トラに転生
数学者が、猫からトラに転生した。
我輩はトラである。
その前は、猫であった。さらにその前は数学者であった。
ご存知のとおり、我輩の専門は統計学である。大量の数字からなるビッグデータを解析し、意味のあるデータに変換する。
さて、我輩がトラになった理由は、言わずもがな、著者の都合であろう。
我輩は猫として快適な生活を送っていただけなのに、気がつけばトラになっている。甚だ理不尽である。
しかしながら、新しい我輩の生活は、以前と何ら変わらない。
鎖にも繋がれず、豪邸の中に飼われているのである。
雪が降る寒い日でも、我輩は、暖炉の前でゴロゴロとしている。
我輩は、時折、飼い主に連れられて散歩にも行く。
なんと、我輩の飼い主は、トラを散歩させるのである。しかも、我輩は飼い主を背中に乗せることもある。
ペットにトラを飼うものも珍しいが、ペットのトラにまたがるものなどさらに珍しい。世界を探しても数人程しかいないであろう。稀有な飼い主である。
我輩は、自分が猫であった時と何ら変わらない生活に、もちろん不満はない。
ただ、我輩に一つ心残りがあるとすれば、それは缶詰である。
我輩のために買ってもらった、猫がまっしぐらに寄ってくるという缶詰だ。
あと、二つも残っていたのに。
さて、要するに、猫からトラになったくらいでは、我輩の生活に変化はないということだ。我輩はただ、頭の中で論理を組み立て、自分の考えに没頭するのである。