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つまる所、彼の普遍性

作者: 神保広報局

 

 友達と写真を撮った時に彼は

「ごめん、ちょっと目閉じじゃったもう一枚」

 とほぼ必ず言ってくる。気にするほどではないと思うのだが、その細かな部分が彼は気になってしょうがないらしい。勿論大した手間ではないので、僕と川西健吾ことカワケンは大きな桜の樹の下で一緒にカメラに向かいピースをした。



 僕はあまり友達付き合いが上手な方ではない。いつも将来のことが不安でというタイプの人間ではない。赤点を取らない程度の点数を定期試験で取れればいいし、休みの日はスマホゲームをいじったり本を読むため図書館にと言った学生だ。

 カワケンの話をしよう。彼はバスケ部で運動が大好きで陽に当たってないと気が済まない人間だ。残念ながら小学校からの腐れ縁で、無理にスポーツを勧めてこないあたり僕好みで、一緒にいることが多い。


「大学で何かやりたいことある?」と彼に聞かれた。僕は変わることなく本だけ読んで静かに過ごしていたい、と願ったものの、残念ながらそれで食べていけるほど、文才に優れているわけではなかった。


とりあえず「留学」と無難で、将来なんとなく役立ちそうな印象で言ってみた。「カワケンは推薦?」と話の流れで聞いて見た。彼はバスケ部で今や主将とクラス委員を兼任している。図書委員長止まりの自分とはえらい違いだった。


「いや、俺も一般で受けてみようと思う。自分がどれくらいの力なのかを試したい。」と彼らしい気に食わないかっこいい面でずいぶんかっこいいことを言われてしまった。


小学校の時はお互い我の道を進んでいた。僕はひたすら本を読んで、他に誰が読んだか分からない、教科書より重たい本を持って帰ったりしていた。カワケンは実技体育の時間に本領発揮しているのか、それ以外の時間は突っ伏していたり、ノートに落書きをしている印象しかなかった。


「俺らって結局は檻のような場所で誰が作ったか分からないようなカリキュラムの上を走ってきたよな」


そういう考えは中学生の頃本を読んでて気付いてしまった。僕はあまり勉強熱心ではなかったため、なおさら気づきづらかったのだが、両親が厳しかったり、いい成績を取ることが当たり前になっている友人たちを見て気付くべきだった。


「全員がそう言うわけではないけど、実際奴隷のように何かのために頑張らなきゃいけない人がいるのも事実だと思う。」


本音は驚くほど簡単に出てきてしまった。「いい大人になるため」と言うものと「やりたいことをやるため」が違うことに僕は少し早く気がついた。具体例が近くにいたから。カワケンだ。

 時折「バスケ一緒にやらない?」と誘ってきた彼が中学に上がり「宿題一緒にやらない?」に変わった時はちょっと驚いた。小学校から明確に「スポーツ関係で働くことが夢」としていた彼は、「運動だけではなれない、勉強もいっぱいしなければ駄目だ」と家族に言われたのか自分で気づいたのだ。


「俺も留学したいな。外の世界で身体いっぱい動かして、将来の夢に近づきたい。」


カワケンの魅力だと思った。人の話を聞いて、自分に消化することが出来る。同時に檻を壊して、ここから逃げると言う意志も感じた。本当に彼は変わったと思った。


友達を見て自分に重ねてしまいそうになった自分は、本当に将来彼にふさわしい友達になることができるのだろうか。今はただ来年の春も彼と桜の樹の下で写真を撮っていたいとしか思えなかった。




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