狭魔獣の失敗作
カミカゼの後に続き、一行は街から離れた広場にたどり着いた。そこは人気のない草原が広がり、人の手が全くと言っていいほど加えられていない場所だった。
「着いたのね。で、ここで何をするの?」
マジーナは苛立ったように尋ねた。
「言ったはずだ。切合いの勝負をするとな」
「でも人を切ることはしないって、そっちも言ってたよね? じゃあ、どうすんの?」
「心配には及ばん。おあつらえ向きの場所だとも言ったはずだ。そろそろ、一匹ほど見つかると思うが……」
ジェシカの問いにも、カミカゼは淡々と答える。彼は額に手を当てて、遠くを見渡した。
すると、一匹の黒い影が現れ、次々と同じものが出て来た。それは犬の姿をしていたが、ただの犬ではないことがすぐにわかった。
「こいつら……、前に戦った狭魔獣か?」
「そうです、確かにあの犬の魔獣……。でもなんだかあの時と違うような?」
マズルとツルギは身構えて警戒するが、同時に違和感を感じていた。
「多分、大きさかと思います。前に戦った時はもっと大きかったはずですが、こっちはいくらか小さいですね。それによく見れば、爪や牙もところどころ折れているようです」
クロマは冷静に魔獣を観察し、その特徴を挙げた。確かに魔獣は、以前戦った個体に比べて、大きさが違ったり身体の欠損があったりしていた。
「その通り。これらは全て失敗作だからな」
「失敗作、とは?」
セタは鋭く追求するが、カミカゼはそれに答える気はないようだった。
「ここで知る必要はない。勝負には関係のないことだからな」
「この、また勝手な理屈ではぐらかしやがって……」
憤るマズルだったが、エールはそれを制止し、カミカゼに尋ねる。
「では、そろそろ始めようか。そちらの提案する勝負というのを」
「そうだな。では勝負の方法だが、この失敗作の魔獣たちを、より多く始末した方の勝利、ということでどうかな?」
いつの間にか、周囲は数え切れないほどの魔獣で溢れかえっていた。ざっと見たところ、百は超えている。
「こいつらをたくさん倒した方が勝ちでいいのね? そんじゃ楽勝じゃない。剣士同士の対決なら、こっちが二人で有利だし」
「ふん、いい気でいられるのも今のうちだ。アンチ・ピース随一の剣技、目に焼き付けてやろう」
いざ、勝負となりかけた時、エールは再びカミカゼに尋ねた。
「……ちょっといいだろうか。本当にこの勝負でいいのかい?」
「どういうことだ? 内容に不服でも? それとも今更怖気づいたか?」
「いや、なんと言うべきか……。この魔獣たちを失敗作と呼んでいたが、仮にも君たちの仲間じゃないのかい? それを、戦いのために犠牲にしていいのかと思ってね」
エールは沈痛な表情で言った。カミカゼだけでなく、マズルたち味方すらも呆気にとられていた。
「ねぇ、あの魔獣たちってあたしたちにとって敵のはずよね。それを気にする必要なんてあるのかな……?」
「ん〜。確かにそうだけど……。それはあくまでアタシたちの主観であって、敵側からしたら魔獣も一応味方なわけだし。エールはそこが疑問なんじゃない?」
マジーナはバレッタに耳打ちし、バレッタは憶測で答えた。
カミカゼはというと、冷淡な態度で一蹴した。
「何を申すかと思えば。こやつらはただの作り物にすぎん。それに情けをかけるなど愚かなことよ。さっさと始めるぞ」
「……了解だ。ツルギ君、準備はいいかい?」
「ええ。いつでも」
エールとツルギ、そしてカミカゼも剣を構え、一斉に目の前の魔獣へ切りかかった。




