第一の敵
勇者一行の間に一瞬のうちに、閃光のような張り詰めた空気が流れた。
最初に声をかけたジェシカは、まるで目の前の男が突然怪物に変貌したかの如く、ゆっくりと後ずさりをし、背後のカサンドラの腕に抱かれて彼女にしがみつく形となった。
「す、スコールって……、さっき村長様が仰っていた……!?」
クロマは杖を構え、震える声で尋ねた。
「ひぃっ、て、敵? いきなり!?」
ハウはワカバを抱き寄せたが、自らはその後ろに回り、彼を盾にする形になった。
「何を言われたか知らんけども、間違いねえ。オレがスコールだ。お前さんらにとっちゃ、敵ってわけだなぁ」
親切にも、というべきか、スコールは自らの正体と立場を容易に明かした。
それぞれが武器を構え始め、臨戦態勢をとる一方、スコールは思いがけない言葉を放つ。
「おうおう、ずいぶん荒っぽいなぁ。野蛮とは思わねえのか? 勇者ともあろう方々がよ」
スコールは臆する様子もなく、堂々と構えている。
「何なんだ、こいつは? 俺たちを油断させるつもりか……?」
徐々に警戒心を解く一方、マズルだけは銃を突きつけたまま、スコールを怪しんだ。
「まぁ、無理もねえか。敵同士だもんな。だが見てみろ、今は何も持ってねえだろ?」
確かに、武器の類は確認できなかった。しかしそれでも、マズルは警戒を解こうとしない。
「騙されねえぞ。何かおかしな術でも使えるんだろ」
「ずいぶんと疑り深え勇者さんだなぁ。そんじゃついて来な。お前さんたちが探してたモンを見せてやるからよ」
スコールは踵を返し、ひとりスタスタと歩いて行く。
残された一行は戸惑いを隠せなかった。
「……どうします? 何か罠があると考えるのが正解でしょうけど」
ツルギはスコールに感づかれないようにマズルに耳打ちした。
「だな。敵の言うことなんか、信用できるもんじゃない」
「しかし、こちらを騙すつもりならわざわざ正体を明かすことは必要なかったはず。何か他に狙いがあるのか……」
エールはスコールの後ろ姿を見つめ、その真意を探った。
考えを巡らせ、一歩も進めずにいる勇者たち。スコールは振り返ると、全員に聴こえる声で呼びかけた。
「来ねえのか? 先に行っちまうぞ!?」
「とにかく、今はプラントを見つけるのが優先です。闇雲に探すよりも、あの者の言葉に従うのが得策かと」
セタに促され、一行はスコールの後を慎重について行った。
歩き始めて数分後、到着したのはいくつかの畑が並ぶ土地。更にその奥には巨大で奇怪な物体があった。
それは紫色のヌメヌメとした質感をしており、上部からは触手が数本、蠢いている。地には根らしきものが張られ、その根の周りだけ土の色が違っていた。
「あれが、プラント……」
巨体を見上げ、呟くセタ。プラントはウネウネと、胞子か煙のようなものを噴き出している。
「ひょっとして、不の種があそこから出ているってわけかい?」
バレッタは思わず口を覆い、後退った。
「はい。しかし、我々には女神様の加護があるのでご心配には及びません。人々のためにも、早く破壊しなくては……」
「んなことしたら、種はあちこちに飛んでって余計大変なことになんぞ。妙な気を起こさねえことだな」
スコールは会話を聞いていたのか、口を挟んだ。
「そんな……。ではどうしたら……」
「簡単だ。水と肥料をやんなきゃいい。コイツは勝手に枯れてく」
スコールはまたしても、容易に秘密を明かす。
「本当かよ。何でそんな大事なことペラペラと喋るんだ」
「オレは荒っぽいことと卑怯なことが嫌えでな。どうせお前らが邪魔しに来るんなら、堂々と迎え撃ってやろうと思っただけだ。さて……」
スコールは一行に向き直ると、どこからともなくスコップを取り出し、言った。
「このプラントを賭けて、オレと勝負といこうか、勇者さんたち?」
「勝負? あんた荒っぽいのは嫌いだって言ってなかったっけ?」
マジーナは身構えつつも、すかさず矛盾点を指摘する。
「ああそうだ。だから力勝負じゃなくて別の勝負だ。それは、『育成対決』ってとこだな」
スコールは、周囲にある畑を指さした。




