仲の悪い二人で交互に一つの小説を書いた結果
中学の国語教師をやっている俺は1年生たちに変わった課題を出した。
『一つの短編小説を二人で交互に書いて提出せよ』というものである。
例えばA君が1つ目の場面を書いたら次はB君が2つ目の場面を書く。すると今度はA君が3つ目の場面を書いてB君が4つ目の場面を書く、といった風に最後まで繰り返していくのだ。
この課題は二人の協調性があって初めて良い物が書ける。本当なら仲の良い二人が組むべきなのだろうが、一組だけとても相性の悪い二人がいた。
一人目は片桐君。せっかちで潔癖症で怒りやすく、みんなが彼とペアを組むことを避けたため残り物になった。
もう一人は輪島君。あまりにもマイペースでゆっくりしすぎていたため、彼がペアを探し始めたころには既に授業が終わっていた。
彼が度を越えた下ネタ好きだというのも残り物になった一因だろう。
***
俺は出来上がった課題に目を通していた。書くことに慣れていない生徒も多く、つたない文章も目立つが、中には目を見張るほどしっかりした文章を書く子もいる。そして何より二人で書いている事で予想の出来ない展開に物語が動いていく作品も多く、読んでいて非常に面白いものだった。
そして最後に提出期限ギリギリで出された小説に手を付ける。
そう、「輪島、片桐ペア」の作品である。
〇片桐パート
題名 紅の女騎士
昔々、世界は強大な魔王に支配されていていた。魔王軍は人々に対して略奪と暴行の限りを尽くし、人類は滅亡の危機に瀕していた。
そんな時、一人の女騎士が魔王軍の前に立ちはだかった。彼女の名前はイザベラ。名門セイクリッド家の出身で、魔法、剣術ともに秀でており、誰も抜けずにいた伝説の剣「エクスカリバー」を抜いた神に選ばれし騎士として人々の期待を集めていた。
≪なるほど、世界観は中世ファンタジーか。このあと輪島君はどうつなぐんだろうか≫
●輪島パート
そんなイザベラには好きな人がいた。
≪なんだ、ここから恋愛モノに引っ張るつもりなのだろうか?≫
ワジマという美しい少年である。
≪おっと自分を出してきたぞ。しかも美少年て≫
イザベラはワジマのワジマってるところに惹かれた。
≪ワジマってるって何やねん≫
「私、ワジマ君のためなら世界がどうなっても構わないベラ!」とイザベラは言った。
≪語尾が田舎っぺっぽいな!≫
「僕も、イザベラの事が好きジマ!」
≪語尾に名前を付けないといけない決まりでもあるのか……≫
と、ワイモスンペは言いました。
≪誰なんだお前は!?≫
〇片桐パート
≪ここから片桐君か。あそこまで世界観をぶち壊されたあとに彼がどう修正するかは見ものだな≫
ワジマは死んだ。
≪瞬殺された!?≫
魔王軍によって捕らえられ、殴る蹴るの暴行を受けたあとに「ワジマァー」と叫んで死んだ。
≪どんな断末魔だ!≫
正気に戻ったイザベラは魔王と渡り合えるようになるための鍛錬を再開した。
彼女の教育係を任されていたフォードは幾多の戦争を生き抜いた歴戦の戦士であり、王国一の剣の使い手だった。彼は気難しく短気な所はあったが、何より重責を背負ったイザベラの事を気に掛けていた。
フォードの指導は厳しかった。しかしすべては魔王と対峙しても負けないため、殺されないよう屈強な戦士に育てるためであった。
●輪島パート
今日もフォード教官の激しい叱責の声が聞こえてきます。
「おいイザベラ! お前それでも立派なリンゴの木になれるとでも思ってるズラ!?」
≪リンゴ?!≫
フォードはパンツを履きながら言いました。
≪フルチンで怒ってたのこの人!?≫
〇片桐パート
≪……随分早めにスイッチしてきたな≫
先ほどまでの二人の会話はワジマが死ぬ前に見た妄想である。
≪全部ワジマに押し付けた!≫
そしてついにその日はやってきた。イザベラを含めた討伐隊が魔王城に向けて出発することになったのだ。
選ばれたのは少数ながら精鋭ばかり100名ほど。隠密に魔王城に近づき、決死の突撃でイザベラを魔王の元に送り届けるという作戦だった。
●輪島パート
出発の際フォードがイザベラの隣にやって来た。そして咄嗟に背筋を伸ばすイザベラに微笑みかけ、小さな声でこう言った。
≪あれ? まともだ≫
「実は俺もワジマのことが好きだったんだ」
≪なにカミングアウトしてんだこいつ!≫
〇片桐パート
魔王軍との戦いは凄惨を極めた。
魔王城に近づく前に魔物に見つかってしまい、討伐部隊の多くが殺され、イザベラも捕らえられて魔王城に連れ去られてしまった。
≪なかなかハードだな。片桐君だけで書いたらガチガチのダークファンタジーになるんだろうか≫
●輪島パート
捕らえられたイザベラは
「くっころ! くっころほぉい!」
と叫んだ。
≪テンションたっか!≫
〇片桐パート
≪変わるの早っ。随分二人で争った形跡が見えるな≫
一方その頃、イザベラを助けるために一人の男が魔王城に馬を走らせていた。そう、フォードである。
彼はモンスター達を蹴散らしながら進んだ!
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
≪おお!≫
●輪島パート
と、叫びながら下半身を露出させるフォード。
≪台無しだ!≫
フォードの裸を見たモンスター達はそのあまりの汚さに絶命していきます。
≪チンコ強ぇ!!≫
そうしてフォードはイザベラが囚われている場所までたどり着きました。
≪フルチンのままでいいのか……≫
〇片桐パート
おい、いい加減にしろよ輪島。そんなにフォードを変態にしたいんなら勝手にしろ。あとはお前が全部書いて提出しろバーカバーカ。
≪ああっ、ついに片桐君がキレちゃった≫
●輪島パート
と、言いながら魔王を倒すワジマ。
≪サラッとワジマ復活してる!?≫
こうして世界に平和を取り戻したワジマは新しい魔王になりましたとさ。
完
≪悪夢だ!≫
輪島、片桐ペアの作品の評価は随分と迷ったが、仲の悪い二人が何とか一つの小説を書き上げ、提出期限も守ったという事でB評価をあげることにした。
おわり
お読みいただきありがとうございました!