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とある夏の物語  作者: 六条
3/4

Days2:夕方、憩いの封魔宅にて。

「そういえば今日から夏休みだったんだねー」

ソファーに上体をゆったりともたれさせながら、「夏休みのレジャー大特集」という番組を見ながら、ポテチを食べながら、スマホをいじりながら、イオは唐突にそんなことを言った。……夏休みを忘れていた人間の体勢ではないね。

オレは流しで昼食に使った食器を洗いながら、「そうだねぇ」と返した。

「うえ? うえええっ!」

このすぐ近くのアパートで一人暮らしをしているイオは、同じくオレが一人暮らしをしているこの一軒家によく入り浸っている。というか、今は使われていない部屋と使われていないベッドが既にイオ用になっていて、アパートの方はイオの荷物置き場という感じが否めない。

「同棲」と終業式に芳原先輩がからかって、イオは否定していたけれど、部活でこの生活が話題に上ろうものなら、オレは命からがら逃げ延びるのに必死だよ。

とはいえお互い幼稚園からの幼なじみで、その頃から互いの家には出入りしていたのだし、こうして年頃になったからといって深く思うところがあるわけでも……いやまあ、無いとは言わないけれど。まあまあ。

食器を拭く作業に移りつつ、オレは急に静かになったイオの方に視線を向ける。……あれ、いないぞ。さっきまでソファーに座っていたのに。どこに行こうとイオの自由だけれども。と思っていたら、

「ちょっと!」とソファーの向こう側、壁との間からにゅっと白い腕が伸びた!

「……な、なにしてるの。そんなところにもぐって」

作業を続けながら腕の動向を見守る。

「もぐってるんじゃないわよ!」言いつつ、腕はがっしりとソファーの背もたれを掴み、「ふ…ぁいとぉぉぉぉぉぉぉ!」と某栄養ドリンクのCMのような掛け声と共に、イオの頭が出てくる。髪の毛ぼっさぼさですが。

よじよじと腰掛け部分に戻り、「ふう」と一息。オレのお下がりのシャツ、ほこりだらけなんですが。

「ソファーから落ちたの! 頭からゴロンってなって、狭くて、ホコリだらけで! ちゃんと掃除してよね封魔!」

びしっと指をさされ、怒られた。

「君が毎日朝から晩までそこを占領してるっていうのに、どう掃除しろと? だって君、掃除機の音がうるさいって怒るし」

オレの反論に、イオが「うぐ……」と言葉に詰まる。

「と、とにかく、愛する彼女が転落したのになんであんたは呑気に皿吹いてるの! 助けてよ!」

助けて……イオに似つかわしくないセリフナンバーワンだと思う。

「なんていうか……愛ゆえに自立を願っているんだよ。そんなわけでちょっとお買い物に行ってきてね」

「文脈がおかしい!」

君に言われたくないぞー。

カウンターに置いていた広告を覗き込みつつ、本日の夕食を考える。ジャガイモとニンジンが特売だから、カレーか肉じゃが……カレールー余ってるからカレーにしようかな。今夜はライス、明日はうどんにしてしまおう。

ついでに終日人様の家でくつろぎにくつろいでいる自堕落娘を、一日一回は外へ出そう。歩いて五分と少しのスーパーではあるけれども。

天国の父さん、母さん。北海道のイオのおじさん、おばさん。オレは既に厄介な一人娘を持ったような心境です……。

「あんた、彼女をパシるっていうのっ?」

「こんな時だけ彼女ぶるんじゃありません。まーったく、これだからワガママ娘は……」

「あたしのかーさんか!」と犬歯を剥きつつ、イオは素直に、オレが差し出した財布と買い物リストを受け取った。ちゃんと買い物には行くらしい。食材が無いと夕食が作れないし、そうなると空腹で辛いのは自分だからだろう。

イオは服のホコリを払い、髪をまとめ直し、「じゃあいってきまーす」と玄関に向かっていった。

「はいよいってらっしゃい。寄り道はダメだからね。不審者がいたらフルボッコにせず気絶にとどめて交番にね」

「はいはいはい、分かったわよかーさん」

オレのなけなしの食費入りの財布を、ズボンのポケットに無造作に突っ込んだことは……とやかく言うまい。苺エプロンのオレはにこやかに暴れん坊娘をスーパーへと送り出したわけだけれど……


まさか、あんなことになるなんて!

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