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動き出す敵、味方

 戦いを終え、束の間の休息をとった一行は、次の目的地へと向かおうとしていた。


 村に分かれを告げ、外へと出ようとしたその時、一行を呼び止める声が聞こえる。


「お待ちください、皆様」


 振り返ると、そこには大きな白い鎧に身を包んだ男がいた。腰に剣を差し、ここまで走ってきたのか汗を拭っている。


「えー、どちら様で?」


 相手が名乗らないため、マズルは自分から切り出した。


「おお、これは失礼いたしました。私はフォーグ王国の遣い、ハルケンと申します。国王陛下の命により、皆様方の助けにならんと馳せ参じた次第であります」


「国王の遣い? じゃ王家直属ってこと? すっげぇ本格的、かっけぇ」


 ジェシカは王家直属という肩書きに惹かれたのか、目をキラキラさせて興奮していた。


「あの、ジェシカさん。こちらにも王家に使える方はいらっしゃるのですが……」


 クロマはおずおずと声をかけ、カサンドラを横目で見た。

 しかし当人は特に気にする様子なく、話題を元に戻させた。


「して、貴殿が遣わされたのは何故か。王国に何事かあったのか?」


「いえ、今のところ危機などはございません。陛下は皆様が奮闘しているのに、何もできないことを憂いておられます。そこで遣いを送り、手助けをさせるべきだとお考えになり、私が遣わされたということであります。ゆえに、ここからは私も同行させていただきたいのです」


 ハルケンは深々と頭を下げた。

 判断に迷った一行の視線は、自然とセタへと注がれていった。


「陛下のご意向は承りました。ですがここから先、戦いが激化する恐れもあります。命の保証は御座いません。それでも構いませんか?」


「もとより。私は陛下のご意思に従う所存です。身の危険は覚悟の上であります」


「承知しました。それではこれよりよろしくお願い致します、ハルケン殿」


 こうして、一行に新しい顔が増えた。


「よろしくっス、ハルさん」


「ハルさん……? 私のことですか?」


「うん。他にいないでしょ。ハルケンだからハルさんだよ」


 さも当然のように、ジェシカは言った。ハルケンはやや困惑しつつも、笑みをこぼして言った。


「な、なるほど。異界からの勇者様のお考えになることは、我々とは一味も二味も違うのですな。ははは」


「あまりその子の言うことは真に受けない方が良いかと思われる。私たち皆が同じ思考だと思わないでいただきたい……」


 カサンドラは非常に困惑した表情で口を挟んだ。


「ところで、次の目的地はどこになるんですか?」


 村を出たところで足を止め、ツルギはセタに尋ねた。プラントを停止させた今、すべきことは見当がつかなかった。


「不の種の脅威が去りましたが、まだこの世界には狭魔獣が存在しています。奴らを倒さない限り、平和は訪れません。次はその出どころをどうにかしないといけませんが……。どこで生み出されているかは私もわからないのです」


「あっ」


 小さく声を洩らしたのはハウだった。今度は彼女の元に視線が注がれる。


「どうしたんだい、ハウ?」


「ボクたち見たんです。小さい子ども二人が、魔獣を生み出しているところを。ね、ですよね?」


 ハウはワカバと、カサンドラに問いかけた。


「うん。確かに見た。すっかり忘れてたよ」


「私もだ。見た目は普通の子どもたちだったが、あのような技が使えるとなれば、敵の一味と見て間違いない」


「では決まりですね。その子どもたちを見つけ、色々と聴き出してみましょう。この先にも村が御座いますので、一旦そちらへ向かいましょうか」


「了解です。それじゃ行きましょう、みんなで」


 ハルケンを含めた勇者一行は、次なる村へと足を進めた。




 その頃、敵アンチ・ピースの居城。リーダー格のエクリプスに何かを報告していたのは、ライサだった。


「……それで、スコールの足取りは掴めていないのですね?」


「おう、俺様の目の前でパッと消えちまいやがった。パッとな」


 事実と違うことも、あたかも真実かのようにライサはすらすらと言ってのける。


 エクリプスはそれを特に怪しむ様子なく、報告を承諾した。


「わかりました。彼のことは勝手にさせておきましょう」


「ああん? いいのかよ、勇者どもに接触されたら、ここのことがバレるかもしれねぇぞ?」


「今はそんなことに時間も労力も割いている余裕はないのです。一刻も早く、ネビュラ様を復活させなければ」


「チッ、面白くねぇの」


 ライサは吐き捨てると、至極残念そうに何処かへ消えた。


 そこへ、入れ替わるように何者かが現れた。


 それは、ライサやスコールのように仮面をしていたが、口元だけは露出していた。腰には長い刀をさげ、鎧などではなく薄い着物のような出で立ちだった。


「呼びましたか、エクリプス」


 仮面の人物は男の声で尋ねた。以前、アンチ・ピースの集合の場でライサを諌めた声だった。


「来ましたか、カミカゼ。次はあなたの出番です。塵芥どもの足止めを頼みます」


「勇者たちの力を警戒しているのですか? ということは、奴らはそれほどの手練れだと?」


「それはあなたの目で確かめてください。とにかく、早く行ってください」


 カミカゼと呼ばれた男は一礼すると、ライサと同じく姿を消した。


「ねえ、お父さん」


 また、カミカゼと入れ替わりで二人の影が現れた。サナとレン。狭魔獣を創り出している子ども二人組だった。


「なんですか、二人とも」


「そろそろ遊びにいきたいの。レンがいつもよりうるさくて仕方ないのよ」


「サナだって、退屈だって言ってただろ。オレだけのせいにすんなよな」


 エクリプスはため息をついた。次から次へと現れる悩みの種に、心底うんざりするかのように。


「いいでしょう。あまり遠くへ行ってはなりませんよ」


「わーい、ありがとうお父さん。さ、行こうぜ」


「待ってよレン。……それじゃ、行ってきます」


 二人は目の前から姿を消した。後には、椅子に腰掛けて眠ったように動かないエクリプスだけが残された。

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