救出
観覧車の直径は、目算で20メートル。
乗り口が二階にあることと、ゴンドラが水平からマイナス30度の位置にあることを計算に入れれば、ゴンドラの高さは、10メートルになる。
そのまま落ちれば、無傷では済まない。
落下までの時間は、質量に依存しない。
1.4秒である。
私は、ライオンだ。
最大80km/hつまり、1秒だと、22メートルで走ることができる。長くは走れないが、この距離なら問題ない。
母親と赤ちゃんが落下するまでに、ゴンドラ直下から、半径30メートル以内の位置にいれるかどうかが、最重要点である。
観覧車の周りには客がいなく、開いていた。
客を気にせず、最大速度に加速できる。
私は、母親の姿をじっと見つめ、さらに足に力を入れた。
私の視線の先で、母親が、ゴンドラから滑り落ちた。もちろん、赤ちゃんも。
落下点までの距離は、30メートル弱。
母親は、自分の赤ちゃんを胸に抱え込み、そして、背中向きに落ちてきた。
空気抵抗を大きくしつつ、床への接触面積を大きくすることで、体への衝撃を分散できる。しかし、このまま地面に落ちても、助かるかどうかは、五分五分であろう。
しかし、その心配はいらない。
私は、間に合った。
私は、母親の背中に自分の背中をぴったりとすりつけるように、飛びかかった。
少し体をひねり、母親を水平方向横向きにはじき飛ばす要領で、体を一旦伸ばし、大きく曲げた。
母親と私は、別々の方向に弾き飛ばされ、地面を転がった。
すぐに私は少し立ち上がり、母親と赤ちゃんの方に目をやった。
母親には多少擦り傷が見えるものの、大丈夫そうである。
赤ちゃんは、母親の手から1メートル先に飛ばされていた。
私は、その赤ちゃんを目で追った。
私が立ち上がろうとした時だった。
赤ちゃんが泣き出した。
私は、安堵した。
 




