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仲間探しの方法は清掃活動?

 気がつくと、少しだけ見慣れた部屋の中にいた。部屋には日差しを遮断した窓に机、それからベッドで横になるアニキ。

 セタは現れなかったが、案の定また追体験の始まりらしい。


「どうやら無事に帰れたみたいだな」


 目を覚ましたアニキは僕に話しかけてきた。大きく伸びをすると、ぐるっと首を回した。


「そちらは、ですけどね。僕はまた後からついていくことになるんですね」

「お互い様だ。悪く思うなよ。文句ならセタの奴に…」

「別に嫌ではないですよ。むしろ楽しみです」

「楽しみぃ?」

「ええ。こっちの世界は面白いですし。見ていて飽きないですよ」


 アニキはポカンとした顔でこちらを見ている。自分の表情に気づいたのか、我に返ったように真顔に戻って言った。


「呑気っつーか、不思議な奴だな。お前」

「それほどでも。…あ、バレッタさんが呼んでますよ。そろそろ起きた方が」

「余計なお世話だ。今行くよ」


 アニキは起き上がると上着を纏い、ドアノブに手をかけた。




 バレッタは机に腰掛けていたが、アニキが部屋から出てくると立ち上がってすぐさま寄ってきた。


「マズル、やっぱり目覚めてたんだね。良かった…。丸一日、眠ったまんまだったもんだからさ。声が聞こえたからもしやと思って」

「俺は大丈夫だよ。しかし、今回も丸一日経ってたってわけか。やっぱ向こうの時間の流れと同じなんだな」


 アニキは肩をぐるぐる回した。一日眠ったままだと、身体も重くなるのだろうか。


「そうそう、向こうの世界で追体験、やってきたんだろう? どうだった、あの二人」

「ああ、元気だった。新しい仲間も見つけたな」


 アニキは素っ気なく答えた。もっと伝えてほしいような気もするけど。マジーナのこととか、ワカバのこととか…。


「そ、そうかい。それで、あのマジーナは?」

「それで、って?」

「どうだったかって聞いてんの! 察しが悪いねまったく」

「元気だったって言ったろ? お前に会いたがってたよ」

「そういうのが聞きたかったんだよ。まぁでも、元気なら何よりだ。ツルギも、今後ろにいるの?」


 バレッタはアニキの背後を見た。偶然にも僕のいる場所を捉えていたので、思わず身を躱した。


「いるはず、だ。相変わらず、ベッドから起き上がったら姿も声も消えたがな」

「そうなんだね。なんだか落ち着かないけど、すぐに慣れるか」


 マジーナとは違って、大人だな。おそらく僕らより歳上だろうけど、女性にそれを問うのは失礼だと、流石の僕でも知っていた。


「だな。さて、俺らも見つけに行かなきゃか。縁の仲間とやらを」

「おう。やってやろう。そうだ、これなんだけど、もしかして向こうでも…」


 バレッタが差し出したのは見覚えのある輪。マジーナが身に着けた、セタからの贈り物だ。


「『ボンズ・リング』っていうらしい。セタが置いてった物だ。探してる仲間に近づくと宝石が光るんだ」

「なぁるほど。ちょっとでも助けになるようにってことだね。アタシがもらっといてもいいかい?」

「どうぞ。マジーナも着けてたからな」

「それじゃちょうど良い。お揃いだね。ふふ」


 嬉しそうな顔で、バレッタは自分の右腕に輪を通した。マジーナの物と同じように、輪は手首の位置で宙に浮いたまま固定され、腕を降ろしても外れなくなった。


「これでいいのかな。じゃ、行こうか。…つっても、まずは何すりゃいいのかね。あの子たちは何してたのさ?」

「あいつらはクエスト、仕事を受けてたな。そうすりゃ仲間も見つかるかも、ってことで」

「仕事ねぇ。アタシたちもそうしてみるか。当てもないし」

「そうだな。とりあえず行ってみるか。あそこに」




 二人がやって来たのは、アニキたちの事務所という建物よりももっと大きな施設だった。多くの人たちが利用しているらしく、人の出入りが激しかった。

 仕事を探しに、と言っていたが、僕らの世界でいうギルドのようなものなのだろうか。


「いつもここで仕事、受けてんだよな。俺たち」

「…そうそう。ここはコアセンターっていってね。仕事を探すだけじゃなく、色んな手続きなんかができるんだ。アタシらみたいな何でも屋以外にも、その日暮らししてるような人も利用してる。この街に住む人たちには欠かせない施設なのさ」


