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6.森ノ宮の事情_side???

森ノ宮先輩視点です。

それは、新年の挨拶をしに行った時だった。


「お願いがあるんだ」


元から線が細い奴だと思っていたが、久しぶりに見たあいつは冗談抜きに風が吹いたらとびそうなぐらい儚かった。

ごめんね、起き上がるのもやっとなんだと、ベッドから申し訳なさそうに挨拶してくる姿が痛ましい。


「今まで何度か単発で頼んでいた件、長期で頼みたいんだ」

「長期?」

「うん。君の一年、もしくは状態によっては二年をもらいたいんだ」


どういうことだと話を促し、内容を確認する。

聞かされた内容に、思わずしかめっ面をしてしまう。


「……無理だろ」

「そうかなぁ、雪にも協力してもらうから、なんとかなると思うけど」

「雪子にカバーしてもらっても、どうにもならないだろう」


きょとんとして顔しやがって、どう考えても無理があるだろうが。

確かに、顔はそっくりだとも、顔は。

中身が全く持って違うだろうが、お前とオレは。


「学園内だけだから、大丈夫だよ。さすがに父も外の事はいわないよ。ほら、僕っては深窓のご令息って噂じゃない?」

「社交場には殆ど顔出さないレアモンスター扱いだもんな」

「そうそう。見かけた場合はもれなく幸せになれるとか、面白い噂も出てるらしいじゃない」

「ばーか、わざと流させてる噂だろうが」


知ってるよ、と自嘲する顔に、ちくりと胸が痛む。


「悪い。ヘコますつもりはなかった」

「大丈夫、気にしてないから。それよりも、この話受けてくれるでしょ?」


さっきの暗い表情から一転、小悪魔めいた笑みを浮かべこちらの返答を待つ変わり身の早さに舌打ちをしてしまう。


「受けるも何も、イエスの返事しかきかねぇだろうが」

「だって、君が僕のお願いをきいてくれないなんて、まずないもの」


どんだけ、自信家だ。

けっと、悪態をついてしまう。



「はい。彦くんの負けね」



くすくすと笑いながら、お茶の準備をして部屋にやってきた雪子を思わず睨み付ける。


「うるせー」

「ダメよ、彦くん。春から私達、婚約者なんだから、そんな言葉つかいしないで? 優しく甘い台詞がききたいわ」


将彦に擬態するだけでも負担なのに、そちらの問題にも気づき、頭を抱えてしまう。

無理だろう。本当に無理だ。

雪子が婚約者? 勘弁してくれ。

中身と外見がここまで違う女なんて、絶対に遠慮したい。


「あとは、あれかしら。将くんってば全方向に愛想振りまいちゃってるから、女子がわんさか寄ってきて、いっつも学内では囲まれてるわよね」

「それを蹴散らすのが雪は楽しいいんでしょ? わざとやってるのに、その言い方はひどくない?」


……わざと、纏わりつかせてるだと?

女は二、三人でも煩いのに集団で?


「将くんだって、侍らすの面白がってるじゃない。私だって知ってるんだから」

「だって、僕の中身じゃなくて外面だけであんなになってるのがおかしくて、つい、ね」


はあぁ? ちょっと、こいつら本当に何の話してるの?

今、こいつらの学園にいる女子生徒にすっげー同情したんだけど?

性格悪くね? こいつらの方が悪人じゃね?? 乙女の心を弄んでない?


