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王国帰還

 魔獣とカサンドラ。互いに隙を見せればそれが命取りになるとわかっているのか、どちらも微動だにせず、ただ睨み合っていた。


 深い眠りに就くワカバと一緒に、近くの茂みに身を隠すハウは、その様子をただ見守ることしかできなかった。


 やがて、魔獣の方から動きを見せた。突然、身体の向きを変えたかと思うと、後ろ脚で地面を蹴った。舞い上がった土は、カサンドラに降りかかった。


「あ、危ないっ……!」


 ハウの叫びが木霊する。

 カサンドラが土を振り払う一瞬の隙をつき、魔獣は頭のハサミを突き出し、突進してきた。


 しかし、歴戦の経験がある騎士には、小手先の作戦は通用しなかった。

 彼女は土を振り払った後、素早く横へと飛び退き、魔獣の突進を回避。そのまま魔獣の横腹に槍を突き立て、大きな穴を作った。


 魔獣はヨロヨロと苦しむ様子を見せた後、地に伏せて動きを止め、塵になって消え失せた。


「や、やった……カサンドラさん……!」


 安堵の表情を浮かべ、カサンドラに近寄ろうとしたハウ。しかし、カサンドラは大声で言い放った。


「動くな、ハウ殿!!」


「えっ……?」


 ハウの横から、大きな影が向かってきた。突然のことに思考が追いつかないハウを、即座にカサンドラは押し退けた。


 勢いよく転んだハウが視線を上げると、そこには脇腹から血を流した状態のカサンドラが膝をつき、苦悶の表情を浮かべていた。


「あ、ああ……。カサンドラさん!」


「……迂闊だった。後方にもう一体いることを、今の今まで忘れていた。思い出した時には既に遅かったか……うっ」


 背後にいた牛の魔獣は、興奮して辺りを走り回っていた。三人からは離れていってしまったが、いつまた戻ってくるかもわからない。


「早く傷を治さないと……。ああでも、ワカバ君は……」


 近くで騒ぎがあったにも関わらず、ワカバは相変わらず眠っていた。


「ワカバは自然に起きるのを待つしかない。貴殿の力で目覚めさせることもできるかもしれないが、今はアレがないのだろう?」


 ハウの楽器は壊れ、今鍛冶師ヒノコの元で新しいものが作られているはずだった。


「この身体では満足に戦えない。槍も今の衝撃で何処かへ飛んでしまった……。だが、王国はもう目の前だ。せめて、国内へ入ることができれば……かはっ」


 カサンドラは身体を起こし、自力で歩こうとしたが、すぐに倒れてしまった。


「カサンドラさんっ! どうしよう……。ボクが勝手なことをしたばかりに……」


 自らの誤ちを悔いるハウ。そうしている間にも、魔獣の足音は近づいて来ていた。


「うわぁぁぁ! 起きてワカバ君!! 起きて起きて起きてええ!!!」


 ハウは藁にもすがる思いでワカバの名を呼び、その身体を揺さぶる。


「はいっ」


 すると、ワカバは目覚めた。突然のことにハウは戸惑った。


「え、本当に起きた?」


「どうしたの? 何かあった?」


「一体どうして……何でもいいや。お願い、カサンドラさんの傷を治して。早くしないと魔獣が……」


「……酷い怪我。わかった。すぐに治してあげる」


 ワカバは癒しの力で、カサンドラの傷をみるみる治療した。


「かたじけない。これなら動ける。しかし、まだ日の光もないのになぜ……」


「とにかく、今は王国へ急ぎましょう。魔獣に見つからないうちに」


「う、うむ。そうだな」


 夜明けを目前にした頃、三人は王国の入口に到着した。

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