる。


「それ、マジですか……?」


「ああ。付き合い長いって、さっき言ったろ?」


「そうなのか……。僕、生きて帰れるかな……」


 ツルギは頭を抱えて項垂れた。本人にとっては笑い事ではない事態だが、マズルはその姿を見て思わず笑みをこぼした。


「ふははっ、まぁ心配すんな。いざとなったら俺が弁護してやるから」


「本当ですか? よろしくお願いしますよ」


「おうよ。ま、これも縁の仲間の宿命ってやつかもな」


「頼りにしてます。やっぱりマズルは心のアニキです」


 ツルギとマズルは並んで座り、すっかり息の合った会話を繰り広げていた。



 その頃、宿の外ではバレッタとマジーナが同じく並んで足を抱えて座っていたが、会話に花を咲かせているわけではなかった。


「驚いたね。まさかバレ姉がここの人たちの子孫だなんて」


「……うん」


 気のない返事をするバレッタ。だがマジーナは気にせず続ける。


「それにしてもあのダイヤって女、思い出したらすごい腹立ってきた。罪もない人たちを傷つけて、ハルケンさんの命まで……。絶対に許せない」


 マジーナは悔しげに拳を握りしめ、自分の手のひらに叩きつけた。今度会ったらただじゃおかない、と言わんばかりの勢いだった。


「そしたら、アタシのことも許せない?」


 バレッタはおもむろに尋ねた。マジーナは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐに険しい顔になって聴き返した。


「……どういう意味よ?」


「ダイヤがアタシの親族だとしたら、アタシにも同じような力が備わってるんだと思う。それにさっき人々を傷つけてって言ったけど、街の人たちは傷ひとつなかったはず。あれはきっと、アタシのように魂を人から抜く力なんだよ。アタシは一部しか抜き取れないけど、ダイヤはもっとたくさんできるんだと思う。だからハルケンはそのせいで……」


 バレッタはその先を口にする前に、顔を膝に埋めて黙ってしまった。しかしマジーナは険しい顔を緩めることなく、塞ぎ込んだバレッタに言葉をかけた。


「何が言いたいのかわかんない。まさかとは思うけど、責任とって死にたいとか、そんなこと言うんじゃないでしょうね?」


「思わないよ。……でもね、正直なところ、今までの戦いの中で死んでたら、こんな思いすることなかったんじゃないかなって、考えちゃったりして」


 マジーナは表情を変えず、じっとバレッタを見つめたままだった。

 そして何も言わず、バレッタの背後に回り込むと彼女の首に腕を回し、ぐいっと後ろに引き寄せて強引に頭を上げさせた。


「ぐえっ、ちょ、ちょっとマジーナ!? 苦しいよ何すんの……?」


「うるさい、顔上げろ」


「は、はい……、マジーナ?」


 バレッタは身体をよじってマジーナを見上げた。なんと、マジーナは涙を頬に伝わせている。


「ばかばかばか。冗談でも死んだらなんて言うんじゃないわよ。あんたがいなくなったら、誰があたしの相談相手になんのよ。勝手なこと、考えるんじゃないっての……!」


 涙を拭いながら、拭いきれなかった涙はバレッタの頭に落ちながら、マジーナは思いの丈を吐露した。

 バレッタはすぐには何も言えなかった。マジーナの涙をしばらく浴びた後、少し笑みを見せて口を開いた。


「ありがと。ごめんね、そんな風に思われてたなんて、知らなかった。もう馬鹿なこと考えないから、安心しなよ」


「……わかりゃいいのよ。あんたなんて、ずっとあたしの愚痴聞いてりゃいいんだからね」


「はいはい、手のかかる相棒だこと」


 バレッタとマジーナは互いの目を合わせると笑い合った。その様子を、他の面々は窓の隙間から静かに見ていた。

 な? そう言いたげに、マズルはツルギに目配せした。

 流石です。と言いたげに、ツルギは強く頷いた。

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