 二人は独り言のように言った。きっと、後ろからついてきている僕に説明しているのだろう。そんな気遣い、しなくてもいいのに。


「…ふぅ、端から見たらおかしな奴だと思われるかね。アタシら」

「別に誰も見てねぇよ。…てか、俺も気にしすぎか、あいつのこと。早く中入ろうぜ」


 アニキは頭を掻き、施設の中へと入っていく。バレッタと僕も、その後に続いた。



 センターに入ると、まず正面にカウンターと、そこに座る女性が見えた。女性は眼鏡をかけ、こちらには目もくれずに黙々と仕事を続けている。

 二人が近づくと、女性は顔を上げて挨拶をした。


「ご来訪ありがとうございます。本日はどのようなご用件で?」

「こんにちは。今日も仕事を紹介してほしくてね」

「お仕事ですね。少々お待ちください…」


 女性は資料をめくり、紹介できる仕事を探し始めた。なんだか僕らの世界のギルドと同じような気がして、不思議な気持ちになった。


 …だけど、本当に仕組みが同じというだけなんだろうか。奇妙な感覚が、どうしても拭えなかった。


「お待たせしました。ただ今ご紹介できるものは…。街のゴミ拾いですね」

「ご、ゴミ拾い? まぁ仕事には変わりないけどさ」

「はい。スピルシティの景観を美しく保つための大事な仕事です。よろしくお願いしますね」


 女性はそれだけ言うと、書類を数枚バレッタに手渡し、再び手元の資料に目を通し始めた。



 センターを出たアニキとバレッタは、あちこちに落ちているゴミを拾いながら歩く。僕の住むハルトダム王国も多少のゴミは落ちているが、ここはそれ以上だった。


「やれやれ、色々と仕事はやってきたが、こんな地味な仕事も久しぶりだな」

「文句言うんじゃないよ。これも立派な稼ぎだろう? 何もないよりマシだと思いなさい」


 アニキは道端のゴミを拾い、隣でバレッタの持つ袋に入れながら話す。

 そんなところに、一人の男が近寄って来たかと思うと、何か話しかけてきた。


「ごきげんよう。お仕事、お疲れ様ですね」

「ああ、どうも。何か用かい?」

「ええ、あなた方、我々の活動にご興味はありませんか?」


 男が見せたのは一枚のチラシ。派手な色づかいでよくわからない文言が書かれている。だが一番上に書かれていた文字は僕にも見覚えが、いや聞き覚えがあった。


「あんた、『ヒュジオン』の一員か。だったら話を聞くつもりはねぇ。帰んな」

「アタシも興味はないよ。悪いけど、お引取り願おうか」


 二人に拒絶された男は、無言のまま立ち去った。


「…ったく。どうにかならないのか。あいつらはよ」

「人の考えや思想は他人にはどうすることもできないのよ。アタシもいい加減にはしてほしいけど」

「そうだな。いっそ、組織を壊滅させでもしなきゃ駄目か。なんてな」


 アニキは冗談のつもりで言ったのだろうが、あの憎しみすら感じさせる言動を見てからでは、冗談には聞こえなかった。


 とその時、バレッタの腕輪の宝石が光った。彼女もそれに気づいたらしい。


「ちょっと、これ光ってるよ。もしかして仲間が近くに…?」

「そうらしいな。反応がする方に行ってみようぜ」


 アニキたちは、腕輪の光を頼りに街中を歩き始めた。


 幾度めかの角を曲がった後、アニキたちの前にはずんぐりと恰幅の良い男と、隣には背の高い男が二人、並んで歩いていた。腕輪の光は、変わらず輝き続けている。


「なぁ、あいつらだと思うか? 仲間って」

「どうだろうね。この腕輪が正しければそうかもしれないけど…。個人的にはあまり迎えたくないね。仲間として」


 前を歩く人たちには申し訳ないけど、僕もバレッタに同意見だった。

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