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傲慢なる出会い

 人々は駆け足で街の中央へと向かう。四方八方から集まっていった人々は、やがて何かを囲んで人だかりになっていた。そして、人々は一人残らず膝を折り、頭を垂れた。


 その中心には、目元をマスクで隠し、手下のダストに担がれた女。エクリプスと密談していたダイヤと呼ばれた女がいた。


「ダイヤ様。本日もこの地を訪れていただき、感謝に堪えない次第でございます」


 人々の一歩前に出た、街の長か何かと思しき男はダイヤにそう告げた。恭しく、頭を下げたままであった。


「ご苦労様。今日は合格といったところかしら。ちょっと集まるのが遅かったような気がするけど、まぁ目を瞑るわ」


「ははぁ、恐れ入ります……。つまるところ、私どもは安泰だと考えてよろしいのでしょうか……?」


「何よその言い方は。まるであたくしが危険な女だとでも言いたげね?」


 男の言葉に即座に反応したダイヤは、機嫌を悪くした様子で男に問いただした。男は慌てて弁明する。


「め、滅相もございません。ダイヤ様には多大なる恩恵を授けていただいておりますゆえ、そのようなことは決して……」


「ふん。まぁいいわ。この場所はそこそこ気に入ってるし、普段のあんたらの態度も悪くないし……ん?」


 話の途中で、ダイヤはふと民衆の後方を見た。マズルやツルギたち勇者一行が、人々の行く先を追ってきたところだった。


「あの方が来たとか言ってたが、あの女がそうなのか?」


「きっとそうでしょう。それにあの人、十中八九アンチ・ピースの手先ですね……」


 マズルとツルギはひそひそと言葉を交わした。これまでに見てきた敵の特徴から推測すれば、ダイヤの正体は火を見るより明らかだった。


「ダイヤ……と言っていましたか? あの人」


 突如、ハルケンが何かを思い出したかのように呟いた。


「何か知ってるのか?」


「いえ、昔そんな名前の貴族がフォーグにいたのを思い出しまして。ひょっとしたら同名の方かもしれませんが」


 マズルたちの会話は、ダイヤの耳には届いていなかった。が、彼女は意に介した様子なく、不敵に微笑んだ。


「ふふ、ねぇあんた」


「は、はいっ」


 ダイヤは男に声をかけ、男は慌てて返事をした。


「さっき、自分たちは安泰かと言ってたわね。悪いんだけど、そうもいかなくなりそうだわ。ごめんなさいね」


「はぁ……、そ、それはどういう……!?」


 男のことも意に介した様子なく、ダイヤはマズルたちへと近づいて話しかけた。


「ごきげんよう皆さん。あんたたち、勇者って人たちなんでしょ? あたくし、ダイヤと申しますの。わかってると思うけど、アンチ・ピースの一人なの。以後、お見知り置きを」


 ダイヤはさらりと自らの正体を明かした。そうでなくてもマズルたちは身構え、ダイヤの次の手を警戒した。


「やっぱりそうだよな。戦いは避けられねえってか。一体何の勝負をするんだ?」


「勝負? そんな生やさしいことで戦うとでもお思い? 呆れるほど甘い人たちなのね」


「んだと?」


 ダイヤの小馬鹿にした態度に、マズルは喰ってかかる。


「あたくしはスコールやカミカゼなんかと違うのよ。手ぬるい勝負なんてしないの。戦いっていうのはね……。死ぬか生きるかなのよ!!」


 ダイヤは何かを取り出し、片手を大きく振り上げた。途端に、周囲の人々は逃げ出した。


「ひ、ひいぃっ!!」


「早く逃げろ! 助からないぞ!!」


 その瞬間、ダイヤの手にした物から光が放たれた。一瞬見えたそれは、扇の形をしていた。


「全員、身を守れ! 攻撃が来る!!」


 カサンドラは咄嗟に叫んだ。彼女の盾と、ハウの音響による壁で攻撃を防いだが、若干間に合わずに衝撃でバランスを崩し、全員倒れこんでしまった。


「ふん、まぁこんなもんかしら。ちょっと数が足らなかったようね……。みんな逃げちゃったし、今日のところはおしまいかしらね」


 ダイヤは意味深な言葉を残して去ろうとする。マズルはその背中に叫び、銃を突きつけた。


「ちょっと待て! 逃げられると思ってんのか!?」


「あんたこそ、逃げなかったらどうするつもり?」


 ダイヤは扇をマズルに向けて言い返した。互いに睨み合っていたが、先の攻撃の威力を目の当たりにしたマズルは、そっと銃を下ろした。


「それでいいのよ。まぁ、いずれまた会うでしょうし、慌てないことね。それじゃ皆さん、さようなら〜」


 ダイヤはダストたちに担がれ、どこかへ去っていった。


「マズル様。街の方々の介抱をいたしましょう」


「あ、ああ。そうだな」


 我に返ったマズルが周囲を見ると、街の人々が数人、地に伏していた。


「大丈夫です。気を失っているだけみたいです」


「こっちもそうらしい。ワカバ、回復を頼むよ」


「わかった。任せて」


 人々は命に別状はなかったが、ダイヤの周辺にいた十数人がもれなく倒れていた。その理由には、今の一行は気づく余裕もなかった。


「あれ、ハルさんがいない。どこ行ったんだろ」


「あそこに倒れてるの、ハルケンさんじゃないですか?」


 クロマの指さす先には、確かにハルケンの姿があったが、同じように地に伏していた。


「ワカちゃん、こっち来て。ハルさんの回復してあげて」


 ジェシカに言われたワカバはハルケンの元に行き、回復を試みた。だが、すぐに手を止めてしまう。


「……ごめん、駄目だ」


「何が?」


「もう、死んじゃってる」


 全員がワカバの言葉を、飲み込むのに時間がかかった。

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