来訪者
カミカゼとの戦いを終え、ライサやサナ、レンの存在も認識した勇者一行は次なる目的地へと歩みを進めていた。
とにかく情報が欲しいので、適当な街や村に聴き込みをしようと考え、丘を越えた先にあるという集落を目指していたのであった。
「はぁ、はぁ、しんどい……。追いかけっこの次は坂道かよ」
文句を垂れつつ、ジェシカは歩く。年頃の娘には、この坂道は体力的に辛いのかもしれない。
「大変なのは皆同じだ。頑張って登れ」
カサンドラはジェシカよりも遥かに重い装備でせっせと坂道を登る。ジェシカは恨めしげに睨んだ。
「むぅ。カーさんの意地悪。ちょっとくらい助けてくれたっていいじゃん……」
「私でよければ、お助けいたしましょうか?」
ジェシカを不憫に思ったのか、声をかけたのはハルケンだった。ジェシカの目線までかがみ、手を差し出した。
「いいの? ありがと、ハルさん」
ジェシカは差し出された手を取り、笑顔を見せた。
「礼には及びません。どのようなことでも、お役に立てることが嬉しいのです。きっと、みんなも喜んでくれると……」
「みんな?」
「ああすみません。私の家族、父や母のことなのです。数年前までは元気だったのですが、今は……」
ハルケンは空を見上げ、静かに言った。言葉の最後は、聞き取れなかったかあえて言わなかったのか、判明しなかった。
「そっか。たぶんお父さんとお母さん、どこにいたってハルさんのこと応援してくれてるよ。あちしも、応援するし」
「そうかもしれませんね。ありがとうございます、ジェシカ殿」
「ううん。礼には及ばないよ」
それから間もなく一行は集落へ到着した。そこはフォーグ王国ほどではないが発展した街であり、人々の行き来で賑わっていた。
「ここが次の目的地ってわけか。まずは何すりゃいいんだ?」
「そうですね。どなたからか情報を……」
マズルとセタの会話の最中に、一人の男が割り込んで来た。
「こんにちは。このソイス街は初めての方々でしょうか。でしたらご案内いたしますが」
「お気遣い感謝します。ここはソイスという街なのですね。申し訳ありませんが、あまり長居をするつもりはないのです。実は、このような子どもたちを探しているのですが」
セタはサナとレンの写った画像を見せた。最後に出会った際に、ちゃっかり写真を撮っていたのだ。
男は見せられた写真を見て、首を傾げた。
「さあ……。存じませんね。すみません、ここにはそれほど他所から人が来ることもないので、見たら覚えているものだと思うのですが」
「左様で御座いますか。わかりました。ではこれにて……」
その時、街の奥から大声が響いた。
「集まれ! あのお方のご来訪だぞ!!」
全員がその方向を振り返る。何が起こったのかわからないツルギたちは困惑の表情を見せていた。
「な、何だ? 一体何がどうしたんだ……?」
しかし、声をかけていた男は血相を変えていた。
「い、急いで行かなくては……」
男は一行に別れの挨拶をすることもなく、取り憑かれたように街の奥へと駆け出した。
「え? ちょっとどうしたんですか? 急に人が変わったみたいに……」
「私たちも行ってみましょう。何か手がかりが見つかるかもしれません」
勇者一行も、男を追跡して街の中心へと向かった。