「ん? 彦くんどうしたの、頭なんか抱えて」

「そんなに難しくないから大丈夫だよ? にこにこしてれば、勝手に輪を形成してしゃべってくれるから」

「そうそう。そうしたら、私が蹴散らして終わるから」


あ、でも、と雪子が何かに気づいて、思案する。


「私も将くんの付き添いで、たまに学園に通えないのよね」

「おい、その時は誰が蹴散らすんだよ」


そうよねー。

どうしようかしらねと、雪子が呟いた後、



「手は考えておくから、どーんと任せない!」



と、キラキラの笑顔で返事をした時、なんとか自分で頑張れるように対策しとこうと心に決めた

それはきっと険しい道のりだと分かっていても、そう覚悟するしかなかった。

それほどまでに、その時の雪子の笑顔は嘘くさかったのだ。




なのに、




「はい、この子が、私の代役の船越一香ちゃんです!」


入学式から一週間後、雪子がとある一年の女子生徒をGクラスへと連れてきた。

化粧をして、雪子と並ぶと他のGクラスの面々も驚くほど、船越一香は多智花雪子に似ていた。


「は、はじめまして、船越一香です」


Gクラスという慣れない空間に緊張しているのか、彼女はかみかみの挨拶をしてきた。

本当にこんなんで大丈夫か? と、自分の事を棚上げして心配してしまう。


「森ノ宮将彦だ、宜しく頼む」

「はい、こちらこそ、宜しくお願いしますっ!」


きっちり九十度のお辞儀をしてくる船越一香という少女に笑ってしまう。


「そんなに硬くならなくていい」


オレも、お前と同じ偽物だから。彼女にきこえないように小さく呟く。

Gクラスの面々には俺が森ノ宮将彦の代役だという話は通したが、船越一香にはその情報は教えないことにしている。

森ノ宮家に関わる情報を一般人に流すわけにいかないとの事なので、森ノ宮の末席に名を連ねる人間としては上の意見には色々と思うことはあったが、是としておいた。


雪子が太鼓判を押すだけあって、船越一香はこちらが舌を巻くくらい完璧に多智花雪子を演じてきた。

こちらも負けてはならないと、森ノ宮将彦王子様バージョンを頑張るも、精神的苦痛が大きすぎて胃薬をこっそり飲んでいたりする。

そんな姿を、補佐としてついてくれてる櫻野篤士に笑われるもの日常だ。


「意地っ張り」

「うっせー」


本来は将彦の傍にいたいだろうに、あいつの我儘でこっちに付いてくれてるのはありがたいが、小言が多過ぎる。


「女の子の前では、格好つけたいんですよね。……案外可愛いらしいとこがあるじゃないですか」


女子の間では、たおやかだとか言われているが、俺にいわすとこいつは腹黒眼鏡だ。

涼しい顔で真っ黒い発言しやがるからな。

しかも、その黒さを見せる人間をちゃんと限定してやがる。


「お前だって、そうだろうが」

「当たり前です。男ってそういうもんでしょう?」

「……そうですね」


ダメだ、篤士に勝てるわけがない。火傷しないうちに、早々に白旗を揚げておく。



「森ノ宮先輩ってば、へたれー!」



腹黒眼鏡の次は、その可愛らしい見た目に反し肉食獣な後輩がきた。本当に勘弁してくれ。

Gクラスは雪子を筆頭にキャラが濃すぎる。

今いる面子もだが、現在海外ツアー中とか、世界大会とかで席を外してる他の奴らも含めて本当に嫌になる。

何が優雅なGクラスだ。オレからしたら、ここはサバンナだっつーの。


「誰がへたれだよ」

「え? 僕の目の前で胃薬飲んでる先輩ですけど? あんまり飲んでると、逆に胃があれちゃうよ」

「御忠告痛み入ります」


しっしっと、早くどこかに行けと手で追いやる。


「ちょっとちょっと、その態度ひどくない? 僕が何したっていうのさ」

「うっさい、ケダモノ。船越に色目使ってるだろうが」

「色目ぇ? 何いってるの、僕は単にいっちゃんに懐いてるだけですー。森ノ宮先輩と違って中途半端な事してませんー!!」

「は? どういう意味だそれ」


月見里の余計なひと言に、眉間のしわがさらに深くなる。


「気付いてないの? うっわ、面倒くさい。あっくん、これはイエローカードもんですよ」

「おや、レッドカードじゃないんですね」

「出したいけど、出すほどじゃないし」

「それは手厳しいですね」


じゃれ合う篤士と月見里の側を離れ、窓際のソファーで寛ぐ。

多少は慣れたとはいえ、やっぱり誰かの代わりをするというのはしんどい。

それが自分と全く違う性格の人間ともなれば、本当にもう、ぐったりしてしまう。

最近何が一番しんどいかというと、


女子生徒に絡まれ、船越に助けてもらう度に、何でこいつ自分で裁けないのに女子を纏わりつかせてるの?


という船越の視線である。

分かる。本当に、分かる。

オレも自分のことでないのなら、そう思うし。


船越と違って、雪子本人は嬉々として蹴散らしている。

今日は人数多くて楽しかったわーとかきく度に、イラッとしてしまうのはオレが人間ができてないからじゃないと思う。


雪子に趣味以外で何の意味があるのか、確認したことがあるが、



「パフォーマンスかしら。森ノ宮のご子息には嫉妬深い婚約者がいるっていう」



ふふっと、不透明な笑みを浮かべただけだった。

雪子なりに将彦を守る一手として、わざとやっているのは分かる。

だから、将彦も楽しいよねっと乗っかって付き合っているのも。

分かるけど、それが自分に関わるともなると、もやっとしてしまう。


したくてしたいわけではない。


それを声を大にして、船越に訴えたいが、それができないのが辛い。



なら、それを逆手にとって、オレはオレなりに今の状況を楽しむしかない。

と、船越をからかって憂さを晴らしていたのだが、


「……藪蛇だった」


月見里の言いたいことも本当は分かってるさ。

認めたくないが、確かに中途半端だとも。


船越の周りにいる、他の男の存在が気に入らない。

幼馴染に腐れ縁の同級生だ?

腹黒眼鏡に、ケダモノな後輩だけでもうっとおしいのに。



自分の中にある、認めたくない感情をどうするべきなのか、まだ、オレの中に答えは出ていない。







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