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一夜漬けの絆

 世界の人々を脅かす不の種。それを撒き散らすプラントを賭け、二度目の勝負が始まっていた。

 花を咲かせるための下準備を済ませ、夜の間はワカバによる力の注入で、花を大きく立派に育てる作戦に出たのだ。そして、一度目は謎の邪魔が入っていたため、今度は交代で見張りをすることとなった。


「それじゃ、ここからはアタシとハウが見張るから。何かあったら、すぐに知らせるんだよ」


 日が落ちる頃、見張りの時間になったバレッタと、ハウがやってきた。直前まで見張っていたマズルとジェシカは、欠伸をしながら交代に応じた。


「わかりました。よろしくお願いします」


 ワカバはぺこりと頭を下げた。その表情には、やや疲労の色が見えるようだった。


「あんまり無理しないでよ。と、言いたいところだけど、この勝負に色んな世界の未来がかかってるときたら、ワカバに頑張ってもらうしかないか……」


「ぼ、ボクたちも頑張って見張りしますから、一緒に頑張ろう、ね?」


「うん、大丈夫だよ。大丈夫……」


 ワカバは力なく答えた。



 数分後、闇に包まれた畑の傍らには力を注ぎ続けるワカバとそれを見守るハウ、そしていびきをかいて熟睡するバレッタがいた。


「ありゃ、寝ちゃったかバレッタさん。慣れない場所で過ごしてきたから、疲れがどっと出たのかな」


 ハウの言葉にも、ワカバは反応しなかった。一心不乱に、大地に手をついている。育てた花はかなりの大きさにまでなっていた。


「ワカバ君? 大丈夫……?」


「あ、うん。大丈夫……。僕もちょっと、疲れただけだから」


 再びハウが声をかけると、ワカバはやっと気づいた。彼は正直に胸の内を話したが、まだ強がっているようにも思われた。


「本当に? こんな夜中まで活動するのは慣れてないだろうし……。やっぱり心配だよ」


 少し前に、二人はカサンドラと付近の道を探索していた。ワカバは違う世界に来たためか時差ボケのような状態だったが、今は生活のリズムが元に戻り始めていた。


「確かに、こんな夜中まで起きていたことはなかった。でも、今はなぜか眠くはないんだ」


「そうなんだ。不思議なこともあるんだね」


 ハウは腰を降ろして膝を抱えて座り、何気なく言葉を返した。


「でも、僕はなんとなくわかる気がする。なんで夜でも頑張れるのか」


「どうして?」


「ハウさんたちのおかげだよ」


 唐突に自分たちの名前が出たため、ハウは面食らった。


「ボクたちのおかげ? なんだか意外」


「そうかな。この前言ってたでしょう? 仲間の役に立てるなら、力が湧いてくるって。たぶん僕も、同じなんだよ」


「そ、そっか〜。なるほどね、うん。……多分、ボクの言いたかったこととは少し違うと思うけど、まぁいっか」


 後半はワカバに聞こえない声で、ハウは呟いた。

 ワカバは気に留めず、続けて話す。


「最近、思い出したことがあるんだ」


「思い出したこと?」


「うん。僕がもっと小さかった頃、家族に言われたこと。この子は心も体もひ弱だから、仲間ができるか心配だ。このまま一緒に連れても、邪魔になるだけだから、置いていこうって」


 ワカバが一族から見放され、山に独りでいたことは、ハウも知っていた。しかし、本人の口から聞かされると、彼女の心にも悲惨さがひしひしと伝わってくるようだった。


「……やなこと思い出しちゃったんだね。なんだか、申し訳ない気分だよ」


「ううん。でも、今はそれでよかったと思うんだ。ツルギさんたちにも会えて、お兄ちゃんにも会えた。もちろん、ハウさんたちにもね」


「そう言ってもらえるとこっちも嬉しいよ。ありがとう。これからも、よろしくね」


「こちらこそ」


 ワカバは作業の手を止め、振り返ってハウと手を取った。


 その時、ガサガサと音が聞こえた。畑の奥の方から、何者かが向かって来る。ハウとワカバは身構えた。


 現れたのは敵の使役する怪物、ダストだった。鋭い手先で、育てた花を次々と切断している。


「ああっ、こいつらいつの間に。まさか昨日の夜もこいつらが……!?」


 ハウは楽器を手に取ると、音の振動で壁を作り、ダストたちを弾き飛ばした。


 その音で目を覚ましたバレッタは、慌てて加勢に入った。


「やっば、寝てたよ。ごめんハウ、ここはアタシが引き受けるから、みんなを呼んできて!」


「はい、お願いします!」


 ハウはその場をバレッタに任せ、他の全員を呼びに走った。


 その後、全員がかりで沸き出たダストたちを退け、ひときわ大きく育った花を守り切り、遂に約束の夜明けを迎えることとなった。

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