赤壁の戦い ~軍議でいいことを言うと座布団がもらえる~
周瑜「では次のお題です。水上戦は、矢が重要になりますなあ。しかし、呉軍にはいま矢がぜんぜん足りていません。そこで皆さんは『10日間で10万本の矢を調達します』と私に報告して下さい。そこに私が『どうやるんです?』とうかがいますので、続けていただきたい」
程普「10日間で10万本」
周瑜「そうです」
(颯爽と挙手する張昭さん。)
周瑜「はい、張昭さん早かったどうぞ」
張昭「降伏すれば、矢など不要です」
周瑜「張昭くんにはお題にそって回答していただきたい。そこの議論はもう終わっているんですよ。魯粛くん、座布団ぜんぶもってって。はい、歩シツさん」
歩シツ「10日間で10万本の矢を調達します」
周瑜「どうやるんです?」
歩シツ「1日で1万本調達します」
周瑜「割っただけじゃないの。手をあげるのが早けりゃいいってもんじゃない。はい、虞翻さん」
虞翻「10日間で10万本の矢を調達します」
周瑜「そんなのいったい、どうやるんです?」
虞翻「呉の職人をかきあつめて、早急に矢を作らせます」
周瑜「それで間に合うんだったら、軍議なんか開いてないんですよ。それに、必要なのは矢だけじゃない。なにしろ戦には、いろいろとお金がかかります。だから、なるべくコストをかけずにやりたいんです。そのへんも加味して、新しいアイデアを考えてください……はい、諸葛瑾さん」
諸葛瑾「10日間で10万本の矢を調達します」
周瑜「どうやるんです?」
諸葛瑾「矢の生産工場の生産性を高めます。それも、追加コストなしで」
周瑜「おっ、くわしく聞きましょう」
諸葛瑾「まず呉国の矢の生産工場は、工程ごとの分業制になっています」
周瑜「ええ、工程ごとに担当チームを分けて、終わったら次のチームに流していく、流れ作業方式ですね」
諸葛瑾「そうすると、チームによって生産量にばらつきができます。このばらつきを最小化することで、生産性を最大化できるのです。このばらつき……つまりボトルネックを、適切にかつ動的に見極め、そこに人員を配置していく必要があります」
周瑜「話が難しいですね。ばらつきはどうやって見極めるんです?」
諸葛瑾「はい、チームの前に積まれている仕掛品の数で見極めます。前工程の仕掛品がたまっているチームは、人が不足していることを示しています。逆に、仕掛品の在庫がないチームは、人が余っていて遊んでいることを示しています」
周瑜「なるほど、おもしろい。単純に仕掛品が積まれているチームに人を集中することで人員配置の最適化を行い、生産性を高めようってことですね」
諸葛瑾「おっしゃる通りです」
周瑜「追加コストをかけずに、というところがいいですね。しかし現状の呉国の矢の生産性だと、10万本には遠く及ばないので、これだけだと難しそうです。でも、これはこれでやりましょう。採用。座布団2枚!」
諸葛瑾「ははっ。ありがたく頂戴致します」
周瑜「他のアプローチも考えてみましょう。自国で生産する、という発想から離れてみてもいいですね。おっ、黄蓋さん」
黄蓋「10日間で10万本の矢を調達します」
周瑜「そんなのいったい、どうやるんです?」
黄蓋「どっかの戦場にいってきて、落ちてる矢を拾ってきます」
周瑜「なるほど。そんな都合のいい戦場、近場にないんじゃないかというのはありますが、発想は面白い。座布団1枚!」
黄蓋「よっ!」
周瑜「いいアイデアがあったら、相乗りしてもいいですよ。おっ。ゲストの諸葛亮さん」
諸葛亮「では、黄蓋さんのアイデアに相乗りします」
周瑜「いいですね」
諸葛亮「10日間で10万本の矢を調達します」
周瑜「そんなのいったい、どうやるんです?」
諸葛亮「小舟に藁人形を載せて、曹操軍に夜襲をしかけます」
周瑜「小舟で曹操軍に? あっという間に壊滅しそうですが」
諸葛亮「いえ、夜襲はあくまでフェイク。曹操軍は夜襲をしかけられたと思い、小舟に矢の雨をふらせるでしょう。するとどうでしょう」
周瑜「アッ……!」
諸葛亮「藁人形に、大量の矢が。矢、ゲットです。戦場がなければ、作りに行けばよいのです」
周瑜「これはすごい……これはすごいアイデアですよ(客席に拍手を煽る)。魯粛くん、座布団3枚!」
(魯粛、座布団を重ね、その枚数を数えはじめる)
周瑜「んん……? あっ、諸葛亮さん、座布団10枚です!」
諸葛亮「座布団、フゥー!」
周瑜「座布団を10枚獲得しましたので、豪華景品をプレゼントいたします。諸葛亮さん、おめでとうございます。景品はこちら。『赤壁を小舟で巡る、夜間クルーズの旅』です」
諸葛亮「イエス! ……って、おい。私に小舟乗って行ってこいっていうのかよ!」
周瑜「また次の軍議でお会いしましょう」
諸葛亮「おい」
(一同拍手)