名前はまだない。
タイゴンとして育った我輩の人生は至って普通である。
人生ではなく、タイゴン生ではあるが。
我輩は、数学と物理学の両方を両親から学んだ。
さて、諸君らは、我輩が何か事件に巻き込まれて、数学の知識と物理学の知識をうまく使い、事件を解決することを期待しているであろう。
しかし、そんなことはない。
我輩は、そんなことは望まない。我輩は飼い主の持つ大きな豪邸で、家族で仲睦まじく過ごせることを望んでいる。
時に父親と数学の話をし、時に母親と物理学の話をし、時に飼い主とトランプで遊ぶ。楽しいではないか。
我輩は、すくすくと育ち、両親よりも大きな体に育った。
雑種強勢である。
生物学の説明があった方がわかりやすいが。
いかんせん。我が家系は、生物学とは無縁である。
我輩が知っているのは、雑種の第一世代が大きくなる、雑種強勢。
そして、雑種の不適合性である。
我輩には子どもができないかもしれないのである。
だが、そんなことは些細な問題である。
我輩は、この生活を気に入っている。このまま家族と一緒に一生を終えるのだ。
我輩の家族は素晴らしい。
世界で唯一の数学ができるトラ。
世界で唯一の物理学ができるライオン。
世界で唯一の数学と物理ができるタイゴン。
そして、我輩の飼い主は世界一の飼い主である。
なんと、誇らしいではないか。
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幸田遥




