温泉地にて
新しい仲間、ハルケンを迎えた一行は、次の目的である不思議な二人の子どもを探していた。
とはいえ、何の手がかりもない状況ではあるため、当てずっぽうに探す他に方法はなかった。とりあえずは、敵の動向を探り、集落の様子を確認しながらの捜索をしようと決められた。
そんな中、ひとつの町に到着する。
「おお、ここは」
町の入り口を見つけたハルケンは、声を洩らした。入り口は石造りの門があり、何やら旗がいくつも立てられている。
「知っているのか?」
マズルは尋ねる。ハルケンは嬉しそうな笑顔を見せていた。
「はい。ここはオウイの町と言いまして、この世界で唯一の温泉地なのです。他の町や村からも、温泉に入ろうと人々が集まって来るのですよ。かくいう私も、よく足を運んでいるものでして」
ハルケンは少し照れくさそうに付け加えた。
彼の言う通り、町の中からは湯気が立ち昇り、湿った空気も感じられていた。
「温泉? いいね。入っていこうよ。どうせ探してる子どもたちもすぐには見つからないんだし。ね?」
ジェシカは楽しげに全員を説得した。セタは少し考え、やがて答えを出した。
「よろしいでしょう。たまには疲れを癒やしませんと」
「やったぁ、そうこなくちゃ。それじゃあちし、一番乗り〜」
「あ、ちょっと待ってよ。あたしも入りたーい」
ジェシカとマジーナが競うように町の中へ入り、後からマズルたちが続いた。
数分後、一糸纏わぬ姿となった勇者たちは湯に浸かっていた。
町のあちこちに温泉施設はあったが、ハルケンの薦めで町の中心の一番大きな温泉へと案内され、いくつかある入浴場の中からひとつを貸し切りにしてもらったのだった。
「ふぅ~。良いお湯だ。やはり常連さんの見立ては間違いなかったということだね」
「恐れ入ります。お気に召したのであれば嬉しい限りです」
湯船に浸かり、顔を拭ったエールは満足そうに言い、ハルケンも満足そうに答えた。
「ああ、本当にいい湯だ。こんなにしっかり浸かったのは久しぶりだな」
「そうなんですか? 毎日入ればいいのに。疲れが取れないでしょう」
マズルの言葉に、ツルギは疑問を投げかけた。
「そう毎日入ってらんないんだよ。水だってタダじゃないし、風呂に時間取りたくないってのもあるしな」
ツルギとエール、ワカバとハルケンさえもが不思議な目でマズルを見た。場の空気を感じ取ったマズルは続けて言った。
「……おい、勘違いしてるようだがシャワーで済ませてるだけだからな。ずっと入ってねえわけじゃねえぞ」
その時、壁を隔てた隣の女湯から楽しげな声が聞こえた。
「はぁぁ……。気持ちいい。こんなお湯、なかなか入れないねぇ」
バレッタを筆頭に、続々と声が聞こえてくる。
「ええ。ボクもこんなにゆっくりと、しかも大勢で入るなんて初めてです」
「うんうん。来て良かった。戦いに巻き込まれるのも、悪いもんじゃないかもね」
「命がけの日々なのだ。たまにはこんな息抜きも必要ということだろう」
「そうですよ。休むときはしっかり休みませんと」
女性陣の和気あいあいとした会話の中、ジェシカは一人で何かつぶやいていた。
「んー、クロさん、バレさん、カーさん、あちし、マジちゃん、ハウりん……かな」
「ジェシカさん、何ですかそれ?」
いち早く、何かを感じ取ったハウは尋ねる。
「順番」
「……何のですか」
「内緒。強いて言うなら、大きさ?」
「どど、どういう意味ですかー! 説明してください!!」
「そうだそうだ。あたしが下から二番目って納得いかぁーん!!」
バシャバシャと、水の暴れる音がして、女性陣の笑い声と混ざり合った。
「やれやれ、あいつら何バカやってんだか……」
「はは……まぁ、楽しそうで何よりじゃないかな」
「皆さん、あっちで何の話をしてるんですか?」
純粋な目でワカバは聞いた。セタは彼を諭すように答える。
「貴方にもいずれわかりますよ。とりあえず言えることは、我々には直接関わりのないという話です」
「ふーん、そうなんですね」
ワカバは曖昧な返事をした。
一方で、ツルギは顔を紅くして上の空だった。
「ツルギ? 大丈夫か?」
「……ああすみません、ちょっとボーっとしちゃって」
「のぼせたんじゃないのか? もう上がったらどうだ?」
「そうした方がいいでしょうか。それじゃ、僕はお先に……」
ツルギは湯船から上がろうとした。
その瞬間、ツルギの意識は遠のき、ゆっくりと床に倒れ伏した。




