町の英雄
騒ぎを聞きつけたツルギとセタ、そして他の全員は、町の中心にある噴水広場へと向かった。
騒ぎの発生源と思わしきその場所には人だかりができており、人々は何かに怯えて近寄れずにいるように感じられた。
ツルギたちが人混みをかき分けて噴水へと近寄ると、その理由が判明する。
「これは……?」
セタは噴水の周囲を見渡し、驚きの声を上げた。そこには狭魔獣の残骸が、あちこちに散乱していたのだ。全て、鋭利な刃物で切り裂かれたようになっている。
「切り刻まれてる……よね。やったのはツルギやエールさんじゃないんでしょ?」
マジーナはまさか、という表情で二人に尋ねた。
「違う。たった今、ここに来たところだから」
「少なくとも、私にはこんな芸当はできないからね」
エールは残骸の切断面を指さして言った。
念入りに残骸を調べているところに、一人の町人が声をかけてきた。
「カミカゼさんですよ。やってくれたのは」
「カミカゼさん? 誰それ?」
「ときどきここに来る剣士様です。町に魔獣が現れる頃に同じように現れて、奴らを退治してくれるのです」
町人はありがたや、と言わんばかりに手を合わせて説明した。
「なるほど、僕ら以外にも狭魔獣と戦う人がいたんですね」
「はて、我々の他にそのような人物がいるとは把握していませんでしたが……。一度確認してみた方が良いかもしれません」
「カミカゼさんなら、湯に浸かると仰って向こうに行かれました。そう遠くへは行っていないと思います」
「ありがとうございます。では、参りましょう」
町人の話した温泉へと、一行は向かった。
カミカゼを見つけるのに、時間はかからなかった。彼は今まさに温泉に入ろうと入り口に立っていた。奇しくも、ツルギたちが入っていた温泉だった。
「あの、すみません、カミカゼさんですか?」
「……そうだが。何用か?」
カミカゼは敵意なく、ツルギたちに尋ねた。と同時に、鋭い視線で全員を見渡した。
「いえ、狭魔獣を退治してくれたということなので。お礼が言いたくて」
ツルギが話している間、マズルはカミカゼの腰に差した刀、そして風貌を見て何かを感じた様子でセタに耳打ちした。
「なぁ、こいつまさか……」
その時、カミカゼも何かを感じ取った様子だった。一人ひとりをまじまじと見つめ、呟いた。
「ひい、ふう、みい……。なるほど、数も一致。つまりお前たちが、勇者一行!」
「そういうお前は、敵の一人か」
マズルは銃を突きつける。カミカゼは臆することなく、問いに答える。
「いかにも。私はアンチ・ピースが一人、カミカゼと申す」
両者の間に、緊張が走った。




