疑惑の再戦
荒れ果てた畑の中に足を踏み入れ、ツルギたちは育てた花の残骸を手に取り、調べた。
蕾は花が咲く手前まで育っていたが、ひとつとして咲いているものはなかった。
「酷い……。一体何が、いや誰がこんなことを」
誰が、とツルギは言い直した。この村で獣や動物の類は確認していなかったのだ。切り裂かれた茎を見るに、何者かがそうした可能性は高かった。
そこに、足音が近づいてくる。勝負の相手、スコールだった。
「あれぇ、酷い有り様だなぁ。流石の勇者さんでも、花の育成は難しかったか?」
スコールは小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべた。たちまち、マジーナは詰め寄っていた。
「ふふ、ふざけんじゃないわよ! どういうつもり? あんだけ正々堂々とかぬかしておきながら、こんなことして!!」
「何言ってんだか知らねえが、オレは何も……?」
畑の様子を確認したスコールは黙った。植物の被害を見て、状況を察したようだ。
「こりゃ獣の仕業じゃねえな。お前さんたちがやった……わきゃねえよな」
「当たり前でしょ。いつまでしらばっくれるつもり? いい加減白状しなさい。自分がやったって」
「んなっ、何を言う!? オレは今しがたここに来たばっかりだ。変な言いがかりすんじゃねぇ!!」
「じゃ他に誰がやったっていうのよ。言ってご覧なさい」
スコールもマジーナも一歩も譲らず、いがみ合った。
「そりゃあやっぱし……。そうとは限らねえか。いやしかし……」
スコールは突然冷静になり、何か思い出したようにつぶやいたが、すぐに黙った。
「何よ。心当たりでもあるの?」
「なんでもねえ。だが状況はわかった。仕切り直しだ。また明日の朝までに、この花を咲かせること。オレも改めて一から育てるから、それでいいか?」
ツルギたちは顔を見合わせ、ひそひそと相談を始めた。信じていいものか否か。怪しい点はいくつかあったが、向こうから仕切り直しの提案があったことで悪い条件ではないとの結論に至った。
「わかりました。それではもう一度、フェアに勝負いたしましょう」
全員を代表してセタが答えた。
「おう。結果を楽しみにしてるぞ」
こうして、再び花の育成勝負が始まった。
「まったくもう、何でもう一回やらなきゃいけないの。あいつのいいなりになってるのも気に食わないし!!」
不満を垂れつつも、マジーナはせっせと手を動かす。心なしか、手際が良くなっているように見えた。
「こうなったら仕方ないよ。今度こそ、文句なしに立派なやつを作ってやろうじゃない」
バレッタはマジーナを宥めた。だが、それでもマジーナは納得がいかない様子だった。
「でもさぁ、元はといえばあいつがあんなことしなきゃこうはならなかったでしょ? なのにもう一度やらせるなんて、絶対何か企んでるのよ」
「だけどチャンスを与えてくれたんだから、本当にスコールは何もしてないんじゃないかな?」
ツルギもマジーナの気を宥めようとしたが、彼女はすぐさま反論する。
「甘いわねツルギ。あいつが言ったこと覚えてる? 明日の朝までにって、言ってたのよ。今から育てたら今晩には咲くはずなのに、わざわざ翌朝を指定するってことは、また夜のうちにめちゃくちゃにするに違いないわ」
言い終えるとマジーナは、フンと荒く鼻息を出した。
「それは……確かにそうだけど」
ツルギは、勢いに押されて何も言い返せなかった。
各々が思うところはありつつも、作業は順調に進み、夕方には蕾ができていた。
そして、これからのことについて、話し合いが行われた。
「さて、こっからだな問題は。十中八九、また荒らされるだろうからな」
マズルは腕組みをして、重々しく言った。
それにマジーナは激しく同意する。
「絶対そうよ。あのスコールがね」
続けて、エールは提案をする。
「誰がやったかは置いておいて、その対策はすべきだろうね。交代で見張りをするのがいいと思う」
「賢明な判断です。加えて、勝負に勝つことも考えなくてはいけません。ワカバ様のお力で、花の成長を促進させるのがよろしいかと思われますが」
そう言うとセタは、ワカバに向き直って尋ねた。
「夜通しのお仕事となりますが、いかがでしょうか……?」
「……頑張ってみます。みんなのためですから」
少し考えた後、ワカバは答えた。
交代制による、闇夜の防衛戦が始まった。




