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墓穴を掘る男の話

作者: 秋山 そら

自分の墓を掘る男の話


 ある青年は、砂漠の国に生まれた。男は小さい頃からある夢を抱えていた。男には夢でも他人から見ればそれは絶望に見えただろう。

男は、歳を重ね自分の家を建てた。しかし、男は今まで10年近く金を貯めて建てた家など見向きもせずにその庭にスコップで穴を掘り始めた。

「ようやく夢を叶えられる」

男はわくわくした衝動を抑えきれず、親友にその心境を語り始めた。

「ようやく夢を叶えられるってお前が小さいころから話していた墓を掘る話か、まったくお前は村一番の変わり者だよ」

「そうかい?僕は生まれたころからほかの人には頼らずに人生の終焉を飾る居場所が欲しいのさ」

「普通ならばそれは暖かい家庭とかお前がようやく建てた家のほうだと思うけどな」

「家庭は、家庭で、悪くはないし家も良いとは思ったことはあるよ。でもさ、人間最後は骨になって土に埋められるそれは俺ら貧困層でもアラブの裕福な貴族でも一緒さ」

「まぁな」

「そしたら、俺は人生をかけて立派な墓を建てると決めたのさ」

「お前は昔から結論と過程をズラして考えるよなぁ」

「そうか」

「ちなみに墓の完成予定はいつなんだ」

「それは俺の人生が終わるときさ、あと何十年かかるかわからない」

「気が遠くなる話だなぁ」

男は、スコップを使い一生懸命墓を掘り始めた。最初は近所の村の住民も珍しがって様子を見にきたり、差し入れをもって来たりしたが次第に人は飽き来なくなった。男が墓を掘っている、それが村の中では当たり前の光景になってしまっていた。気づけば10年が経っていた。

穴は、大きく深くなり男が建てた家を丸ごと飲み込んでしまうような巨大なものになっていた。男の親友は、家庭を持ち妻と子供と共に男の様子を見守り続けた。

「おじさん何してるの」

親友の息子が何をしているのかと穴の中に入ってきた。あまりに穴が深くなり過ぎたので梯子をかけて中に降りるような仕組みになっていた。

「おーい、気を付けて降りて」

親友の息子は男に聞いた。

「おじさんこれってどれくらい掘ったの」

「そうだなぁ10年だな」

「じゃあ、おじさんは墓穴堀りのプロだね」

さらに20年の月日が経過していた。

穴は深く大きくなり地球の反対側にまで届いてしまうのではないかを思えるほどの大きさになっていた。

親友の息子も大きくなり今や役人になり立派に成長していた。親友も白髪交じりに蓄えた髭がどんどんと伸びて大きなお腹がさらに貫禄を出していた。

穴が大きくなりすぎて男は穴の中にさらに自分の家を建て住んでいた。

 親友が久々に男の家を訪ねた。男は親友と食事をした。

その食事から数日後に、砂漠の街に大きな雷雨が訪れた。その日、男はこの前の食事のお礼にと親友の家で食事をしていた。穴の家に戻るにも夜は危ないからと親友が家に泊めてくれていたのである。夜から続いたその雨は初めのうちは村人も喜んだが次第に強さを増し、次の日には、砂漠の国の1年間の降水量に匹敵する雨が降った。隣の村では洪水が起き村の一部が流されたという噂も聞いた。

 4日目、やっと晴れ間が見え乾燥した熱風と灼熱の大地といういつもの天気が戻ってきた。

男は自分の家と墓が気になり4日ぶりに家のある場所に戻った。ラクダを降りると見たことのない光景が広がっていた。そこには一面の水が広がって湖のような光景に代わっていた。

池の周りには砂漠の各地から水を求めたカバやラクダ、オオカミなど多くの動物が集まっていた。

男は、30年かけて掘った穴を一瞬のうちに失い言葉も失い大きく膝を地面につけ倒れこんだ。

その背中に後ろから親友が肩に手を当てて笑いながら言った。

「よかったじゃないか。遠い東の端の国のことわざに自らの身を亡ぼす行為を自分ですることを墓穴を掘るというらしい。お前は墓穴どころかこんな立派なオアシスを作ったじゃないか」

男は振り向き親友の顔を見て何か考えた後に言った。

「そうだな、幸い元の自分の家は無事だし新しい商売でも始めるか」



その後、男はの近くに宿を作り商売を始めたところ大繁盛し、村全体も活気にあふれ次第に村はその国一の大きな町に発展したという。


終わり。

 

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