追跡
謎の男、ライサと二人の子供サナとレン。それぞれ逆方向に逃げ出した二組を、ツルギたちも二手に分かれて追っていく。ライサにはマズル、ツルギ、ジェシカ、カサンドラ、そしてセタが、サナとレンにはエール、クロマ、ハウ、ワカバ、マジーナ、バレッタ、そしてハルケンが担当した。
だが三人とも、人並み外れた素早さを見せ、簡単に追いつけるものではなかったのだ。
「おい待て。お前らに聞きたいことがある。あの二人の子供は何なんだ!?」
「へっ、そりゃ本人たちに直接聞けや。もっとも、捕まえられればの話だけどな!!」
子供二人を追うハウたちも、全く追いつけずにいた。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。ボクたちはただ話をしたいだけなんだよ……。怪しい者じゃないから……はぁはぁ」
息をきらしながら説明するハウ。だが、子供たちは止まることはなかった。
「ねぇ、あの人たちあんなこと言ってるけど。どうする?」
「嘘に決まってんだろ。お父さんも言ってたじゃないか。ユーシャって奴らは、オレたちの敵の悪い奴らだってさ」
「そうよね。騙されちゃいけないよね」
二人は更に速度を上げ、完全に追手を振り切ってしまった。
一方、ライサを追うマズルたちは、ついに相手を追いつめた。街の裏通りに追い込み、逃げ道を無くすことに成功したのだ。
「ちっ、俺様としたことが油断したか? やるねえ、勇者サマ方」
「ふざけるのもいい加減にしろ。さぁ、洗いざらい話してもらおうか。お前らのことについてな」
走ったばかりのマズルは息を整えつつ、銃を突きつける。
ライサは観念したかのように、気怠げに答えた。
「はーあ、仕方ねえ、教えてやんよ。俺様はライサ。アンチ・ピースの一人よ。お見知り置きを、ってな」
「お前のことはどうでもいい。あの二人のことを教えるんだ」
苛立ちを抑え、更に強く銃を突きつけるマズル。ライサもまた、更に気怠げに答える。
「面倒くせえなぁ……。あとでエクリプスに何言われるかわかりゃしねえ。クソッ……」
「何をブツブツと。お前、今の自分の置かれてる立場、わかってんのか?」
銃を向けるマズルに続き、ツルギとカサンドラも武器を向けていた。
「へいへい、答えますよ。あの二人はサナとレン。俺様たちの仲間だ。あいつらには不思議な力があってな。お前らが戦ってきただろう狭魔獣どもも、あいつらが作ったもんだ」
「それはなんとなく知ってるよ。ハウりんたちが見たって言ってたし。あちしら、あの子たち何モンなのかって聞きたいんだよ」
ジェシカは横から口を挟んだ。ライサはあからさまに嫌そうな態度を見せる。
「うるせぇガキだな。せっかく親切に教えてやってんのに。まぁいい、あいつらも俺様たちの仲間だが、二人は特別なんだな、これが」
「特別? どういう意味だ、教えろ」
「そりゃあ……。おっと、この続きはまたの機会にだな」
ライサは突然話を打ち切った。何かに気がついたように、明後日の方角に顔を向けたのだった。
「どういう意味ですか? 貴方は今、逃げられるような状況ではないはずですが……」
セタは訝しげに尋ねるが、その理由はすぐに知ることになる。
巨大な影が、上空に現れたのだ。それは鳥の形をしており、マズルたちの真上を旋回している。
よく見ればそれは、以前倒した狭魔獣のうちの一体だった。
「「ライサ、迎えに来たよ。早く乗って」」
初めは鳥が喋ったのかと、その場の誰もがそう思ったかもしれない。しかし、二つの声はその背中から聞こえていた。
「わりいなサナ、レン。とっととずらかるぜ」
ライサは大きく跳躍して、鳥の背中へ飛び乗った。そして、勇者一行を見下ろすと、声高に宣言した。
「そんじゃ、また会おうや勇者サマたちよぉ。それからアチシちゃん。元気でな、がははっ」
「んなっ……! ば、バカにすんな、降りてこい、コラ!!」
憤慨するジェシカをよそに、三人を乗せた鳥は遠くへ飛び去ってしまった。




