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天啓

 勇者一行が温泉街オウイを立とうとしていたその頃。敵アンチ・ピースの居城では、エクリプスが像に祈りを捧げていた。


 彼らの崇拝するという神、ネビュラを象ったとされるその像は、巨大な羽を生やし、太い前脚と後脚、それに尻尾を持った悪魔か竜のような姿をしていた。

 しかし、その像は何故か頭だけは存在しない造りになっていた。それが元からなのか何者かに壊されたのかは不明である。


「よう、帰ったぜ」


 エクリプスに背後から現れたのは、勇者一行と接触してきたライサだ。疲れをアピールするかのように気怠げに声をかけ、ぐっと背伸びをした。


「ご苦労様です、ライサ。あの子たちも一緒ですね?」


「ああ。走り回って疲れたってんで、自分らの部屋に行っちまったがな」


 エクリプスは僅かに眉をひそめた。


「走り回って疲れた? 追いかけっこでもしたのですか?」


「まぁそんなとこだ。何も心配するようなこたぁねぇ」


「そうですか。ところで、カミカゼはどうでしたか?」


「勇者どもと剣で勝負した。あのままやってたら勝ててたはずなのに、あいつ自分から負けを認めやがった。本当によくわかんねえ奴だよな」


 ライサは苛立ちを滲ませて報告し、エクリプスは困ったようにため息をついた。


「あれでも腕のたつ男でしたから任せておきましたが、少しばかり困ったものですね。スコールも行方知れずで……。まぁいいでしょう。報告感謝します。もう下がってよろしい」


「あいよ。また用があれば呼べや」


 ライサを下がらせて、エクリプスは独りになり、考える。


(勇者たちは確実にここへ向かってきている。スコールもカミカゼも、ネビュラ様の天啓によって招集した人材だというのに……。あのお方の目に狂いがあった? ……否、私は何を考えている。そんなこと、万に一つもありはしない)


 その時、彼の背後に別の影が現れる。


「お困りのご様子で。そろそろあたくしの出番ではなくて?」


 妖艶な声で話すその主は、目元をマスクで隠した長身の女だった。椅子に座ったまま、手下と思われるダストたちにその椅子を担がせ、自らで歩くことなく移動していた。


「ダイヤ、あなたでしたか。確かに、今となってはあなたに任せるほかないようです。よろしくお願いします」


「承知しましたわ。奴らを完膚無きにまで潰してやればいいのでしょう? お安い御用ですわ。それでは、行って参ります。……ほらっ、行くのよダストたち。本当にもう、役立たずなんだから!!」


 ダイヤと呼ばれた女は、ヒステリックにダストを蹴飛ばし、強引に前へ進めさせた。


「……さて、祈りの時間も終わりました。サナとレンの所にでも行って遊んでやるとしましょうか……」


 再び独りになったエクリプスはそう呟き、二人の元へ向かおうとした。

 その時、彼の脳裏に衝撃が走る。思わず、立ち止まってしまうほどの衝撃だった。


「こ、これは……、天啓!? あなた様なのですか、ネビュラ様!」


 周囲には誰もいないが、その声はエクリプスにのみ聴こえているようだった。一言一句聞き逃すまいと、彼は必死に精神を集中させた。


「はい、承知いたしました。……ええ。あなた様の仰ることを否定するはずもございません。あなた様は、私の全てなのですから。では、仰せのままに……」


 ネビュラとの交信を終えたエクリプスは、ため息を一つついた。その顔は満足げではあったが、瞳の奥は何故か暗かった。

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