温泉街防衛戦
ハルケンの報告を聞いた勇者たちは、温泉街オウイへと舞い戻ってきた。
そこには下級の怪物、ダストの群れが人々を襲い、悲鳴をあげながら逃げ惑う光景が広がっていた。
「こりゃ酷えな。早いとこ、助けてやらねえと」
マズルは銃を構え、近くのダストを撃ち抜いて倒し、数名の街人を助けた。
「本当にこいつら、どっから沸いて出てくるのよ。またあたしたちの邪魔するように現れて!」
同じく襲われる街人を助け、マジーナは愚痴をこぼした。
「ええ。これもまた、敵の差し金でしょうか?」
「決まってるわよ。このダストってのも敵の一味なんだから!」
クロマもダストを倒しながら疑問を呈すが、マジーナは考えるのも面倒だと言わんばかりの勢いで更に蹴散らす。
そこに、援軍が参戦した。街の入り口からダストたちを切り伏せながら中へ進み、マズルたちと合流したのは、ツルギとエールだった。
「ツルギさんにエールさん!? どうしてここに? 勝負はどうなったんですか?」
ハウは驚きの声をあげた。対してエールは涼しい顔で答える。
「こちらを助けることを優先させたからさ。勝負ならまた挑めばいい。人々の命に、次はないからね」
「そういうこと。協力してやっつけましょう」
全員揃った勇者たちは、ダストの大群を次々と殲滅させていく。
しかし、ダストは次々と沸いてくるらしく、一向に数が減っている様子はなかった。
だがある時を境に、目に見えてダストの数が減り始める。とてつもない勢いで、ダストが消えていったのである。
「なんか、敵の数減ってない? 誰かあっちで戦ってんの?」
「いや、我々は全員街の中心付近にいるはずだ。見たところ、街の入り口に入ってくるダストの足止めをしているようだ」
「んー、じゃ誰が戦ってんだろ。なんかついさっき見たような光景のような気がするけど……?」
ジェシカとカサンドラは謎の勢力を訝しみつつも、ダストの処理に戻った。
状況を不思議に感じたのか、エールも様子を見るために入り口へと近づいていった。そこには、先ほどまで戦っていたカミカゼの姿があった。
「君は……。どうしてここに? 勝負の続きならばまた後でするから……」
「いて悪いか? 私もこやつらを殲滅しようとして来たのだが。不愉快であれば帰っても良いのだぞ」
カミカゼは喋る間も、剣を振る手を止めない。自分の味方を切る、という矛盾をさらりと言い、再び前を向いて切り刻み始めた。
「あ、ああ。構わないよ……」
エールは我に返ると、再びダストの殲滅へと戻った。
それから一時間ほどで、勇者たち(ともう一人)の活躍によりダストの大群はほぼ全滅し、街人の報告で家の中などに入り込んだダストも一対一体始末していき、騒動は完全に落ち着いた。
「はーあ、疲れた。風呂上がりだったのに、また入りたい気分よ」
「まったくだね。ダストが出なきゃ、勝負の続きが見れたのに」
マジーナは地面にへたりこみ、そのまま大の字になって寝転んだ。バレッタはその隣に胡座をかいて座り、同意した。
そして視線は、孤立しているカミカゼに移る。
「あいつ、どういう風の吹き回しかね? 自分の味方を切るなんて」
「知らない。敵の考えることなんて理解したくもないし」
その彼に、エールは歩み寄った。全員の視線が、二人に注がれる。
「助かったよ。あなたがいなければ、倒し切ることはできなかった」
「礼には及ばん。この街には風呂の恩がある。それだけだ」
カミカゼはぶっきらぼうに答えた。だがエールは満足げに微笑んだ。
「それでも感謝する。しかし、自分たちの味方を切ってしまって良かったのかい?」
「ダストのことか? 奴らも失敗作だ。命なきものに、情けなど持ち合わせん。気にするな」
「失敗作。さっきの勝負でも、魔獣の群れのことをそう呼んでいたね。一体どういう意味なんだい?」
カミカゼの言葉を逃さず、エールは尋ねる。しかし、なぜかカミカゼには答える気はないようだった。
「いずれ知るときがくるだろう。それよりも勝負の件だが」
「ああ。仕切り直しだろう。また日を改めて……」
「……いや、負けだ。私の」
「え? なぜ?」
カミカゼの視線の先には、街人から褒め称えられるツルギたちの姿が映っていた。
「ありがとうございます、皆様がいなければ今頃どうなっていたか……」
「聞いたところによると、伝承の勇者様なんですって。そんな方々が来てくださっていたとは」
「あなたたちこそ、この地に平和をもたらす英雄に間違いない。また是非ここにお立ち寄りくださいませ!!」
対応に困っているツルギやマズルたちを見たカミカゼの口元が緩んでいた。エールはそれを見逃さなかった。
「カミカゼ君、あなたは……?」
「ここにいる理由はなくなった。これにて失礼する」
そう言うとカミカゼは、街の入り口の方へ歩き去った。
「なんなのあいつ。何考えてるかわかんない」
「結局、何がしたかったのかねぇ?」
怪訝な表情でカミカゼの後ろ姿を見送るマジーナとバレッタ。しかし、エールは何かを感じたのか、清々しい表情で見送っていた。




