観覧車事故
食べて、寝て、頭の中で理論を再構築する。
私の自由気ままな生活に、ある日突然、大きな変化が訪れた。
私がいつものように観覧車を眺めて、観覧車の回転の回転加速度から生じる力と、ゴンドラの揺れ方の関係を計算して、息抜きしていた時のことだった。
突然、観覧車の回転加速度が0になったのだ。
つまり、観覧車が急停止したのだ。
そして、水平からマイナス30度の位置にあるゴンドラだけが、異常に揺れているのが見えた。
そのゴンドラが傾いた。
ゴンドラの中にいた母親らしい女性と、その赤ちゃんが、傾いたゴンドラの扉の方に滑って行くのが見える。
ふと目をそむきかけた瞬間、ゴンドラの扉が開いた。
しかし、母親は赤ちゃんを抱きかかえたまま、扉の枠にひっかかっている。
私は、我に返った。
すぐに助けに行かなければ。
私はブランコ目指して走り出した。
そして、走り出したと同時に、頭の中で計算を進める。
ブランコから柵までの距離。柵の高さ。私自身の体重。
これらの値は、実測値ではなく、あくまで予想だが。
5メートル。2メートル。そして、120キログラムといったところか。
柵までの距離があるので、できるだけ水平距離を稼ぎたい。
ブランコから得られる運動エネルギーを最大にして、飛び出したい。
私の計算によると、ブランコを最大65度になるところまで漕ぎ、40度のところで飛び出せば、柵の頂点にとびつける。
理論物理学者の私が計算したのだから、理論的には大丈夫。
さて、問題は、実際にうまくいくかである。
私はブランコに飛び乗り、必死にブランコを漕いだ。




