短編集
漆黒に染まる東京の夜を、夜の街で淡々と照らす中。
一匹の蝙蝠がとある病院へと侵入した。
完全に閉まっている病室の窓を、自身の姿を影へと変え、何の障害も無くスルりと。
中は、暗闇に包まれており何も見えない。
だが、蝙蝠は進む。自身に宿された能力によって。
パタパタと羽ばたかせていた翼がふと、止まる。
ベットの横に備えられた椅子に音もなく…止まる。
「………」
カーテンの隙間から漏れ出る光が、蝙蝠と眠り続ける者を照らす。
直後、姿が変わった。
黒く、闇に潜むそいつが、人間へと。
蝙蝠から転じ、人間となる……まるでお伽話に出てくるドラキュラである。
漏れ続ける光がその煌びやかな銀髪、色白い肌、爛々と輝く紅の目に反射する。
「…父さん」
漏れ出た呟き。 理解できない呟き。
ベットの上で点滴に繋がれ、マスクを着用しているのは紛れも無く人間。
決して、人外などでは無い。
だが、その目に迷いは無い。漏れ出た言葉が偽りでない事が十分に解らされる。
一回、目を瞑ったかと思えば、何かを決心したかのような顔つきとなる。
「よし」
その言葉を期に椅子から立ち上がると父と呼ばれた者の首に自身の歯を持ってくる。
「…これでまた、一緒に暮らせるよ」
鋭利に尖った八重歯を首に立てる。
「ッ!」
が、それは叶わなかった。
肩に感じるどこか懐かしく、温かい温もりが自身の行動を遮っていた。
すぐさま頭を引き離し、顔を見る。
先程までとなんら変わらない相貌であるが、一つ大きく違うところがあった。
「と、父さん」
目が開いていたのである。
その様子に驚きを隠せない。ここ三日、開かれている所など見ていなかったからである。
「…い…や…なさ……い…」
マクスによって声が篭り、声の大きさのこともあり殆ど聞こえない。
しかし、人外である彼の耳にはきちんと聞こえたようでその言葉に反応する。
「なん…でだよ…みんなと…暮らすのが…嫌なのかよ」
流れる涙、啜る鼻水、しゃくりでる喉…その音に相まってこちらも上手く聞き取れない。
父は小さく微笑む。まるで何と言ったのか理解しているように。
「ちが……そ…な…ない」
「っ!じゃあ!どう違うんだよ!眷属って形になっても!またみんなで一緒に暮らせる!何で拒むん「私はぁ!」っ!」
父の否定にドラキュラは声を荒げたが、父もそれに負けず劣らずに声を出す。
その声に思わず息を飲む。
「…私はぁ、最後までお前たちの父親でありたいんだよ」
子供に教えるように
子供に怒るように
子供に泣きつくように
声を、今出せる父親としての声を絞り出す。
「納得しなくても良い ただ、最後に父親からの我儘だ」
マクス越しでもわかる、最高の笑顔。
父からの三度目であり、最後の我儘。
「わかった……父さんは、さいっっこうに父さんだったよ」
息子も笑顔で答える。赤く腫れ上がった目元から出る無邪気なそれは完全に父親のものと一致していた。
…………
……
…
波打つ海が地平線を指した時、もうそこには誰の姿も無かった。
どことは言いませんがそこで書かれていた事がエモエモだったので書きました。
正直、ビビってます。
誰か書いて!と書かれていたので誰でも書いていいんだと思うんですけど、それでも結構ギリギリいってると自負しているのでビビってます。 あー怖い。
そんな事はさて置き、ここまで読んでくださった方もそうでない方もありがとうございました。
批判、暴言も全裸待機しながら読ませていただくのでバンバンよろしくお願いします。